
IT業界の慢性的な人材不足が叫ばれる中、独自のビジネスモデルで課題解決に挑むのがBCC株式会社だ。同社はIT業界未経験者を採用し、約2ヶ月間の集中教育を経て大手IT企業の営業職として派遣する「IT営業アウトソーシング事業」を展開。個人のキャリア形成と企業の成長を同時に支援する仕組みを構築している。学生時代に起業を決意し、日本電気株式会社(以下、NEC)での原体験を基に同社を創業した代表取締役社長の伊藤一彦氏。資金繰りに奔走した創業期、幾多の困難を乗り越え、2021年にグロース市場への上場を果たした同氏に、その軌跡と事業の核心、そして未来への展望を聞いた。
「学校の先生」から「IT企業の経営者」へ。20歳で決めた起業の道
ーーどのような経緯で、IT業界での起業を目指すことになったのでしょうか。
伊藤一彦:
もともと私は学校の先生になりたいと考え、大学の理学部で教員を目指していました。ところが、大学時代に経験した家庭教師の営業アルバイトが大きな転機になりました。その会社がベンチャー企業で、そこで初めてベンチャー企業という存在を知り、大きな衝撃を受けたのです。この出会いをきっかけに、20歳のとき、進路を学校の先生からベンチャー企業の経営者へと大きく方向転換しました。 とはいえ、すぐに独立できるほどのノウハウもありませんでしたから、まずは就職することにしました。1998年当時、これから起業するならIT分野だろうという認識が私の中にありました。いくつかの内定の中から、国内最大手であったNECに入社したのが社会人としてのスタートです。
ーーNECではどのような業務に携わり、その経験が創業に至る上でどのように影響したのでしょうか?
伊藤一彦:
NECではIT営業に従事しましたが、高いスキルが求められるにもかかわらず、その育成は現場任せでした。同期のエンジニアには体系的な研修があるのに、営業にはありません。これでは人は育たないと痛感し、「IT営業を育成する会社が必要だ」と確信したことが、私の原体験です。
NECを3年で退職後、知人のベンチャー企業で1年働き、その思いはますます強くなりました。そんな中、ソニーが法人向け代理店を探していると聞いて、これを機に独立を決意し、2002年3月に当社の前身である営業創造株式会社を設立しました。
資金繰りに奔走した創業期。度重なる倒産の危機
ーー創業期に最も苦労されたのはどのような点でしたか。
伊藤一彦:
何より資金繰りです。当時、株式会社の設立には1000万円が必要でした。しかし、社会人5年目の私には150万円ほどの貯金しかなく、残りは親族や知人から借り集め、最初から借金を抱えてのスタートだったのです。会社設立後も資金はあっという間に尽きてしまいました。最も苦しかったのは創業年の年末です。手元資金が10万円ほどしかないのにもかかわらず、借金は3000万円にまで膨れ上がっていました。夜は資金繰りに苦しむ夢で目が覚めるなど、精神的に追い詰められた時期でした。
ビジネスコンテスト優勝が転機。独自の教育体制で事業を確立
ーーその厳しい状況を乗り越えるきっかけとなった、ターニングポイントは何だったのでしょうか。
伊藤一彦:
明確な転機は、創業3年目の2005年に大阪市が主催するビジネスプランコンテストで優勝したことです。この優勝をきっかけに複数のベンチャーキャピタルから、合計1億4000万円の資金調達に成功しました。この資金を基に、私が本当にやりたかった事業を本格的にスタートさせることができたのです。それが「未経験者を採用・育成して大手IT企業に派遣する」という現在の主力事業です。
ーー事業を軌道に乗せる上で、どのような壁がありましたか。
伊藤一彦:
事業開始当初、私たちが直面した壁は、ITスキル以前のビジネスマナーでした。中途採用が中心だったので、基本的なマナーは身についていると考えていましたが、大手企業が求める水準との間にギャップがあり、多くのクレームをいただくことになったのです。この経験から社会人としての基礎から教える必要性を痛感し、「ITの基礎知識」「ビジネスマナー」「社内での実践営業経験」を3本柱とする現在の教育体制を構築しました。その結果、クレームはなくなり、派遣する社員の数も順調に増えていきました。
