
埼玉県狭山市と志木市に拠点を置き、自動車の板金塗装・整備事業を展開する株式会社ジャパンオートサービス。同社を率いるのは、父と同じ28歳で代表取締役社長に就任した相川大介氏だ。同氏は従来の職人気質の慣習を打破し、革新的な組織改革を進めている。今回、社長就任時の覚悟や、事業経験から得た学びを基にした独自の経営戦略、そして自動車板金塗装部門で売上10億円を目指す明確なビジョンについて、詳しく話をうかがった。
伝統と変革を両立 事業承継の覚悟と舞台裏
ーー貴社に入社された経緯についてお聞かせください。
相川大介:
学生時代は、創業者である父と家で仕事の話をする機会がなく、私の就職活動が始まるまで、会社の事業内容を詳しく知りませんでした。当時は他社への就職も検討しましたが、初めて父から事業について詳しい話を聞く機会がありました。事故で一台一台損傷が異なる車を直し再生させる仕事に「医者のようだ」と感じ、強い魅力を覚えました。
また、父からの助言も大きな決め手となりました。「現場は職人が多い。皆と一から苦労を共にした方が将来的にも良い」との言葉を受け、新卒での入社を決意したのです。
ーー社長就任時の心境と、特に難しかったことは何ですか。
相川大介:
社長に就任したのは28歳の時でした。父が起業したのと同じ年齢だったことから、「ちょっとやってみろ」という形で、突然社長を継ぐことになったのです。それまで経営経験がなかったので当初は不安もありましたが、「若いからこそ失敗してもまだ許される」と前向きに捉え、思い切って挑戦することにしました。前日まで同僚だった社員との関係性が変わることには躊躇もありました。しかし「社員の生活を守る」という使命感から、社長としての役割を全うする覚悟を決めました。
ーー社長就任後、最初に取り組まれたことについて教えてください。
相川大介:
社長就任当時、会社は成長し取引先も拡大していました。お客様の要望に応え続けるあまり、夜中まで働く日が続くという残業が常態化していたのです。しかし、その働き方は現場社員に大きな負担をかけます。結果として離職者の増加や品質低下といった問題を引き起こしていました。
この状況を変えるべく、労働環境の改善に着手しました。大切な資産である顧客からの信頼を守りつつ、社員が無理なく働ける環境を整備。若手の採用強化と並行して、その環境づくりを進めました。この改革が、現在の会社の良い雰囲気と若手社員の定着につながっていると感じています。
飲食・海外事業で培った「多様性」と「顧客目線」を経営に活かす

ーー飲食事業や中国での海外事業など多様な経験で得た大きな学びは何ですか
相川大介:
飲食事業では、一般消費者向けなので、お客様の意見を直に聞けるというサービス業の醍醐味を学びました。採用やマネジメントにも本格的に携わる機会でした。
一方、中国での海外事業は、今の私を形成する精神的な強さを培ってくれました。言葉や文化が通じない環境で、仕事に対する考え方は人それぞれ違うという多様性を肌で感じたことが大きな学びです。当時の中国ではサービス残業の概念がほとんど見られませんでした。そこで得た新たな仕事観は、現在の外国人積極採用や、多様な考えを理解できる組織づくりにつながっています。
ーー貴社の強みについて、どうお考えですか。
相川大介:
「お客様目線」を徹底し、要望に対してお客様に納得し喜んでもらうための提案を徹底できることが強みだと考えています。それを実現するため、弊社のフロントサービスは、あえて現場経験がない人たちだけで構成しています。現場経験を積みすぎると、技術的な制約などが先行しがちです。結果として「お客様目線」から外れてしまう場合があるからです。技術的な制約に縛られず、「お客様が何を求めているのか」という本質的なニーズを吸い上げます。
ーー貴社内の文化について具体的に教えてください。
相川大介:
職人一人ひとりの「得意・苦手」という個人のスキルを最大限に活かすため、各部署を専門化して分業制を敷いています。得意な分野に特化して配置し、陸上リレーのように連携することで、一人の職人ではできない仕事もチームワークで補います。最終的にお客様が求めているのは、「早く、きれいに」車を返してもらうことにほかなりません。個々が高い能力を発揮しつつ、協調性を持つことで、お互いの良いところを出し合います。これにより、お客様の期待に応える最高のサービスを提供できると考えています。
業界の未来を拓く 売上10億円への成長戦略

ーーディーラーとの連携による法人向け営業部隊を設けている理由は何ですか。
相川大介:
板金塗装は、事故がないと仕事が発生しにくい受け身のビジネスです。安定的な仕事量を確保するため、創業当時からメインとしてきたディーラーとの信頼関係をさらに深め、積極的に仕事を取る営業部隊を置いています。この部隊は、お客様であるディーラーを定期的に訪問します。そこで第三者的な立場で生の声を吸い上げ、現場にフィードバックしています。これにより、お客様との距離が縮まります。常にその存在を意識しながら、改善策を現場に落とし込むことができるのです。この積み重ねが、「困った時のジャパンオートサービス」という受け皿としての地位確立につながっているのです。
ーー今後の戦略について、お聞かせください。
相川大介:
今後5年で自動車板金塗装部門だけで売上10億円を目指します。既存の工場では対応しきれない程の依頼がある現状を踏まえれば、これは達成可能な目標だと考えています。目標達成に向け、中期的にはM&Aも活用する方針です。埼玉、神奈川、千葉の県境エリアに工場を展開していきたいと考えています。
自動車業界では廃業する同業者も多く、お客様であるディーラーは大変困っている状況です。弊社が「困ったお客様の受け皿」であり続けるためには、エリアの拡大が不可欠です。また、板金塗装の仕事は末端と見られがちですが、私たちは素晴らしい仕事をしているという自負があります。この事業を成長させることで、業界全体の地位向上に貢献したいという強い思いを持っています。
ーー今後最も求めている人物像と、読者へのメッセージをお願いします
相川大介:
私たちは、素直で真面目にコツコツと取り組める人材を求めています。技術やスキルは、入社後に弊社の研修制度やチームワークを通じて必ず身につけられます。それよりも会社の考え方に共感し、プロ意識を持って業務に取り組めること。そして後輩の手本となるリーダーシップを発揮してくれることを期待しています。業界のトップを走る自覚と責任感を持ち、変化に柔軟に対応できること。私たちは、今後の時代を担う若い世代の力を必要としています。「この会社に入りたい」と言われるぐらいの価値ある会社を一緒につくっていきましょう。
編集後記
二代目社長として、偉大な創業者の背中を追う重圧は計り知れない。しかし相川氏は、その葛藤を「社員の生活を守る」という揺るぎない覚悟へと昇華させていた。自身の改革を顧客満足度の向上からでなく、社員の「労働環境改善」から着手。その事実に、相川氏の経営哲学が凝縮されている。父から受け継いだ信頼を基盤としながらも、飲食事業や海外事業で培った「顧客目線」と「多様性」を武器に、「現場経験のないフロント」といった独自の組織を築き上げる。その誠実な挑戦の先には、会社の成長だけではない。業界全体の地位向上という、大きな未来が描かれている。

相川大介/1989年埼玉県生まれ、日本大学商学部卒業後、2012年ジャパンオートサービスに入社。自動車事業部で基礎を学んだ後、飲食事業や海外事業部の立ち上げを経験。2018年に同社代表取締役社長に就任。