※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

コロナ禍後の地方活性化や観光再開が課題となる中、地域間の移動手段の確保はますます重要になっている。こうした社会情勢を背景に、株式会社ジェイキャスエアウェイズは地方空港を活用した小規模航空会社として、新たな路線網と地域創生の仕組みづくりを進めている。今回、代表取締役の白根清司氏と梅本祐紀氏の二人に、今後の取り組みの背景や狙いについて話をうかがった。

東京一極集中への課題意識から生まれた新たな事業構想

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。

梅本祐紀:
大学卒業後、カーナビゲーションのメーカーに就職しました。その後、ソーシャルゲーム事業を行うグリー、アドテクノロジーを手掛けるフリークアウトを経て、and factoryに入社。ここでは新規事業の立ち上げを任されました。大手宿泊施設との共同プロジェクトや賃貸居住者向けサービスの立ち上げなどを担当し、最終的に上場に貢献しました。

しかしコロナ禍で事業が打撃を受け、人員整理が進む中で私自身も退職しました。その後しばらくは個人で事業開発を手伝っていましたが、その矢先に転機が訪れます。and factory時代のお客様だった弊社現取締役の岩井和希から、白根を紹介されたのです。

白根清司:
私は大学業後、日本航空での勤務を経て、スカイマークの立ち上げに携わりました。当時から、大手航空会社による東京一極集中の路線に疑問を感じていました。そのため、地方をつなぐローカル路線を手掛けたいと考えていたのです。

スカイマークを退職後、コンサルタントとして複数の航空会社の立ち上げに携わるたび、その思いは一層強くなりました。地方創生の実現には地方に行く手段であるローカル路線が欠かせません。その手段を確立するために、弊社を設立し、代表取締役に就任しました。

梅本祐紀:
白根と出会い、日本にある80以上もの主要空港が十分に活用されていない現状を知りました。「交通網の整備が十分でない山陰など日本海側を航空路線で結び、人の流れを作って活性化させたい」。そんなビジョンを熱く語る白根に共感し、弊社の立ち上げに参加することを決めました。

人を運び価値を届ける「地域航空」という事業の全体像

ーー改めて貴社の事業について教えてください。

梅本祐紀:
弊社は「地域航空」と呼ばれる地方空港を活用した小規模な航空会社です。現在は2026年秋の関西空港〜富山・米子の路線就航に向けて準備を進めています。その路線を起点に、5年で年商100億円を超える規模に拡大する計画です。

使用する機材は、エアバスグループ・ATR社の小型機(約70席)で、燃費が良く、費用対効果に優れているのが特徴です。運賃は平均1万1000円程度を想定しており、JRなどと比較しても時間短縮のメリットもあります。訪日観光客を地方に誘導し、地域創生にも貢献するビジネスモデルです。

白根清司:
次に中部国際空港(セントレア)からも地方を結ぶ路線を展開する計画で、最終的には、地方間を結ぶ路線にも挑戦するつもりです。ただし地方間路線は採算性の観点から課題が多いため、関西国際空港、中部国際空港の就航後である「フェーズ3」と位置づけています。

ーー地域創生について、現段階ではどのようなことに取り組まれていますか

梅本祐紀:
地方には素晴らしい取り組みをしている方々が大勢います。しかし、交通の便や知名度の問題で人が来ないという課題があるのも事実です。弊社は航空会社として人を届ける役割を担い、地元の埋もれている魅力を「外からの視点」で発掘します。観光資源の発掘・体験型ツアーの提供など、地域に具体的な価値を届ける取り組みを展開する予定です。

具体的には、富山での「ガストロノミーツーリズム(地域の食文化を楽しむ観光)」を地元の方々と企画しています。旅行会社と連携して旅行パッケージを作り、就航前からツアーとして販売する準備を進めています。優良なコンテンツをどうつないで伝えていくか、地域と一緒に考えていきます。

「ジェイキャスエアウェイズと一緒に何かをしたら、地域が元気になった」。そう言っていただけるような小さな成功事例を、1つずつ積み上げていくことが大切です。将来的には宿泊施設の運営も視野に入れています。

IT技術で社会課題を解決する次世代への期待

ーー新規就航と地方創生に向けて、どのような人材を集めたいとお考えですか。

梅本祐紀:
ITベンチャーやスタートアップ出身者で、事業をゼロから立ち上げる気概がある方を求めています。弊社の事業は、ITを活用した旅行サービスである「トラベルテック」領域との相性が良いと考えているからです。地方ではタクシーなど二次交通への接続や、訪日観光客に対する通訳サービスといった情報提供のインフラが整っていません。予約・検索・通訳などの課題を解決するデジタルサービスを開発できる人材を募集しています。

白根清司:
もちろん航空業界のプロフェッショナルな人材の応募も大歓迎です。ただし経験やスキルだけではなく、事業に対する思いや実行力、やりきる力も含めて総合的に見ています。

梅本祐紀:
弊社の特徴は「やりたいと思えば何でもできる」という点に尽きます。部門間の壁とは無縁ですから、自分のやりたいことを広げていく自主性を尊重することが弊社の文化です。どんなに経験値やスキルが高くても、企業の文化に合わない方は採用していません。スキルよりも会社の雰囲気とマッチするかどうかを重視しています。

100年後も地方を支え続け「日本の財産」になることが目標

ーー最後に、今後のビジョンを教えてください。

白根清司:
2030年までに15の路線へ拡大することを目標に、具体的な路線のプランを固めています。梅本が触れたように、いずれは地方間路線も確立することになるでしょう。そして将来的には、弊社を「日本の財産」となるような会社にしたいと考えています。100年後も地方を支える存在として事業を展開します。これにより、地域に住む人々が移動の自由と可能性を諦めずに済む、そんな社会の実現を目指します。

編集後記

取材を通じて印象的だったのは、二人の代表が持つそれぞれの強みだ。航空業界で長年の経験を積んだ白根氏と、IT領域での新規事業を担ってきた梅本氏。両者が互いの強みを最大限に生かし、地域航空の新たな形を作ろうとしている。地方の移動インフラ確保、観光施策、そしてIT技術の導入など、二人の知見が生きる領域は実に幅広い。就航準備の段階から地域と連携し、観光パッケージを展開する姿勢は現実的だ。今後の就航や地域創生の展開に期待したい。

白根清司/日本航空株式会社にて豊富な実務経験を積み、安全分野でシニアエキスパートとして高い評価を得た後、スカイマークエアラインズの立ち上げに中核メンバーとして参画。その後航空業界のコンサルタントとして独立し、ソラシドエア(スカイネットアジア)やスターフライヤー、エアアジア・ジャパンなど、複数の航空会社の立ち上げに携わる。長年の夢だった地方路線に向け、2023年6月に株式会社ジェイキャスエアウェイズを設立。共同代表として、地域航空の新たな未来創出を推進している。

梅本祐紀/カーナビゲーションメーカーの富士通テン株式会社(現・株式会社デンソーテン)、ソーシャルゲーム事業などを手掛ける株式会社グリー、アドテクノロジーを手掛ける株式会社フリークアウトを経て、and factory株式会社に入社。IoTホステル事業を立ち上げ上場に貢献するが、コロナ禍を経て退職。個人で事業開発のコンサルティングを行う中で白根清司と出会い、株式会社ジェイキャスエアウェイズの共同代表として合流。2026年秋の就航、就航先の地域創生に向けて全国を飛び回っている。