
中古物件のホームステージング(※1)事業やリノベーション事業を手がける、株式会社カグカス。同社を率いる代表取締役社長の金保智也氏は、芸能界への挑戦を経て、訪問販売、不動産業界でトップ営業マンとして活躍したユニークな経歴を持つ。「自分の行動で結果が変わることに関しては、絶対に人に負けたくない」という強い信念を原動力に、常に一番を追求してきた。不動産売買の現場を知り尽くしたからこそ生み出せた独自のビジネスモデルは、いかにして生まれたのか。常識にとらわれない発想で道を切り拓いてきた金保氏の信念と、同社が描く未来像に迫る。
(※1)ホームステージング:物件の価値を高めるために家具や小物で室内を演出すること。
芸能界への挑戦から営業の世界へ 異色のキャリアの原点
ーーこれまでの経歴についてお聞かせください。
金保智也:
実家が町の小さなスーパーを営んでいて、幼い頃から商売が身近にある環境で育ちました。高校に進学したものの、勉強することがお金を稼ぐことにつながるとは思えず、「芸能人なら稼げるかもしれない」と思い立ちました。
高校1年生の時にオーディションに合格したのを機に学校を辞め、16歳で大阪に出ました。しかし現実は厳しく、すぐにはデビューできずに養成スクールに通う日々。夢は持ち続けていましたが、アルバイト先で営業の仕事に誘われ、試してみると意外に稼げたのです。そこで芸能界ではなく、営業の道を本格的に歩むことを決めました。
ーー営業という厳しい世界で、どのように困難を乗り越えたのでしょうか。
金保智也:
実は、営業をしていて「つらい」と思ったことがありません。私にとって知らない世界に触れることは面白い体験で、「やってみたい」という気持ちが先に立ちます。
最初は訪問販売の業界に2年ほどいましたが、当時は厳しい環境も当たり前でした。そうした経験を若いうちにできたことで、精神的に鍛えられたと感じています。「やらずに後悔するより、やって失敗した方がいい」と若い頃に学びました。また、「つらいなら止めればいい」と考えていますし、寝たら忘れる性格なのも乗り越えられた要因かもしれません。
誰にも負けない 圧倒的成果を生んだトップ営業の哲学

ーーその後、どのようにキャリアを積んでいったのでしょうか。
金保智也:
20歳から17年間、不動産業界で営業として働きました。当時から私の中に「定時」という概念はなく、お客様の都合に合わせて夜遅くまで商談し、深夜まで資料を作成するのは当たり前でした。夜中になってしまっても営業のために必要な資料を作る。それを「誰に言われるでもなくやる」、ただそれだけでした。
成績が良かった理由を振り返ると、やはりプロセスにこだわっていたからです。当時は物件の設備を説明する営業が一般的でしたが、私は「どうやったらお客様に伝わるか」「どうやったら買っていただけるか」というプロセスを人一倍深く考えていました。そこで私は、間取り図に家具を落とし込んだ資料を用意する工夫を自然とやっていました。この「暮らしのイメージを伝えるプロセス」への徹底したこだわりが、圧倒的な成果につながったといえます。
ーー多くの人がやらないような行動を徹底できたのはなぜですか。
金保智也:
やっていることは「人がやりたくないことを工夫して行う」、ただそれだけです。どうすれば人に勝てるかを常に考え、思いついた方法を試して、だめなら次へ行く。その繰り返しで成果を出してきました。
その原動力となっているのが、幼少期の体験です。運動会で足の速さは才能で決まる部分がありますが、障害物競走や縄跳びは努力すれば誰でも一番になれます。私は、自分の行動や努力で結果が変わることに関しては、絶対に人に負けたくなかったのです。「やるからには一番を目指す」という考え方は、子どもの頃から私の中で当たり前になっていました。
課題解決こそが事業の本質 ホームステージングで業界を変える
ーー貴社の創業の経緯と、なぜ独立の道を選んだのか教えてください。
金保智也:
高額な不動産を売るのは難しいと思われがちですが、私は簡単だと感じています。なぜなら、不動産は「動かない」ものですし、そこにしかない一点物だからです。ですので、お客様から「見たい」と足を運んでいただけます。訪問販売のように「売りに行っていた」ことと比べて「お客様が買いに来てくれているのに、どうして売れないの?」と思っていました。
しかし、ある時気づきました。物件の設備説明だけでは、お客様が本当に知りたい「そこでどんな暮らしができるか」という情報が十分に伝わっていません。そこで、モデルルームに家具を置いたり、お子様が遊べるスペースをつくったりする工夫を始めたところ、成約率が劇的に上がりました。
この経験がきっかけで、まずは不動産仲介業から始めました。しかし、仲介業だけではなかなか稼げずにいました。そのとき、「家具を設置する」というアイデア=ホームステージングを事業にしようと決意しました。お客様と不動産会社、双方の課題を解決できるこのサービスは、必ず成功すると確信したのです。

