
冷凍・空調設備の専門家として、365日自社対応のメンテナンス体制を強みとする株式会社中部テクノ。その根底には「仕事は困った人を助けることからしか始まらない」という創業時からの変わらぬ信念がある。かつて1人で社内のあらゆる役割を担い、猛烈に働き続けた代表取締役社長の山口雅樹氏。社員にも過酷な労働を強いてきたが、ある経営者のひと言をきっかけに、社員の幸福を追求する経営へと大きく舵を切った。会社の成長と社員の幸せを両立させる、その変革の軌跡と未来への展望に迫る。
家族への想いから始まった事業継承 1人5役を担った壮絶な日々
ーー貴社に入社された経緯をお聞かせください。
山口雅樹:
高校生の時、両親が現在の事業を行っていましたが、当時はまだ規模が小さく、私は事業とは全く関係のない分野に興味を持っていました。街のデザインや都市計画を学びたく、大学へ進学するつもりだったのです。
ところが、高校3年生の時に両親の会社でトラブルが続き、母が精神的に参ってしまっている状況に陥りました。「母を守りたい」という思いで、夜間大学へ通いながら弊社で働くことを決意したのです。当時は人材が著しく不足していました。そのため、営業、積算・見積もり、工事管理、メンテナンス、図面作成という5つの役割を1人で担う必要があったのです。結果として、朝5時から深夜2時までひたすら働く毎日でした。
ーー社長就任の経緯についてもお聞かせいただけますか。
山口雅樹:
入社してからは、とにかくがむしゃらに働いていました。そして30歳になった時、父から「5年後に社長を交代する。社長をやりたいなら自分で勉強しろ」と言われます。事業を継ぐと決めた際、父からさらに「このまま4〜5人でやっていくか、大きな仕事をする会社にしたいか、自分で決めなさい」という言葉をかけられました。この言葉をきっかけに、私はもっと大きな仕事がしたいと考えるようになり、考え方も変わっていったのです。
「社員が辞める会社」からの脱却 幸福を追求する経営への大転換
ーー会社の規模を大きくする上で、どんな課題がありましたか。
山口雅樹:
会社を大きくしようとしても、当時は過酷な労働環境だったため退職者が後を絶たず、なかなか成長しませんでした。それでも私は、「社員が辞めていくのは体力がないからで、仕方がないことだ」と思っていました。
その考えが変わったのは、ある勉強会である社長に言われたひと言がきっかけです。「あなたの会社では働きたくない。社員が本当にかわいそうだ」と。この言葉で、自分の考えが間違っていたと気づきました。
ーーその後、どのような改革に取り組まれたのですか。
山口雅樹:
まず最初に取り組んだのが、分業制の導入です。それまで1人で5つの役割を全てこなすのが当たり前でした。そこで、工事、設計、メンテナンスなど、業務ごとに専門部署を設置。しかし、導入当初は「なぜ自分たちが他人の案件まで手伝わなければいけないのか」と大きな反発がありました。すぐに変えるのは難しかったため、部署間で協力し合いながら、少しずつ働き方を改めていったのです。
ーー結果、働き方はどのように変わりましたか。
山口雅樹:
以前は月100時間を超える残業が当たり前でしたが、直近では月平均14時間まで削減できました。大切なのは、社員が幸福を感じながら働ける環境をつくることです。その環境の中で社員一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮し、お客様に貢献することが重要だと考えています。
そのために必要なのが、互いを思いやる心と精神的な「ゆとり」です。この「ゆとり」とは、漫然と時間を過ごすことではなく、良い仕事をし幸福であるための、いわば「遊び」の時間です。この「ゆとり」を生む環境を整えることが、私の役割だと考えています。
創業理念を体現する365日対応のメンテナンス体制

ーー貴社の事業の特徴と強みを教えてください。
山口雅樹:
弊社は、大型の冷凍冷蔵倉庫や物流センターといった設備を専門としています。これらは、食品の鮮度を保ちながら生産者から消費者へ届ける仕組み(コールドチェーン)を支える重要な役割を担っています。低温環境をつくることを得意としており、一般的なオフィスの空調設備などはあまり手がけていません。大きな特徴は、スーパーマーケットなどにあるショーケース関連の業務を一切引き受けないと決めている点です。これは業界でもかなり珍しいと思います。
また、メンテナンススタッフが現場のあらゆる事象に一次対応できる総合力も強みです。冷凍機はもちろん、電気、建具、水、エアー、蒸気に至るまで、幅広く対応できる知識と技術を持っています。ここまで広範囲に対応できる会社は、他には多くないと自負しています。
先代は「仕事とは、困った人を助けることからしか始まらない。そこが原点だ」という言葉を遺しました。この言葉が、今も弊社の原点です。だからこそメンテナンスには特に力を入れており、365日、自社の社員が対応できる体制を整えています。
ーー顧客からはどのような反響がありますか。
山口雅樹:
一度お付き合いが始まると、よほどのことがない限りお客様が離れることはありません。最近も、以前お取引のあったお客様が転職され、その転職先から「問題が山積しているので、メンテナンスをお願いできないか」とお声がけいただき、新しいお付き合いが始まりました。冷凍冷蔵設備で困った時に、最初に思い出していただける会社を目指しており、実際にそのように評価いただいていると実感しています。
顧客・地域・社員 関わる人すべての幸福を実現する未来
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
山口雅樹:
現在、「2030年ビジョン」を策定中ですので、まだ決定事項ではありませんが、お伝えできることは一つです。それは、「より多くのお客様に関わり、喜んでいただきたい」という強い思い。取引先や地域の方々に幸せを届けられる会社にしていきたいと考えています。そして、弊社で働く社員たちの人生を豊かにしていきたいと、心の底から強く思っています。
特に個人的には、弊社で働くことで幸せになってくれる人が一人でも多くできたら、大変うれしく思います。例えば、将来の目指す姿なども、私が一方的に決めるのではなく、社員みんなで決めたいと考えています。
最終的に目指しているのは、社員が会社の制度に人生設計を合わせるような状態ではありません。社員みんなが描く人生設計の総和が、この会社で実現できる。そんな状態を目指しています。「ここで働いていたら、自分の夢が叶う」と思ってもらえる会社を、みんなでつくっていきたいです。
編集後記
猛烈に働き会社を牽引する中で人の心が離れるという壁に直面するも、ある経営者の言葉を胸に自らの在り方を問い直し、社員の幸福を追求する経営へと舵を切った山口氏。「困った人を助ける」という原点に立ち返り、顧客と社員に向き合うその姿勢は揺らぐことがない。関わるすべての人を幸せにするための挑戦は、これからも続いていく。

山口雅樹/1975年生まれ。1994年、株式会社中部テクノに入社。2010年、代表取締役社長に就任。2019年、株式会社CTSを子会社化。グループ事業の一環として、デジタルツールのシステム開発にも注力している。