※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

EC市場が激変する中、「営業パーソンゼロ」「ホームページはいらない」という、固定観念に捉われない戦略で年商200億円まで駆け上がった企業がある。グループ全体の年間流通総額が500億円にのぼる株式会社ビービーエフだ。同社の代表取締役社長CEOである田村淳氏が掲げる「やりたくないことはやらない」という独自の経営哲学は、意思決定の速さと実装力を生み出し、働き方やキャリア観にも示唆を与える。この常識破りの戦略はいかにして生まれたのか。創業の原点から組織の仕組みまで、その核心について田村氏に話を聞いた。

20代で起業し、大手データセンター事業者にグループインするまで

ーー会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

田村淳:
私は20代の頃、群馬で起業したのですが、当初はスタートアップで、ガラケー(フィーチャーフォン)時代の携帯電話にバーコードを表示し、決済する技術を開発していました。この技術がNTTデータに認められ、ローソンへの導入を目的とした共同事業に発展したのです。この経験から、技術だけではなく、その先のサービス設計までも自社で担えるようになりたいと感じたことが、キャリアのスタートとなりました。

ーーその後、どのような経験を積まれたのですか?

田村淳:
ある方の紹介で、神戸大学発ベンチャーの「ネットジン」と出会い、私の持つアイデアと彼らの持つ技術力で、おもしろいことをしようという話になったのです。そこで、私が経営していた会社をネットジンに売却。同時に私自身も取締役に就任して、東京に進出することを決めました。当時は、彼らの事業であったアーケードゲームを、携帯電話(iモード)向けに移植し、公式コンテンツとして配信する事業を手掛けていました。

その後、株式会社ブロードバンドタワーに参画することを決断しました。これは、金銭的な条件だけでなく、長年経営者として歩んできたため、尊敬できる上司のもとで、組織の一員として働く経験を積んでみたいと考えたからです。参画後、2003年には株式会社ライブドア、株式会社レッドライスメディウムと共同で動画配信サービス「ブロードバンドピクチャーズ(BBP)」を立ち上げ、映画コンテンツの権利処理の複雑さと向き合いながらも、約100本の作品を制作・配信を行いました。

ファッションEC事業への転換、独自の経営哲学で急成長

ーー映画事業からファッションEC支援事業への転換は、どのようなきっかけで決断されたのですか?

田村淳:
きっかけは映画事業を手掛けていた2003年頃に、衣装を担当するスタイリストの方が「欲しい服はネットで買えない」と話しているのを聞いたことです。

当時は「試着なしで洋服は売れない」という風潮がありましたが、この課題を、ITインフラやコンテンツ運営事業を行ってきた私なら解決できるのではと考えました。ほどなく、ZOZOTOWNの台頭で風向きが変わり、直販サイトを持ちたいというブランドが急増したのです。

そこで、2005年に株式会社ビービーエフを立ち上げて、小ロットでも利益が出る在庫連動システムと、撮影・物流一体型の運用モデルで参入ハードルを下げるモデルをつくり、4000万円だった売上をグループ連結500億円規模まで成長させました。

ーー貴社は営業組織がなく、ホームページの情報量も限りなく少ないそうですが、なぜでしょうか?

田村淳:
前提として、やりたくないことをやらない会社をつくろうという考えがありました。

営業組織がない理由は、アパレル業界は横のつながりが強い傾向にあるので、あるブランドのEC支援1件で成果を出せば、次の案件は紹介や口コミで獲得できるからです。そのため、営業担当者は必要ありません。営業活動よりも顧客体験に集中すべきであると判断し、広告費もほとんどかけずに、さまざまなブランドを支援しています。

ホームページに関しては、営業組織と同様に「いるものといらないもの」をゼロから考えたとき、細かく大量の情報が掲載されたページは必要ないと判断しました。会社の規模が大きくなっても質素なページであり続けることで、本当にニーズがあり、課題を解決できる会社を探している人とだけ接点を持てると思ったからです。

また、弊社では全社会議も20年間で1度だけしか行ったことがありませんし、年末年始の形式的な挨拶もありません。その分で生まれた時間を、顧客ニーズの解決に向けた実働の時間に充てるようにしています。

ーー貴社ならではの、特徴や強みを教えてください。

田村淳:
ECサイト運用のマーケティングから、倉庫の手配、発送までをすべてサポートしていることが特徴です。とはいえ、弊社がサポートに必要なものすべてを保有しているのではなく、顧客ニーズに合わせて最適なパートナー企業を選定し、システムを通じて連携することで幅広い要望に応えることができています。

さらに、ファッションECで培ったノウハウを食品・家電・化粧品へ横展開し、支援の幅を広げている点は弊社の強みの一つです。プラットフォームも特定の場所にこだわらず、顧客に最適なソリューションを展開できる柔軟性を持っています。

世界をつなぐシームレスなEC構築と、次世代に向けての思い

ーー今後のビジョンをお聞かせください。

田村淳:
弊社には「新しい当たり前を創造する企業」というコンセプトがあります。この「新しい当たり前」とは、水道や電気のように、国境を意識せず使える「ECのインフラ」をつくることです。

円安や関税などの壁はありますが、弊社のマーケティングから発送までを一貫してサポートする体制を国境を越えて設計すれば、買う側も売る側も地理条件を気にしないでシームレスにつながる世界が訪れるはずです。現在はその下地として、インターネットECにおけるマーケティングから倉庫での発送まで一貫したサポートを実現するため、越境ECに強い倉庫をはじめとする最適なパートナーを選定・連携し、国内外のブランド双方を支援できる体制を整えています。

ーー次世代を担う方々へ向けてメッセージをお願いします。

田村淳:
キャリアは「点」ではなく「線」です。

やりたいことが見えない時期は、誘いを断らずに経験を増やす。軸が定まったら、世間の常識より自分のビジョンを信じ抜くことが大切です。批判には耳を貸さずに、自分を信じ、協力してくれる人たちとの縁を大切にすることが重要です。

弊社には、職種より仕事に向き合う姿勢を重視する文化があります。営業ゼロの会社ですが、顧客と向き合う熱量は誰より高いと思っています。共感できる方がいらっしゃったら、ぜひ門を叩いてほしいですね。

編集後記

田村氏は正しいと思われている前提を疑い、不要と判断したら捨てることを一貫していた。営業もホームページも会議も削ぎ落とし、実装力に経営資源を集中させた結果が、グループ連結500億円の売上の逆張りは奇抜ではなく「目的に沿った最短距離」なのだと、あらためて感じた。同氏が目指す「ECのインフラ」が、近い将来、私たちの生活にどのような変化をもたらすのか、期待が膨らむ。

田村淳/1978年生まれ。携帯決済技術を開発するスタートアップを立ち上げ、その後、株式会社ブロードバンドタワーへ参画後も複数社で新規事業を牽引。2005年10月に株式会社ビービーエフを設立し代表取締役社長に就任。その後、代表取締役社長CEOとなる。ファッションEC支援事業を中心に、グループの年間流通総額を500億円規模へ成長させた。その傍ら、株式会社LOWCAL代表取締役、株式会社ブランチ・アウト取締役なども務める。