※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

灯油の巡回販売からスタートし、今やBCP(事業継続計画)支援やエネルギー、飲食など13もの事業を展開するシューワ株式会社。その成長の裏には、国難や経済危機を事業拡大の好機へと転換させてきた、独自の経営戦略がある。すべての事業の根底に流れるのは、創業の原点である「ありがとう」という言葉への深い思いと、「社会のお困りごとを解決する」という強い使命感である。今回は代表取締役の矢野秀和氏に、多角的な事業とその根底にある経営理念について話をうかがった。

(※)BCP(事業継続計画):企業が自然災害、大火災、感染症などの緊急事態に遭遇した際、事業の中核となる機能を維持・早期復旧させるために、平常時と緊急時の対応方法を事前に取り決めておく計画のこと

「ありがとう」の温かさ 灯油販売から学んだ商いの原点

ーーまず、ビジネスに興味を持たれた原点についてお聞かせください。

矢野秀和:
私のビジネスの原点は、小学生の頃に父の仕事を手伝った経験にあります。父はスーパーマーケットを経営しており、冬場は灯油の巡回販売も行っていました。私が小学校3、4年生の冬休み、その手伝いについて行くと、灯油を届けた先のおばあちゃんが「お兄ちゃん、これ食べ」と言ってみかんをくれました。そのときに直接いただいた「ありがとう」という言葉の温かさ、お客様に喜んでもらえることのうれしさが、今でも私の事業の根幹にあります。

繁閑差という課題の克服 安定経営を目指した事業展開の決意

ーー独立した経緯と、独立当初、どのようなことに課題を感じていたか教えてください。

矢野秀和:
父が経営するスーパーが経営難に陥り、他社と合併しました。高校卒業後、私はその会社で父と共に働き始めましたが、合併先の社長から「灯油販売では飯は食えない!」といわれました。その言葉を受け、友人と2人で灯油販売事業での独立を決意しました。

灯油販売は11月から3月末までの5ヶ月が繁忙期です。冬は多忙を極める一方、残りの7ヶ月は仕事がほとんどありません。この繁閑差が経営上の大きな課題でした。また、冬の5ヶ月だけでは人材が定着しません。従業員の年間雇用を維持するため、年間を通じて仕事をつくる必要があると考え、夏場にできる事業を新たに模索しました。当初は海外への中古エアコンの輸出などを試みましたが、なかなかうまくいきませんでした。しかし、この挑戦が後の空調関連事業などにつながり、多角化への第一歩となりました。

二度の国難が生んだ事業の柱 社会インフラを支えるBCP支援

ーー事業における大きなターニングポイントについてお聞かせください。

矢野秀和:
大きな転機が2度ありました。1度目は2008年の原油高騰です。原油価格が3倍以上に跳ね上がり、灯油の売上は半減しました。このとき、灯油販売事業を主軸に置くリスクを痛感し、本格的に多角化経営へ舵を切ることを決断しました。

2度目の転機は東日本大震災です。私たちは被災地へ燃料支援に駆けつけ、社会インフラの維持の重要性を目の当たりにしました。復旧作業に不可欠な重機、避難所の暖房、通信基地局の非常用電源など、あらゆる場面で燃料が求められました。この経験から、有事の際に企業活動を止めないBCP支援の重要性に気づきました。

そして全国の拠点網を活かして、災害時の石油備蓄と配送を専門で行う日本BCP株式会社を立ち上げました。今では通信会社や病院など約150社と契約し、社会インフラを支える事業の柱へと成長しています。

お客様の「あったらいいな」を形に 13の事業を貫く共通理念

ーー現在多角的に事業展開されていますが、根底にある理念は何でしょうか。

矢野秀和:
私たちは、お客様の「あったらいいな」という思いを形にすること、そして「ありがとう」を集めることを大切にしています。大企業が手がけない、あるいは手がけられないニッチな分野で、お客様や社会のお困りごとを解決することに事業価値があると考えています。たとえば、高齢者世帯への灯油配達や過疎化で減少するガソリンスタンドの再生事業なども、その理念から生まれたビジネスです。

ーー事業ポートフォリオについて、具体的にご紹介いただけますか。

矢野秀和:
祖業である灯油販売に加え、BCP支援、空調事業、ウォーター事業が現在の主力です。その他全国15店舗のガソリンスタンドを運営しています。メガソーラー発電と太陽光パネル洗浄、官公庁の入札事業もその一例です。さらに、フランチャイズでのベーカリーやイタリアンバルの運営、ホテルのベッドメイキングなど、事業は多岐にわたります。これら13の事業を展開することで、安定した経営基盤を構築しています。

トリプル30戦略と五方よし 従業員と共に描く未来への展望

ーー多様な事業を支える人材の育成について、特徴的な取り組みはありますか。

矢野秀和:
従業員にはよく「冬は灯油、夏はエアコン。うちは大谷翔平選手より30年早い元祖二刀流だ」と話しています。季節ごとに専門性が異なる事業を両立させることで、従業員は多様なスキルを習得できます。このような複数のスキルを持つ人材こそが、変化の激しい時代を生き抜く力になると考えています。5年間基礎を学んだ後には幹部候補を募集するなど、挑戦を後押しする文化を大切にしています。

ーー最後に、会社の未来像についてお聞かせください。

矢野秀和:
私たちは「トリプルスリー戦略」という目標を掲げています。これは「30の事業を成功させる」「30人の経営者を創出する」「経常利益30億円の企業グループを目指す」という3つの目標です。今後はホールディングス体制のもと、各エリアの特性に合わせた事業を展開する「エリアカンパニー構想」も進めていきます。

ニッチな分野で圧倒的な存在感を放ち、お客様、従業員、地域社会、取引先、そして会社の「五方よし」を実現する企業であり続けたいと考えています。

編集後記

「ありがとう」という一つの温かい言葉から始まった同社の事業は、時代の変化と幾多の危機を乗り越え、今や社会インフラを支えるまでに成長した。一見、脈絡のないように見える13の事業も、「社会の困りごとを解決する」という視点で見れば、すべてが一本の線でつながっている。矢野氏が語る「二刀流」の人材育成や「トリプルスリー戦略」は、同社の挑戦し続ける力強さを象徴している。社会課題の解決を事業の核に据える同社の取り組みは、多くの企業が未来を切り拓くヒントとなるだろう。

矢野秀和/1970年大阪府生まれ。18歳で灯油の引き売りを事業とする株式会社秀和石油を創業。灯油小売業日本一を経て、現在は経営の多角化を推進。現在、13事業を展開し、2024年4月に、事業をホールディングス化。