未経験者を2ヶ月で育成。IT業界の課題を解決する独自モデル

ーー貴社の事業の強みについて教えてください。
伊藤一彦:
最大の強みは、IT業界の未経験者を採用し、約2ヶ月で集中的に教育してプロとして大手企業に派遣する点です。お客様から選ばれる一番の理由は、シンプルに「営業の人数が足りない」という課題を解決できるからです。IT業界全体で営業職が不足しており、経験者の採用は非常に困難です。そこで私たちが未経験者の採用と育成を担うことで、お客様の採用計画を補完する役割を果たしています。
ーー貴社の教育プログラムにはどのような特徴がありますか。
伊藤一彦:
一人ひとりに合わせたカリキュラムを組むことを徹底しています。入社後の早い段階で「できること」と「できないこと」を明確にし、弱点を集中的に克服してもらうように指導しています。これを繰り返すことで、短期間での育成を可能にしています。また、当社でスキルを身につけ、派遣先の大手企業に正社員として転職していく社員も少なくありません。これはIT業界の営業職を増やすという私たちの理念に合致しています。さらに「大手企業に通用する人材を派遣してくれる会社」という信頼にもつながっています。
時価総額100億円へ。M&Aと人材育成で描く第二の成長曲線
ーー今後のビジョンと、その達成に向けたテーマをお聞かせください。
伊藤一彦:
私たちは東証グロース上場企業として、5年後の2030年までに時価総額100億円を目指しています。これは現在の5倍の規模です。達成のため、既存事業の成長に加え、M&Aを積極的に活用し、グループ経営で規模を拡大していく計画です。その実現には「幹部の育成」「商品開発」「人材採用強化」が不可欠だと考えています。
ーー多くのご経験の中で、経営者として大切にされている考え方を教えてください。
伊藤一彦:
NEC時代にメンターである大先輩からいただいた「かっこつけず、品良く」という言葉を常に意識しています。創業時に見栄を張って資金繰りに苦しんだ経験から、かっこつけることには何一つ良いことがないと学びました。また、品格がなければお客様との取引は続きません。この言葉は、これからも経営者として大切にしていきたい私の指針です。
成長意欲が未来を拓く。新たなステージへ挑戦する仲間を求めて
ーー貴社では、どのような人物像を求めていますか。
伊藤一彦:
能力面では、基本的なコミュニケーション能力を重視しています。マインドの面では、何よりも成長意欲のある方にきていただきたいです。IT業界は決して楽な仕事ではありませんが、その分、確実に能力が身につく環境です。自分自身を成長させるための努力を惜しまない方が向いていると思います。
また私たちにとって上場は第一ステージの終わりに過ぎず、これからが第二ステージの本当の始まりです。2030年の成長目標に向けて、事業も仲間もさらに拡大していきたいと考えています。DXが進む現代において、IT営業の役割は日本経済の成長に不可欠です。私たちの事業に共感し、共に成長を目指してくれる方と、ぜひ一緒に働きたいです。
編集後記
「かっこつけず、品良く」。伊藤氏が経営の指針とするこの言葉は、偽りのない哲学である。それは資金繰りに奔走し、幾度も倒産の危機に直面した創業期の壮絶な経験から生まれたものだ。未経験者に門戸を開き、大手IT企業への道筋をつくる同社のビジネスモデルは、成長を願う個人、人材を求める企業、そしてIT化という国の課題、そのすべてに応えている。上場を第一ステージの終わりと語る伊藤氏の視線は、すでにその先にある第二の成長曲線を見据えている。同社の挑戦は、これからも多くの人の未来を照らしていくことだろう。

伊藤一彦/1974年生まれ11月12日 (現在50歳) 大阪府大阪市出身。大阪市立大学(現:大阪公立大学)卒業後、日本電気株式会社入社。その後ベンチャー企業に転職し、2002年に現在の会社の前身となる営業創造株式会社を設立、代表取締役社長に就任。