
ふるさと納税サイト「さとふる」は、単なるポータルサイトではない。返礼品の企画から配送、業務支援までを包括的に手掛け、制度の普及を牽引してきた。この独自モデルを立ち上げたのが、株式会社さとふる取締役副社長 兼 COOの青木大介氏だ。金融、通販、IT業界で培った多彩な経験を武器に、前例のないサービスを構築した同氏に、事業の強みと「地域の未来づくり」という壮大なビジョンを聞いた。
すべての経験が事業の礎 未経験の領域に挑んだキャリアの原点
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
青木大介:
大学で電子決済について学んだことで金融に興味を持ち、大学卒業後はクレジットカード会社に入社し、会員向けの通信販売の部署に配属となりました。そこで全国の特産品を発掘・販売し、地域に深く関わった経験は、今に繋がるかけがえのない財産となりました。
大きな転機となったのは、インターネットの急速な普及でした。世の中の構造変化を肌で感じ、「今後のキャリアにはITスキルが不可欠だ」と確信し、未経験ながらIT業界に飛び込むことを決意しました。そこから11年間は開発の最前線に身を置き、技術者からサービス企画まで、事業を創出するための経験を徹底的に積み上げました。
その後、「より広い視野で新しい事業の立ち上げに関わりたい」という思いが強くなり、転職を検討し始めました。そして、当時地方活性化を事業領域とし、挑戦的な姿勢で事業に取り組んでいるSBプレイヤーズに魅力を感じ、2013年、入社を決めました。
業務一括代行という独自性 寄付者と自治体をつなぐ包括的支援

ーー「さとふる」の事業はどのようにして立ち上がったのでしょうか。
青木大介:
SBプレイヤーズ入社後、新規事業を企画している中で、「ふるさと納税に発展や事業化の可能性があるのではないか」という話が挙がりました。当時のふるさと納税の状況を調査すると、さまざまな課題があることが判明しました。
当時、ふるさと納税が普及しない理由を探る中で、返礼品の選定から発送、問い合わせ対応まで、自治体職員の方々の負担が大きすぎるという実態が見えてきました。この煩雑な業務を一括で支援できれば、自治体の過大な業務負担を解消し、制度の普及が進む。そう確信し、「さとふる」を立ち上げました。
ーー「さとふる」の事業の独自性と強みはどのような点にあるのでしょうか。
青木大介:
最大の特徴は、ふるさと納税に関わる自治体や事業者の業務を、包括的に支援している点にあります。具体的には、返礼品の調達から在庫管理、配送手配、さらには寄付者からのお問い合わせ対応や控除手続きのサポートまで、ふるさと納税のプロセス全体を弊社が代行しています。
物流面の支援にも注力しています。たとえば、寄付者にとって便利な日時指定配送は事業者側にとって大きな負担です。そこで弊社が倉庫の提供から流通加工まで代行し、事業者が付加価値の高いサービスを負担なく提供できる仕組みを構築しています。また、この物流支援は、寄付者の多い首都圏に倉庫を構えて発送することで、自治体が負担する配送料の低減にも寄与しています。
そして、これら一連の裏方業務を弊社が一元管理することが、寄付者にとっての直接的なメリットを生み出しています。たとえば、弊社が配送状況を管理しているため、寄付者はマイページで「返礼品がいつ届くのか」を把握でき、計画的に受け取ることが可能になります。この好循環こそが、他のポータルサイトにはない最大の強みだと考えています。
ーー前例のない事業モデルを構築する上で、ご自身の経験はどのように活きましたか。
青木大介:
まさに、これまでのキャリアの集大成だと思っています。通販の知識は返礼品手配の効率化に、金融の経験は決済導入に、そしてITスキルはサービス全体のシステム設計に、全ての経験が生かされています。サービス初日に全てのサイクルが滞りなく回った時、心から安堵したのを覚えています。予想を上回るペースでご参加いただく中で、期待に応える責任の重さとやりがいを感じていました。
ポイント競争のその先へ 地域の魅力を引き出す返礼品開発
ーーふるさと納税を取り巻く市場環境の変化をどのように捉えていますか。
青木大介:
2025年10月に施行されたふるさと納税サイトによる寄付時に伴うポイント付与の禁止は、競争の本質が価格から「地域の魅力」という本質へと健全にシフトする絶好の機会でした。弊社は、全国規模の市場データと生産者の知見や情熱を掛け合わせ、これまで埋もれていた価値を見いだし、返礼品として磨き上げる取り組みに一層注力しています。
弊社では、自治体やお礼品事業者とともに魅力的な特産品を生み出していくために、昨年11月に「お礼品開発プロジェクト」を立ち上げました。寄付データやトレンド分析をもとに、自治体・事業者と共同で新たなお礼品を企画・提案し、すでに400品以上を開発し、ヒット商品も誕生しました。今後もこの取り組みを加速させ、地域の魅力を最大限に引き出すことで、市場の健全な発展を牽引していく考えです。
ーーサービスの利便性を向上させるための具体的な取り組みはありますか。
青木大介:
これまでの取り組みで特に反響が大きかったのは寄付履歴を確認できる「マイページ」の導入です。また、従来は紙での提出が必須だったワンストップ特例制度の申請を、オンラインで完結できるサービス「さとふるアプリdeワンストップ申請」も先駆けて提供しました。これにより寄付者と自治体双方の利便性は大きく向上し、ふるさと納税制度普及の起爆剤の一つになれたと自負しています。
ふるさと納税の枠を超えて 地域の未来を共創するパートナーシップ
ーー今後の事業の方向性についてお聞かせください。
青木大介:
ふるさと納税を入り口としながら、その枠を超えて“未来のまちづくり”を共に実現するパートナーを目指しています。集まった寄付金の有効活用を一緒に考え、産業振興だけでなく、福祉や文化といった多様なテーマに地域の方々と取り組んでまいります。
グループ全体では、全国の自治体や事業者とのネットワークを活かし、地域の総合窓口としての役割を担いたいです。そして、SBプレイヤーズのグループ内にある多様なソリューションと地域をつなぐハブのような存在でありたいと考えています。
ーー最後に、事業にかける意気込みと読者へのメッセージをお願いします。
青木大介:
地域の方々が夢を描き、それを実際にかなえられる状態であることが「地域活性化」だと考えています。その夢を一緒に考え、実現できる存在でありたい。それが私たちの使命です。「さとふる」だからこそできる価値提供を追求し、地域の未来を切り拓いていきます。私たちの想いに共感し、共に日本の未来をつくる仲間が増えることを願っています。
編集後記
金融、通販、IT。青木氏の経歴が「さとふる」という独自モデルの礎となった過程は、経験が価値に昇華する瞬間を物語る。同社はふるさと納税の枠組みを超え、地域の課題解決と“未来の共創”へと歩みを進めている。その挑戦は、日本の多くの地域にとって確かな光となるだろう。

青木大介/立教大学卒業後、外資系金融機関にて高所得者層向け産地直送型通信販売・ECの企画営業に従事。国内ITベンダーの技術者を経て、2013年SBプレイヤーズ株式会社に入社。その後、ふるさと納税サイト「さとふる」の事業立ち上げに参画。自治体や地域事業者の負担なく、誰でも気軽にふるさと納税に参画できるよう、返礼品調達や集荷配送手配、問い合わせ対応など自治体業務の一括代行の仕組みを構築。事業企画部部長、地域協働事業推進部部長を歴任。