
札幌を拠点に、IoT技術で社会課題の解決に挑むエコモット株式会社。建設現場の安全管理など、多岐にわたる解決策を展開している。ハードウェアからクラウドまで自社で一貫して手がける技術が強みの企業だ。東日本大震災を機に「命を救うIoT」という使命を掲げ、独自の哲学で挑戦を続ける代表取締役、入澤拓也氏。起業の原点から、会社の未来を決定づけた転機、そして「未来の常識」を創るためのユニークな戦略と組織論に迫る。
モバイルコンテンツからIoTの世界へ 模倣困難な事業への挑戦
ーー起業された経緯をお聞かせください。
入澤拓也:
前職ではフィーチャーフォン向けの着信メロディサイトを運営し、「音を売る」ことに徹底していました。しかし私は、モバイル技術の可能性を別分野で試したいという思いが強くなり、2007年に独立しました。直後にiPhoneが登場し、テクノロジーの進化に適応する必要性を強く感じました。
着メロサイトは競合が多く、企画がすぐに模倣される状況でした。そのため、起業当初は「誰にも模倣されないビジネスモデルを創りたい」という思いが強かったです。当時注目され始めていたM2M(※1)の世界観を実現したいと考えました。コンテンツ事業出身の私たちにはハードルが高いハードウェア開発を絡めることで、模倣されにくい事業を創ろうと挑戦を決めたのです。
(※1)M2M(Machine to Machine):機器同士が直接ネットワークを介して相互に情報をやり取りし、自動的に制御や処理を行う仕組み
現場での後悔から生まれた「命を救うIoT」という揺るぎない使命

ーー事業展開する中で、最も大きな転機は何でしたか。
入澤拓也:
最大の転機は、起業4年目に経験した東日本大震災です。当時、建設現場の安全を守るセンシングサービスを展開していました。しかし震災時、「弊社の技術がもっと普及していれば、救えた命があったはずだ」と強く感じました。「自分たちに営業力があれば、もっとやれたのに」という後悔は、今も辛い経験として心に残っています。
この経験から「命を救うIoT」という考えが会社の核となりました。創業当初は社名の通り環境問題への貢献を志していました。しかしそれ以上に「私たちの技術は人の命を救うためにあるべきだ」と強く思うようになったのです。そこから、防災や交通事故削減といった領域へ事業の軸足を本格的に移しました。
大手がいる市場にこそある勝機「未来の常識」を創る逆張り戦略
ーー経営者として大切にされている信念や哲学についてお聞かせください。
入澤拓也:
弊社の理念は「未来の常識を創る」ことです。テクノロジーで、将来当たり前になるような世の中にまだないものを創る。新しい常識で世の中を変える。そのために「他社がやっていることはやらない」というルールを徹底しています。誰もやっていないことに挑戦するのが私たちの存在価値です。
新しいことへの挑戦は失敗のほうが多く、勝率は1勝9敗くらいです。しかし、失敗を恐れていては成功などあり得ません。私たちは失敗しても「ナイス・トライ」と捉えるようにしています。その結果、一つひとつは失敗に見えても、その失敗が次の成功に繋がっていると実感することも多々あります。
ーー競合の存在はどのように捉えていますか。
入澤拓也:
ベンチャー同士の戦いは不毛な競争に陥りがちなので避けます。むしろ、大企業がいる市場にこそ切り込むべきだと考えています。大手がいるのはマーケットがある証拠です。私たちのようなベンチャーはスピードと価格で勝負できるので、独自の切り口で挑む方が面白いと考えています。
独自のワンストップ体制と「全力で遊ぶ」ことを推奨する組織文化
ーー貴社ならではの強みは何でしょうか。
入澤拓也:
IoTに関わる全領域の技術者を社内に抱えている点です。ハードウェア、それを制御するソフトウェア、通信、クラウド、インフラまで。弊社はこれら全てをワンストップでお客様に提供し、課題解決にあたれます。業界では各工程を別の企業が担う分業体制が一般的です。私たちは設計からクラウド構築まで一貫して対応できることを最大の強みとしています。
