※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

大阪の京阪沿線を中心に、地域住民から3世代にわたり愛される焼肉店を展開する株式会社エム・ジー・コーポレーション。同社は大型の郊外型店舗を展開し、タレやキムチに至るまで全て手作りにこだわる品質で、顧客との固い信頼関係を築いてきた。祖父が創業し、父が育てた事業を受け継いだ代表取締役の東正成氏。同氏は業界の慣習に疑問を投げかけ、社員の労働環境改善にいち早く着手するなど、数々の改革を実行してきた。伝統を守りながら未来を見据える同氏に、その経営理念と今後の展望について話を聞いた。

お客様の感謝が原点 アルバイトで知った飲食業の喜び

ーー貴社に入社前後の経緯についてお聞かせください。

東正成:
大学時代に父が経営する焼肉店でアルバイトをしていました。働く中で、お客様から直接「ありがとう」「美味しかった」という言葉をかけていただき、接客する楽しさを知りました。それが、飲食業界へ興味を持った大きなきっかけです。

他の会社で修業することも考えました。しかし父から「中途半端に外で勉強するよりも、うちで学んだらどうだ」と助言され、社員として経験を積むことにしました。その時点では、家業を継ぐことは全く考えていませんでした。

アルバイト時代はずっとホールを担当していましたが、社員になったタイミングで調理場に入りました。それまで調理経験が全くなく、包丁の握り方から学ぶ完全なゼロからのスタートでした。特に名物の手打ち冷麺づくりは、大変ながらも自分の成長が日々実感でき、当時楽しかったことを覚えています。

「人」こそ礎 売上減を覚悟で実行した労働環境改革

ーー経営を担う中で、ターニングポイントとなった出来事はありますか。

東正成:
30代を過ぎた頃から、実質的に会社の経営の大部分を任せてもらうようになりました。大きな転機は、社員の労働環境を改善しようと決意したことです。ある時、現在専務である弟と話しているときに、当時の労働環境について「このままではいけない」と話し合ったのが、改革へ踏み出すきっかけとなりました。

具体的には、まず休日を増やすことから始めました。当時の業界では当たり前だった月6日休みを、月8日に変える決断をしました。そして、最初の1年間は売上が減ることを覚悟の上で、定休日を設けるなどして対応しました。父に自分の考えを伝えたところ、「任せる」というスタンスで後押ししてくれました。

ーーコロナ禍での影響はいかがでしたか。

東正成:
幸いなことに、弊社はランチ営業が非常に好調で、経営的に苦労することは全くありませんでした。むしろ、普段は日々の営業に追われて手が回らなかったことに時間を充てられました。たとえば、店舗の清掃や社員教育などにじっくりと取り組んでいます。

私にとっては、時間に余裕ができたことで、会社の足元を見つめ直す良い経験ができたと捉えています。

生え抜き人材の育成こそが会社の成長を支える基盤

ーー改めて、貴社の事業内容と特徴についてお聞かせください。

東正成:
弊社では、明月館グループとして大阪府下で4業態の店舗を展開しています。高級焼肉「明月館」、韓国炉端「明月」、焼肉店「がんてつ」。そして2014年7月に新しくオープンした焼肉・マグロ料理の「焼肉彩苑 がんてつ」です。

郊外の幹線道路沿いを中心に、駐車場を完備した大型店舗を展開しています。そのため、お子様連れの3世代のご家族にも気軽にご利用いただけます。

ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか。

東正成:
弊社は「地域に根ざし、家族の思い出を紡ぐ焼肉レストラン」というコンセプトを大切にしています。そして、長い歴史の中で築き上げてきた、お客様との信頼関係が一番の強みです。

また「何を食べても美味しいお店」であることも重視しています。焼肉のタレやキムチ、スープに至るまで、全て店内で手作りすることにこだわっています。店舗の規模が大きいため、質の良い肉を安定的に仕入れられる点も、他社にはない強みだと考えています。

ーー採用や人材育成では、どのような点を重視していますか。

東正成:
基本的にキャリア採用は行いません。高校を卒業した18歳の人材をゼロから育てる「叩き上げ」の方針を貫いています。現在、役職に就いている社員の約9割が、新卒入社で現場で経験を積んできた生え抜きのメンバーです。地方から出てくる若者たちが安心して働けるように、社員寮も完備しています。

働きやすい環境づくりとして、労務管理の体制強化に取り組んでいます。タイムカードは1分単位で管理し、サービス残業をなくす取り組みを進めています。今後は本部で管理体制を構築していきたいです。

大阪で一番誇れる会社へ 従業員の幸福を追求する覚悟

ーー今後の展望についてお聞かせください。

東正成:
5年から10年に1店舗程度の、無理のない範囲での出店を考えています。最近では守口市からの依頼がきっかけで、ふるさと納税の取り扱いを始めました。自社のECサイトも開設しましたので、店舗営業と並行して力を入れていきたいです。

また、会社としては飲食業界のイメージをもっと良くしていきたいという思いが強くあります。そのためには、給与や労働時間といった待遇面を改善し続けなければなりません。会社としてしっかりと利益を出し、それを従業員に還元していく。そのサイクルをつくり、継続していくことが私の使命だと考えています。

ーー最後に、社長が目指す会社の理想像をお聞かせください。

東正成:
「大阪で一番の焼肉屋」になることです。これは売上や店舗数の規模の話ではありません。従業員一人ひとりが「この会社で働いているんだ」と胸を張って誇れるような会社になるということです。周りの方々から「あの会社で働いているとは、すごいね」と言っていただけるような、誰もが認め、誇れる会社にしていきたいです。

編集後記

「大阪で一番」という言葉に込められた、従業員への深い思いやり。売上減を覚悟で労働環境改革に踏み切った決断力。伝統の味を守る手作りへのこだわりと、未来を見据えたDXへの挑戦。東氏の言葉の端々から、老舗の暖簾を守りつつも、時代の変化にしなやかに対応する強い意志が感じられる。「従業員の幸福なくして会社の成長はない」という信念が、世代を超えて愛される店づくりの礎となっているのだろう。同社の挑戦は、飲食業界で働く人々に大きな希望を与えるに違いない。

東正成/1983年大阪府生まれ、2003年桃山学院大学中退し、株式会社エム・ジー・コーポレーション入社。2022年に同社代表取締役社長に就任。大阪外食産業協会で副会長を務め、大阪関西万博にて民間パビリオンの運営に尽力している。