
長野県に根差し、エクステリア資材の卸売事業で県内トップシェアを誇る株式会社アメニクス。同社を率いるのは、高校卒業後に業界へ飛び込み、現場の第一線でキャリアを築き上げてきた田中学氏である。「会社は社員のためにある」という強い信念のもと、年間休日120日や業界高水準の初任給など、旧来の慣習にとらわれない“社員ファースト”の経営を実践。リーマン・ショック後の苦境を乗り越え、従業員11名からの再出発を経て、14期連続での増収増益という目覚ましい成長を成し遂げた。なぜ社員を大切にすることが、企業の揺るぎない強さにつながるのか。その独自の経営哲学と、社員と共に描く未来についてお話をうかがった。
土木業界からの転身と11人から始まった会社の“第二創業期”
ーー貴社へ入社された経緯をお聞かせください。
田中学:
高校卒業後は、土木建設業の会社に勤めていました。しかし、長野オリンピック後の不況下で当時の社長から「君はここにいるにはもったいない人材だ」と背中を押されたことを機に、26歳でアメニクスへ入社した次第です。
私が入社してからの数年間、会社は大きな変革の渦中にありました。不採算だった小売事業から撤退したことで、2009年には従業員が11名まで減少。会社としては非常に厳しい状況でしたが、不思議なことに、リーマン・ショック後で人材が動いていたこの時期に、後に会社の核となるメンバー(現在の幹部)が次々と入社してきたのです。
そして、経営陣が卸売事業へ集中する舵を切った結果、会社は2010年から成長軌道に乗り、14期連続の増収増益を達成しました。今振り返れば、まさにあの時が当社の“第二創業期”の始まりだったのだと思います。
「会社は社員のためにある」という経営哲学
ーーどのような経緯で社長にご就任されたのでしょうか。
田中学:
先代からは後継者としてご指名いただいておりましたが、2019年に先代のがんが発覚し、2021年の年頭に「来年、社長を交代する」と明言されました。しかし、そのわずか1カ月後に先代が入院し、急遽、私が代表を引き継ぐことになったのです。
社長に就任してまず着手したのが、経営計画書の見直しです。以前の計画書は、たとえば「目標を必達とせよ」といった力強い命令形の言葉で書かれていました。それを、「この目標を皆で達成しましょう」というように、社員に語りかけ、共に進む意志を示す表現に全て改めたのです。トップダウンではなく、社員みんなで会社をつくっていく。そうした姿勢を明確にすることから、今の時代に合った組織への変革を始めています。
ーー“社員ファースト”という信念はどこから生まれたのですか。
田中学:
私は創業家の出身ではなく、一社員としてこの会社に入社しました。だからこそ、私には「会社は社員のためにある」という確信があります。社員とその家族が幸せになることこそが、会社の存在意義です。社員を大切にすれば、その社員がお客様を大切にしてくれる。結果として、会社の業績は必ず上がるのです。これは私にとって揺るぎない成功体験であり、経営の根幹をなす考え方です。
価格競争と無縁の信頼を築く現場力
ーー貴社の事業における、他社にはない一番の強みについてお聞かせください。
田中学:
我々の強みは、単なる卸売業者にとどまらない、圧倒的な「現場力」にあります。具体的には2つのサービスがあり、1つは役職を問わず全社員がお客様のもとへ駆けつける「配送サービス」。そしてもう1つが、現場の施工まで一貫して請け負う「施工サービス」です。多くの同業者が商品を右から左へ流すのに対し、我々は実際に施工まで手がけるため、メーカーの担当者以上に商品の特性や現場での納まりを熟知できるのです。こうした専門知識と、いざという時に全社員で対応するフットワークの軽さが、お客様からの絶大な信頼へと繋がり、「アメニクスに頼めば間違いない」と思っていただける源泉となっています。結果として、価格競争に身を置くことなく、お客様に選んでいただけているのだと思います。
ーー仕事のやりがいを実感するのは、どのような瞬間ですか。
田中学:
私自身、2年前に自宅を新築し、1,000万円を超える費用をかけて外構・エクステリア工事を行いました。完成した我が家を眺めた時、エクステリアがいかに人を幸せな気持ちにさせるかを改めて実感しました。夜、ライトアップされた家を見るだけで、仕事の疲れも吹き飛びます。この仕事は、単に物を売るのではなく、お客様の暮らしに豊かさと満足感をお届けする、非常に価値のある仕事です。その価値を、業界だけではなく、実際に使われるエンドユーザー様に広めていくことが私たちの使命です。
社員と共に未来をつくる会社へ

ーー社員が働きやすい環境づくりのための取り組みを教えてください。
田中学:
業界の先駆者となるべく、2026年度より年間休日を120日とし、将来的には有給休暇の消化率100%を目指しています。また、優秀な人材に選ばれる会社であるために、人への投資は惜しみません。今年の春には初任給を大幅に引き上げ、大卒の営業職であれば30万円という業界でも高水準の給与に設定しました。
ーー社員の評価はどのように行っているのでしょうか。
田中学:
弊社に複雑な評価制度はありません。その代わりに、賞与と昇給前の年3回、必ず全社員と所長面談・社長面談を実施しています。評価は各拠点の所長と私の“ダブルチェック体制”で行います。驚くことに、両者の評価は95%以上一致します。日頃から社員一人ひとりの働きぶりをしっかりと見て、共通認識を持てているからこそ、シンプルながらも納得感のある評価ができているのだと自負しています。
ーー最後に、どのような方と共に未来を築いていきたいですか。
田中学:
経験の有無は一切問いません。むしろ、まっさらな状態から弊社の仕事の面白さや価値を吸収してくれるような方を歓迎します。というのも、入社後の3年間は、一人前に育てるための「投資期間」だと会社として考えているからです。商品知識や現場のノウハウは、入社してから私たちが責任をもって一から教えます。何も心配はいりません。ですから、経験よりも私たちが求めるのは、素直に物事を学ぼうとする姿勢です。焦らず、じっくりと、私たちと共に成長していける未来の仲間をお待ちしています。
編集後記
「会社は社員のためにある」。田中氏のこの言葉は、単なる理想論ではない。現場での経験と、会社を立て直してきた自負に裏打ちされた、実践的な経営哲学である。社員一人ひとりの幸せの追求が、顧客への提供価値を高め、企業の成長につながるという揺るぎない確信。業界の未来と社員の将来を真摯に見据えるその姿は、企業の力強い未来像を描き出す。アメニクスの挑戦は、これからも続いていく。

田中学/1977年長野県生まれ、長野高校卒。2003年に株式会社アメニクス入社。2021年、同社代表取締役社長に就任。現在に至る。