
インターネット広告の黎明期から業界をけん引してきた株式会社イーエムネットジャパン。代表取締役社長の山本臣一郎氏は、オーストラリア・ニュージーランドでのラグビー留学を経て広告の世界へ飛び込んだ異色の経歴を持つ。紙媒体からデジタル広告への転換期を肌で感じ、実績を重ねてきた同氏は、2018年に東証マザーズ(現グロース市場)への上場を達成。2021年にはソフトバンクグループ株式会社の一員となり、現在は生成AIを活用した新たな事業創造に挑んでいる。変化を恐れず、常に挑戦を続ける山本氏の覚悟と展望に迫る。
異色の経歴 デジタル広告の夜明けとキャリアの原点
ーー山本社長のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
山本臣一郎:
私は山形県で生まれ育ち、県内の強豪校でラグビーに青春を捧げました。より高いレベルを求め、ラグビーの本場であるオーストラリアとニュージーランドに留学しましたが、不運にも首を負傷し、選手としての道を断念せざるを得ませんでした。
帰国後の1995年、縁あって印刷広告の世界に身を置きましたが、時代はまさに紙からインターネットへの大きな転換期でした。1996年の「Yahoo! JAPAN」登場などを目の当たりにし、「広告の未来は必ずデジタルにある」と直感が働きました。
その思いを胸に、インターネット広告配信のインフラを手がけるダブルクリック株式会社(当時)へ転職し、本格的にネット広告のキャリアを歩み始めました。国内外の顧客を相手に導入や運用コンサルティングを手がけ、この業界の礎を築く経験を積みました。その後、トランス・コスモス株式会社を経て、韓国のイーエムネット社と出合ったことが、私のキャリアの大きな転機となりました。
イーエムネットとの出合いと上場への覚悟

ーーどのような経緯で、社長に就任されたのでしょうか。
山本臣一郎:
当時在籍していたトランス・コスモス株式会社が韓国イーエムネット社への出資を検討する際、私が現地調査を担当したことがきっかけです。その際に同社の経営陣と意気投合し、信頼関係を築くことができました。そのご縁から、彼らが日本進出する際にマネジメントを任される形で合流し、2016年に代表取締役社長に就任しました。
ーー社長就任後、黒字で堅調だったにもかかわらず、上場を目指されたのはなぜですか。
山本臣一郎:
さらなる飛躍を模索していた2015年、韓国出張での韓国親会社(当時)との会話が契機になりました。日本の市況について「赤字でも上場した企業がある」という話をしたところ、「君たちの会社は黒字なのだから、挑戦できるはずだ」と強く背中を押されたのです。その言葉で私の覚悟が決まりました。
経営で最も重視している「人との信頼関係」が、ここでも支えとなりました。当時の親会社が私を信じてくれたように、私も社員を信頼し、大きな裁量権を委ねています。上場準備は困難の連続でしたが、株主や社員と「何としてもやり遂げる」という覚悟を共有し、一丸で乗り越えた経験は、今も私たちの大きな財産です。そして2018年、念願だった東証マザーズ(現グロース市場)上場を果たすことができました。
ソフトバンクグループとのシナジー 加速する生成AI戦略と今後の展望
ーー社長就任後、他にも取り組んだことはございますか。
山本臣一郎:
コロナ禍で地方や中小企業の広告需要が落ち込む中、独立系起業のままでは持続的な成長は難しいと判断しました。そこで、社員の未来と事業の安定のため、2021年にソフトバンクグループに参画することを決断しました。韓国親会社(当時)も「それが最善の選択ならば」と我々の意思を尊重し、快く承認してくれました。
グループに参画したことで、生成AI分野における圧倒的な情報量と新たな協業機会という、最大の強みを得ました。これにより、独立系では不可能だった大規模な研究開発にも挑戦できるようになっています。
このスケールメリットは、すでに大きなシナジーを生み出しています。グループの投資先である最先端のAI企業群との協業。大手クライアントとの事業で得られた最先端の知見を、AI未導入の企業様への展開。そして、中小企業支援で培った現場のノウハウを大規模開発へ活用。このように、企業の規模を横断して知見とノウハウを活用し、あらゆる顧客に価値を提供できること。これこそが、私たちの独自の強みです。
生成AIの登場は、PCからスマートフォンへの移行期に匹敵する、あるいはそれ以上の巨大な変革の波です。弊社では業務効率化に留まらず、「生成AIで稼ぐ」新たなサービスを創出することを目指しています。短期では1年、長期でも3〜5年以内に実用化すべく、全社員がプロフェッショナルとしてこの挑戦に臨んでくれることを期待しています。
ーー今後の採用や人材育成についてもお聞かせください。
山本臣一郎:
弊社は毎年20〜30名の新卒採用を継続しており、「コミュニティ」を尊重する文化が根付いています。同期やチームで支え合いながら成長していく環境で、派手さよりも真面目さを尊ぶ社員が多く、女性比率が6割を超えているのも特徴です。
特に新人教育には並々ならぬ情熱を注いでいます。創業期の教育不足を痛感した経験を持つ女性役員が、自身の経験を元にゼロから教育カリキュラムを構築しました。この育成スキームは、お客様の広告運用を内製化支援する事業にも応用されており、若手社員がお客様に伴走できるプロへと成長する基盤となっています。
今後は、生成AIを理解し、私たちと共に新たなビジネスを創造できる人材を育てていきたいと思います。数年後、あらゆる中小企業が当たり前にAIを活用する時代が来たとき、その需要に的確に応えられる体制を築いておくことこそ、私たちの使命だと考えています。
編集後記
ラグビーで培われた挑戦心と、幾多の大きな決断を行ってきた「覚悟」。山本社長の歩みは、変化の激しいインターネット広告業界で常に成果を求め続ける、まさに先駆者のそれであった。生成AIへの深い洞察とソフトバンクグループ株式会社のシナジーを最大限に活かす戦略は、同社が単なる広告代理店の枠を超え、日本のビジネスシーンに新たな価値をもたらすだろう。

山本臣一郎/1971年、山形県生まれ。オーストラリア・ニュージーランドへのラグビー留学を経て、1999年ダブルクリック株式会社(当時)入社。インターネット広告黎明期から国内外で多数の実績を積む。2016年株式会社イーエムネットジャパン代表取締役社長に就任。2018年に上場を実現。2021年以降はソフトバンクグループ株式会社の一員として、生成AIの事業活用に積極的に取り組んでいる。