
自転車部品の組み立て加工を主軸に、顧客への高い提案力で事業を展開する株式会社ウエテック。現在、同社を率いるのは、代表取締役社長の植航暉氏だ。創業者である父の背中を見て育った植氏は、高校卒業後に入社し、会社の成長と共に自身も歩んできた。従業員数5名の町工場から法人化、そして事業承継へ。先代から「従業員の暮らしを豊かにしたい」という思いを受け継ぎ、常に自ら考え、挑戦し続けることを信条とする。父が創業した年に生を受けた二代目経営者が描く、会社の未来像に迫る。
ゼロから学び築いた信頼と経営者への道のり
ーー家業を継ぐまでの経緯をお聞かせください。
植航暉:
私が0歳の時、父が個人事業として会社を興しました。高校卒業までは野球選手になることしか考えていませんでしたが、兄が後を継がないと決まった時、「父が20年間続けてきた会社を誰も継がないのは寂しい」と感じ、入社を検討するようになりました。そのことを父に伝えると、父からは「大学へ行くのと同じ4年間、22歳までは他にやりたいことがあれば挑戦していい」と言われました。自身の怪我の経験から、高校卒業後は柔道整復師の道も考えましたが、最終的に家業を継ぐことを選びました。
まずはアルバイトとして入りましたが、当時は従業員5名ほどの小さな町工場で、経営の大変さを肌で感じました。その後、2020年に法人化し専務取締役に、2023年から代表取締役を務めています。
ーー後を継ぐ覚悟が決まった、決定的な出来事があったのでしょうか。
植航暉:
父が入院し、私が全ての業務を担わなければならない時期がありました。取引先との連絡や現場の指示、配達まで全てです。その経験を通じて、自分がこの会社をやっていくのだという覚悟が自然と固まっていきました。ある取引先の方から「時代も会社も変わる。自分たちも変わらないといけない」と教わりました。そして、生産管理や経営について多くを学びました。この出会いも大きな転機だったと感じています。
会社が成長する中で従業員が増えると、年上の方ばかりで、なかなか指示が通りにくい時期もありました。そこで、まずは自分が現場の最前線に立ち、誰よりも成果を上げることで示していくしかないと、腹を括りました。
自ら考える組織へ導くためのリーダーシップ

ーー事業承継にあたり、会社として大事にされていることは何ですか。
植航暉:
先代からは「従業員の暮らしを豊かにしたい」という一番大切な思いを引き継ぎました。そのうえで、SDGsや働きやすい環境づくりといった社会貢献の取り組みは、私が継いでから新たに力を入れています。たとえば、お子さんが小さい方の急な休みにも柔軟に対応したり、資格取得の支援をしたりと、一人ひとりの働き方にできるだけ寄り添うようにしています。時代に合わせて会社も変わらなければならないと考えています。
ーー社員の方々には日頃どのようなことを伝えていますか。
植航暉:
「すぐに答えを求めるな」と常に言っています。「どうしたらいいですか」と聞くのではなく、まず自分で考えてほしいのです。その上で「次はこうしたいです」と提案する癖をつけてもらいたいと考えています。言われたことだけをやるのではなく、自ら考えて行動してほしい。「失敗しても責めないから、とにかく挑戦してほしい」と伝えています。昨年の会社のテーマも「挑戦」でした。挑戦し続けないと人は成長しないと考えています。
組織と技術の強化で実現する2030年への成長戦略
ーー改めて、貴社の事業内容についておうかがいできますか。
植航暉:
弊社の事業内容は大きく分けて2つあります。事業の主軸となっているのが、輸送用自転車部品の組み立てと加工です。これは全体の98%を占めており、例えば後輪の変速ギア部分などを手がけています。
もう一つが、精製水の製造・販売です。これは「バッテリー用補充液」とも呼ばれるもので、バッテリー式のフォークリフトなどに使われます。バッテリーの寿命を長持ちさせるために不可欠なもので、弊社で製造から販売まで一貫して行っています。
ーー貴社の強みと、今後の展望についてお聞かせください。
植航暉:
弊社の強みですが、一番はお客様に対する提案力だと考えています。これは、私が営業としてお客様と直接お話し、「こういうことができますよ」とご提案することから始まります。提案を実現する技術部門と、それを形にする生産部門。この両方が社内にしっかりと揃っています。この一貫した体制が、私たちの提案を支える大きな強みです。
それから、会社自体が若いことも強みです。その分、固定観念にとらわれない豊かな発想力があると思っています。
今後の展望としては、「ウエテックビジョン2030」を掲げ、社員一人ひとりがその想いを共有し、共通認識を持って取り組んでおります。このビジョンを実現するために、今最も重要な課題は「組織力」と「技術力」の強化です。人材や設備への投資を積極的に行い、特に自社設備の設計から対応できるエンジニアの育成・採用に力を入れていきます。自社内で新しいものづくりに挑戦し、より高度なご要望にも応えられる体制を築いてまいります。
事業の面では、これまで築いてきたお取引先様との関係をさらに深め、より幅広い分野でのご要望にお応えできるよう取り組んでまいります。そのためにも、弊社の強みである「組立」「一貫生産」のノウハウを生かし、これまでの実績をもとに新たな領域へのチャレンジを進めていきたいと考えています。
ーー最後に、どのような方と共に会社の未来をつくっていきたいですか。
植航暉:
弊社はまだ若い会社なので、共に成長し、挑戦できる方を求めています。即戦力であることよりも、向上心を持っていることが大切です。弊社には出した意見を否定せず、皆でより良いものをつくり上げていく環境があります。「やるべきことを愚直に、真摯に、徹底的に」という言葉を大切にし、その覚悟と行動でお客様の信頼を勝ち取ってきました。こうした思いに共感できる方と、ぜひ一緒に働きたいと考えています。
編集後記
会社が生まれた年に生を受け、父の背中を見ながら共に成長してきた植氏。その言葉の端々からは、自ら考え挑戦し続けることの重要性と、会社を未来へつなぐという強い意志がうかがえる。先代から受け継いだ従業員への温かい思いを胸に、二代目として新たな歴史を刻んでいく同社の挑戦に、今後も注目していきたい。

植航暉/1992年大阪府生まれ。高等学校を卒業後、ウエテックに入社(2020年に株式会社化)。2020年に同社専務取締役、2023年に代表取締役に就任。企業価値向上を目指し、ESG活動にも注力している。