ーー現在の事業における、同業他社に対する強みは何でしょうか。
金保智也:
強みは3つあります。1つ目は、社長である私自身が不動産売買の現場を知り尽くしていることです。業界の課題やニーズを本質的に理解している点は、他社にはない強みだと自負しています。また弊社のメンバーも、不動産を深く理解している人材で構成しています。他社のコーディネーターは色合わせやデザインなどの相談に乗ります。しかし弊社は、「物件の価値を高めるためにどうすべきか」を主体的に考えられる不動産のプロが担当します。現場の課題を本質的に理解しているスタッフたちだと自負しています。
2つ目は、戦略が明確であることです。私たちは当初から予算を持つデベロッパー(※2)との取引に特化しました。特に成長市場である中古再販の領域で、他社が大手仲介会社を攻める中、私たちはデベロッパーを攻めるという「戦略的な差別化」を図ることで、競合することなくシェアを拡大できたのです。
3つ目は、物件の価値を上げることにコミットしている点です。単におしゃれに飾るのではなく、その物件の価格帯にふさわしい質の高い家具を選び、そこでの暮らしがイメージでき、お客様が住みたいと思える空間をつくり出しています。安い家具は、物件の評価を上げません。デザインにこだわり、「質の高さ」にこだわっている点が、他社との決定的な違いです。
(※2)デベロッパー:不動産開発事業者のこと。
売上100億円のサブスクモデルへ 人が輝く会社の未来図
ーー今後の事業展開について、どのような展望をお持ちですか。
金保智也:
最終的には、中古物件のリノベーション、ホームステージング、そして販売までをワンストップで提供することを目指しています。中古物件を預かり、価値のある住まいに生まれ変わらせて、契約までをすべて私たちが完結させる体制を今まさに構築しているところです。
事業目標としては5年後に売上100億円を掲げています。ただし、目指しているのは、毎年自動的に100億円のオーダーが入ってくる「サブスクリプションモデル」の構築です。必死に営業に奔走しなくても、お客様から自然に選ばれる安定した事業基盤を築きたいと考えています。
ーー事業を成長させる上で、人材についてはどのようにお考えですか。
金保智也:
スタッフ一人ひとりが輝ける会社にしたいです。特定のスタッフをブランディングし、「あの人に頼みたい」と言われるようなタレントを育てていきたいと考えています。
また、弊社は特に女性が多いため、結婚や出産といったライフステージの変化に対応し、誰もが長く働き続けられる環境を整えたいと思っています。若いうちにリモートでも働ける技術を身につけてもらえれば、メンバーの自己肯定感も高まります。さらに、事業拡大のために組織をきちっと見ることができるCFOやCOOといった2番手の存在も求めています。
編集後記
芸能界への挑戦から始まり、営業の世界でトップを極め、そして起業家へ。金保氏のキャリアを貫くのは、「自分の行動で、絶対に人に負けない結果を出す」という信念だ。この信念は、不動産のプロとして現場を知り尽くしたからこそ見える業界の構造的な課題を、「ホームステージング」という独自の解決策に昇華させている。単なるコーディネートではなく、「物件の価値を上げ、買い手と売り手双方を納得させる」という本質にコミットするその姿勢こそが、カグカスの真の強みだろう。「毎年100億円のオーダーが入る安定した事業基盤」を確立し、メンバー一人ひとりが輝く組織をつくるという同氏の挑戦は、不動産業界に新たな「質」の基準を打ち立て、多くの人の未来を照らしていくに違いない。

金保智也/1980年京都府生まれ。高校中退後、20歳から不動産営業に従事。多くの住宅販売に携わる中で売り手本位の市場に疑問を感じ、「売れてよかった」だけでなく「買ってよかった」と思える取引の重要性を痛感。2018年、不動産の価値を可視化するホームステージング事業、株式会社カグカスを設立。買い手と売り手双方が納得できる取引の実現を目指す。