※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

法人の出張手配や管理を効率化するSaaS「AI Travel」を提供する株式会社トランスファーデータ。同社は、10年近く蓄積したデータと最新のAI技術を掛け合わせ、単なるツール提供に留まらない「業務プロセス全体の最適化」を強みとしている。その根底には、代表取締役である村田佑介氏の「面倒な作業は1秒でも早く終わらせたい」という、エンジニアとしての純粋な探求心があった。楽天で人事からエンジニアへと異例の転身を遂げ、その後起業の世界へ飛び込んだ同氏の情熱は、いかにして「本当に使われる」サービスを生み出したのか。その軌跡と、同社が描く未来の出張体験について話を聞いた。

人事から開発へ 異例のキャリアチェンジの裏側

ーーまず、村田社長のこれまでのご経歴についてお聞かせください。

村田佑介:
新卒で楽天グループに入社しました。実は一度選考に落ちたのですが、敗者復活戦のような形で採用され、なんとか滑り込んだ形です。当時はWeb制作会社でアルバイトをしていた経験から、Webディレクター系の仕事を希望していましたが、配属されたのは人事部でした。正直、落胆したのを覚えています。

ーー希望と異なる部署から、どのようにしてエンジニアへ転身されたのですか。

村田佑介:
趣味のプログラミングスキルを会社に認められたためです。人事の仕事と並行して、プログラミングの勉強を続けていました。エンジニアの新卒採用を担当していたこともあり、社内の技術勉強会によく顔を出していたのです。そこで自作したChromeの拡張機能を発表したところ、当時CTOの安武氏の目に留まり、「面白いやつがいる」と開発部門へ異動させてもらえることになりました。

ーーその後、シンガポール赴任を経て、現在の会社の立ち上げに参画されています。

村田佑介:
楽天グループではシンガポールへの赴任など、貴重な体験をさせていただき、仕事がとてもおもしろく感じていました。しかし入社4年ほど経った頃、弊社前代表から「一緒に会社をやろう」と誘われたんです。非常に悩みましたが、自分で一からサービスを作ってみたいという思いが勝りました。「デザイナーである前代表と、エンジニアである私がいれば、プロダクトが作れる!」と可能性を感じたんです。そのため会社を退職し、創業メンバーとして参画することを決断しました。

「面倒」から生まれたSaaS「AI Travel」

ーー貴社の業務効率化ツール「AI Travel」は、どのようなサービスでしょうか。

村田佑介:
法人の出張手配から経費精算までの一連の手続きを、大幅に省力化するソリューションです。私自身、会社員時代に「なぜ出張はこんなにも面倒なのだろう」と感じていた経験が開発の原点です。当時、この領域はまだ効率化が進んでおらず、ここでならナンバーワンを目指せると考えました。

ーーコロナ禍では出張が激減し、厳しい時期だったかと思います。

村田佑介:
はい、サービスの取り扱いは10分の1以下になりました。しかし、その間も「出張がない今のうちに業務プロセスを刷新したい」というお客様からの問い合わせは少なくありませんでした。そこで私たちも、お客様の要望を優先して開発を進め、サービスを強化する期間と捉えて乗り切りました。

「本当に使われる」サービスを支える技術力

ーー貴社のサービスが多くの企業に選ばれる理由は何でしょうか。

村田佑介:
「AI Travel」は、「あるべき姿」から出張という業務を捉え直し、業務プロセスとデータフローを設計したデータ活用型のサービスになっています。出張者による出張予約を一括検索で手配を簡素化し、法人一括精算で社員の立替負担をなくすだけでなく、会計システムとのデータ連携によってバックオフィス業務を大幅に削減することができます。

