
ジェイテクトセールス株式会社は、工作機械や自動車部品、ベアリングなどを製造する株式会社ジェイテクトの販売会社として、多岐にわたる製品を国内外に提供している。同社は、顧客の現場に入り込み、潜在的な課題を発掘することで、単なる物売りから社会課題解決を目指すソリューションプロバイダーへと変革を遂げようとしている。入社以来、生産管理、営業、複数の企業の統合という多様なキャリアを歩んできた代表取締役社長の早野容司氏は、その豊富な経験を活かし、会社と社員の成長を牽引している。そんな早野氏に、会社を次のステージへと導くための改革と、未来への思いについて話をうかがった。
生産管理から営業へ 多様なキャリアを歩んだ背景
ーーこれまでのご経歴について、お聞かせいただけますでしょうか。
早野容司:
私は豊田工機株式会社に22歳で入社し、最初は本社がある愛知県刈谷市に配属されました。文系出身でしたが、理系が多いものづくりの会社で生産管理の仕事に就いたことは、かえって良かったと感じています。入社1年目から工程見積もりを担当し、製品をつくるための設備や製造にかかる時間などを学びました。図面の見方から、製品が完成するまでの工程を自分で組むという経験を、生産管理部で5年間ほど重ねました。
ーー生産管理で培った知識や人脈は、その後のキャリアにどのように活かされましたか。
早野容司:
27歳で営業に異動しましたが、生産管理部での5年間の経験は非常に大きな強みとなりました。現場のものづくりを理解していたことで、何か困ったことがあればすぐに社内の人脈を頼ることができ、社内を巻き込んで仕事を進めることができたのです。また、当時の営業は工場との人脈があったため、比較的仕事を進めやすかったですね。
「逆らわず、従わず」 合併を成功に導いた対話の力
ーーその後はどのようなキャリアを歩まれましたか。
早野容司:
2006年にジェイテクトが発足した際、私は国内営業部を統括する役割を担いました。当時、地域によって仕事の進め方が異なっていたため、現場のやり方を尊重し、対話を重ねることを大切にしました。トップダウンで全てを押し付けるのではなく、一人ひとりの意見に耳を傾けることで、メンバーが納得できるように努めました。複数部署をまとめる立場を経験した後、私は営業部門から新規事業の立ち上げを担う部署へと異動しました。
ーー多様な考えを持つ組織を率いる上で、早野社長が大切にされてきた考え方を教えてください。
早野容司:
私が自分自身でつくった言葉に、「逆らわず、従わず」というものがあります。上司や他のメンバーから意見が出たときは、まず「そうだね」と受け止めて逆らわない。ただ、言われたことをそのまま従うのではなく、プラスアルファの提案をすることで、自分の意見も反映できるようにしていました。この「逆らわず、従わず」という考え方が、多様な文化を持つ組織を一つにまとめる上で、大きな力になったと感じています。
売上至上主義からの脱却 対話から生まれた組織変革

ーーどのような経緯で現在の会社へ入社されたのでしょうか。
早野容司:
私がジェイテクトセールスへ入社したのは、当時の佐藤和弘社長から話があったことがきっかけです。入社当時は、コーヨー日軸株式会社、コーヨー久永株式会社、静岡コーヨー株式会社の3社が合併した直後でした。そこで感じたのは、やはり組織ごとの文化の違いです。特に、個人の成績を追求するあまり、隣のメンバーと情報を共有して協力する姿勢に欠ける「売上至上主義」が蔓延していました。また、悪いことを言えない体質も大きな課題でした。
ーーその課題に対し、どのような改革を行ったのでしょうか。
早野容司:
まず「バッドニュースファースト(悪いことは一番最初に言う)」という文化を掲げ、悪いことを報告してくれた社員には「ありがとう」と伝えるように徹底しました。悪いニュースは、会社をより良くするための貴重な情報であり、隠していては対策を講じることができません。問題が起きても、「正直に言ってくれてありがとう。次はみんなでどう改善するか考えよう」と伝え、手順書をつくるなどの仕組み化を進めました。これにより、社員が安心して意見を言える環境を醸成しました。
ーー若手社員の育成については、どのような取り組みをされていますか?
早野容司:
若手社員による「成長戦略ワーキング」チームを立ち上げ、彼らが考える5年後、10年後の会社のあり方を話し合ってもらいました。私たち経営陣は口出しせず、現状分析や競合調査といった情報提供のみにとどめました。また、20代の若手社員で集まる「ジュニア会」も立ち上げ、「ここが変だぞ、ジェイテクトセールス」というテーマで不平不満を全て言ってもらいました。結果、642件もの意見が出ましたが、役員と部署長全員で一つひとつに回答を作成し、全従業員に返信しました。
お客様と共に未来を創造する「工場まるごと戦略」
ーー今後、ジェイテクトセールスとしてどのような事業展開を目指していますか。
早野容司:
若手社員が考えた「なりたい姿」の一つに、エンジニアリング商社という言葉がありました。これまでの物売りから脱却し、顧客の潜在的なニーズを発掘することで社会課題を解決する会社を目指しています。具体的な取り組みとしては、部品単体を効率的に売るためのECサイトを強化する一方で、顧客の工場全体の課題を解決する「工場まるごと戦略」を進めているところです。製造設備から床の塗装、壁の工事まで、工場に関わるあらゆることを私たちが引き受けることで、顧客が本業に専念できる環境を提供したいと考えています。
ーーお客様との関係性が大きく変わる中で、貴社の強みはどこにあるとお考えですか?
早野容司:
私たちの強みは、顧客の現場に入り込み、仮説を立て、それに合う商材を提案する「デザイン思考」にあります。単に既製品を売るだけでなく、まだ形になっていないものをグループ会社や仕入先と協力してつくり、顧客に試していただくところまで踏み込んでいます。“誰かのために”という理念を大切に、顧客が困っているときに何ができるかを考え、「まだ無い価値をカタチに」することで、共に未来を創造していきたいです。
編集後記
生産管理、営業、そして経営者という多岐にわたるキャリアを歩んできた早野氏。その経験の全てが、組織をあるべき姿へと導くための糧になっていると感じる。特に印象的だったのは、若手社員の声を真摯に受け止め、組織の課題解決に活かしていく姿勢だ。合併後の文化の違いという難しい局面を、トップダウンではなく対話を軸に乗り越えてきた経験が、現在の「ジュニア会」といった取り組みにもつながっているのだろう。顧客の潜在的な課題を解決し、社会に貢献していくという同社の挑戦は、これからますます注目を集めるに違いない。

早野容司/1960年生まれ。岐阜県出身。1982年日本大学文理学部卒業。同年豊田工機株式会社入社。入社後生産管理部配属を経て営業本部に異動。その後、営業所長、国内営業部長として従事。2006年合併後、営業企画部長、海外営業部長、支社長(理事)、執行副本部長(役員)を経て、2023年にジェイテクトセールス株式会社の代表取締役に就任。現在に至る。