ーー経営者として大切にされていることはありますか。
入澤拓也:
社員には「100%仕事をしたいなら、100%遊べ」と伝えています。これは私の持論で、「ベンチプレス式ワークライフバランス」と呼んでいます。ベンチプレスは左右の重さが少しでも違うと不安定になり、重りを持ち上げられません。仕事とプライベートも同じです。両方に100%の熱量を注いでこそ最高のパフォーマンスが発揮できると考えています。全力で遊べる人間は仕事でも良い結果を出すものであり、遊びと仕事の成果は間違いなく比例します。
こうした文化を育むため、社員の家族も参加できるキャンプイベントなどを積極的に開催しています。また、北海道内でも有数ですが、男性の育児休暇取得率が100%である点も弊社の特徴です。これからの時代、子育ては男女が共に担うのが当たり前です。社員が安心して仕事にもプライベートにも全力で打ち込める環境づくりを大切にしています。
札幌の地から発信する次世代の社会インフラと未来への展望
ーー今後の目標についてお聞かせください。
入澤拓也:
「IoTといえばエコモット」と、真っ先に名前が挙がる存在になりたいです。昨今「IoTは儲からない」と言われることもあります。しかし私はそうは思いません。むしろ、これから絶対になくならない普遍的な社会インフラになると確信しています。
たとえば、通信機能付きの自動販売機やドライブレコーダーです。これらは今や当たり前ですが、一度その利便性を知ると後戻りはできません。私たちは、生活に溶け込むIoTインフラを支えると共に、新しいサービスを創出する企業として社会に認知されたいと考えています。
ーーその先の未来について、どのような展望をお持ちでしょうか。
入澤拓也:
将来的には、創業時の理念に立ち返りたいです。CO2削減や新エネルギーといった環境問題の解決に、私たちの技術で貢献していきます。そして、私たちが常に追い求めているのは、まだ見ぬ「未来の常識」を創ることです。数年前まで特別だった飲食店のモバイルオーダーが今や当たり前になりました。「こうなれば絶対に便利だ」と確信できる未来は、必ず実現すると信じています。私たちは、そうした世の中の当たり前を一歩先取りして社会に実装します。そんな「未来の常識」を、愛するこの札幌の地から発信し続けていきたいです。
ーー未来の実現に向けて、どのような人材を求めていますか。
入澤拓也:
世の中の新しいテクノロジーに対して、純粋な好奇心を持てる方に来てほしいです。私は面接で「スマホにアプリはどれくらい入っていますか?」と聞くことがあります。これは新しいサービスやツールを面白がり、まずは試す姿勢があるかを知りたいからです。
指示されたものをつくるだけでは物足りない。自ら情熱を持って「面白いサービス」の開発に携わりたい。そのような方を歓迎します。そんな新しいものが好きで、旺盛な好奇心を行動に移せる仲間と共に、「未来の常識」を創っていきたいと考えています。
編集後記
「未来の常識を創る」という壮大な理念と、「大企業がいる市場にこそ挑む」という逆張りの経営哲学。入澤氏の言葉は、終始ぶれることのない強い意志を物語る。その根底には、東日本大震災を機に定まった「命を救うIoT」という揺るぎない使命感がある。事業の強みであるワンストップの技術体制と、「100%遊べ」という独自の組織文化。これらは同氏の使命と哲学を推進するための両輪だ。札幌からまだ見ぬ未来を創造しようとする同社の挑戦から、今後も目が離せない。

入澤拓也/1980年生まれ、北海道札幌市出身。アメリカHighlineCommunityCollegeを卒業後、2002年クリプトン・フューチャー・メディア株式会社に就職し、モバイルコンテンツのサイトの運営などに携わる。2007年、IoTソリューションの提供を行うエコモット株式会社を設立し、代表取締役に就任。