導入企業では、誰でも簡単に乗り換えアプリのように使える扱いやすさから、出張者の方々が積極的に活用してくれています。結果的に、90%の業務効率化を実現し、より重要な仕事に貴重な時間を割くことができるようになったとの声もたくさんいただいています。加えて、「AI Travel」の導入によって、手配が簡単になり、社員の方が早めに出張手配をしてくれたり、よりコストメリットのある商品を選んでくれることで、コストの削減や適正化がはかられたり、すべての出張をデータで追いかけられるため、経営管理の高度化やガバナンスの向上など、出張者の利便性だけではない付加価値を、お客様に提供できていることも当社のサービスが長く使っていただける理由としてあると感じています。

また、多くの競合サービスが開発を外部に委託する中、私たちはすべて内製にこだわっています。そのため、お客様ごとの細かい要望にも柔軟に応えられる拡張性の高さが強みです。

ーーAIやテクノロジーの活用について、独自性があれば教えてください。

村田佑介:
創業当初から蓄積してきたデータを活かした出張プランのAI推薦機能を実装しています。弊社は「お客様が選んだプラン」や「私たちがおすすめしたプラン」などのデータを10年近く蓄積してきました。この膨大なデータと、近年進化したLLM(大規模言語モデル)を組み合わせることで、「なぜこの出張プランが最適なのか」を論理的に説明できる、精度の高い推薦機能を実現しています。

一人一人に秘書がつく未来の出張体験へ

ーー今後、事業を通じてどのような世界の実現を目指していますか。

村田佑介:
先日、AI TravelにおけるAIエージェントの実装にむけて、「Travel Intelligence Agent」に関する発表をおこないました。これまでも社内の開発スローガンの一つとして、「一人一人に優秀な秘書がつくような出張体験」を目指してきましたが、近年進化したLLM(大規模言語モデル)を組み合わせることで、「一人一人に戦略面もサポートしてくれるような優秀な秘書がつくような出張体験」まで実行できる目途が立ってきました。

ーー具体的には、どのようなことでしょうか?

村田佑介:
これまでは出張者自身が、AI Travelを立ち上げ、旅程を検索し、予約する必要がありました。今後はAI秘書が、個人のカレンダーと連携し、「こちらで予約しておきましょうか?」と先回りして提案をしてくれたり、昨今、宿泊代が高騰している中、土地勘のない場所でも安価な近隣ホテルをレコメンドしてくれたり、出張の際についでにアポイントするとよい企業のレコメンドをしてくれるなど、「一人一人に優俊な秘書がつくような出張体験」の実現を見据えています。これらの機能は、現在開発中で、今秋以降に順次AI Travelへの実装を予定していく予定です。

ーー最後に、今後の事業展望についてお聞かせください。

村田佑介:
まずは、AIエージェントを軸とした「一人一人に優秀な秘書がつくような出張体験」を追求していきます。そして、当社は、「業務効率化と生産性を高めるためのデータモデル」という考え方とそれを実現する技術に強みのある企業です。出張手配や管理以外の領域にも、データを有効活用することで効率化や生産性を高められる業務領域は企業の中にまだまだ残されていると感じています。人口減少社会の中で企業のデータ活用は不可欠です。この問題を解決することを通じて日本社会の競争力を高めていく、それが私たちの次なる挑戦です。

編集後記

「面倒な作業は1秒でも早く終わらせたい」。村田氏の言葉に、エンジニアとしての純粋な探求心と、事業の根幹にある哲学を見た。その情熱が、大手ですら成し得なかった「本当に使われる」サービスを生んだのだろう。AIという新たな武器を手に、同社が描く「秘書が全てをこなす未来」は、もはや夢物語ではない。出張という領域から始まった業務効率化への挑戦が、社会にどのような変革をもたらすのか、今後の飛躍に期待したい。

村田佑介/1986年、奈良県生まれ。京都大学経済学部を卒業後、楽天グループ株式会社に2010年入社。人事部に配属されたが、当時CTOの安武氏に見出され入社2年目にエンジニアに転向。2014年に株式会社トランスファーデータの創業に参画。CTO兼一エンジニアとしてゼロからシステムを立ち上げ、その後代表取締役CEOに就任。