※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

「珈琲館」「カフェ・ベローチェ」や「カフェ・ド・クリエ」など、全国に560店舗以上のカフェを展開するC-United株式会社。同社を率いる代表取締役社長の友成勇樹氏は、飲食業一筋のキャリアを歩んできた人物だ。幼少期に職人の世界に触れ、マクドナルドでは経営を科学することを学ぶ。そしてアメリカでMBAを取得しグローバルな視点を養うなど、その道のりは常に挑戦の連続であった。経験と勘という「心」と、定量的分析に基づく「科学」。この両輪を経営の軸に据え、コロナ禍という未曾有の危機を乗り越えた。今まさに次なる成長ステージへと舵を切る友成氏に、これまでの軌跡と未来への展望を聞いた。

幼少期の原体験と学生起業の大きな挫折

ーー飲食業との最初の接点についておうかがいできますか。

友成勇樹:
物心ついたときから、生活の中に飲食業がありました。父が不動産業の傍ら銀座で寿司屋などを経営し、母がその店を切り盛りしていたのです。そのため、私は小学校1年生の頃から店を手伝っていました。飲食店の基本的なことはそこで徹底的に叩き込まれました。

その後、大学在学中には当時流行していた学生起業に挑戦し、新宿で飲食店を開きました。しかし、事前のリサーチを全くしないまま、土地勘のない新宿二丁目で出店してしまったのです。どんな街かも分からずに始めたため、大変苦労しました。結局、店は2年で畳むことになり、借金だけが残りました。

ーー社会人になってから独立されるまでの経緯をお聞かせください。

友成勇樹:
学生起業で抱えた借金を返済するために日本マクドナルドに入社したのが、私のキャリアの本格的なスタートです。入社当時は「借金を返済する」という明確な目的があったので、「背負っているものが違う」と自分に言い聞かせ、とにかく早く昇進する必要がありました。がむしゃらに働いた結果、通常5年ほどかかる「ファーストアシスタントマネージャー」には1年3ヶ月で、通常10年かかると言われていた店長には3年強で昇進することができました。これは、同期276名の中ではトップのスピードでした。そして、店長になったことで給与も上がり、抱えていた借金をなんとか返済することができたのです。

成長を求め続けた3年半にわたる米国での挑戦

ーー店長としてご活躍された後、キャリアはどのように展開したのでしょうか。

友成勇樹:
31歳でスーパーバイザーになり、その後34歳の時にアメリカ本社へ赴任し、4年間を過ごしました。最初の2年間は、日本マクドナルドの現地法人でバイスプレジデントを務めました。その後はアメリカ本社に籍を移し、マクドナルドの教育機関である「ハンバーガーユニバーシティ」で、全世界の中間管理職を育成するプロフェッサーとして教鞭を執っていました。

また、アメリカでの最初の任務は日本での業務と大きく変わらず、このままでは成長できないと感じたため、赴任3ヶ月目から夜間のビジネススクールに通い始めました。フルタイムで働きながらでしたので大変でしたが、3年半かけてMBAを取得しました。この期間は本当に勉強漬けで、平均睡眠時間は3時間半、平日は毎日5時間、土日は16時間以上勉強するという生活を続けていました。

マクドナルド在籍中、2001年に日本へ帰国すると、MBAを持っていたことから新規事業開発本部の責任者を任されました。そこで担当したのが、当時ヨーロッパで人気だったサンドイッチチェーン「プレタ・マンジェ」(※1)の日本展開です。

ーー大手飲食店の経験での気づきなどがあれば教えてください。

友成勇樹:
それまで私が経験してきた飲食業は、いわば職人の経験と勘が全ての「どんぶり勘定」の世界でした。しかし、マクドナルドは全く違いました。全てが定量的に分析され、物事が決められていて、全てが「科学」だったのです。

例えば、店内で行われるのは「調理」ではなく、全て「作業」です。作業は温度と時間で管理できるため、職人技は必要ありません。他の飲食業の泥臭さを知っていたからこそ、その合理性には「なんてすごいんだ」と、まさに目から鱗が落ちる思いでした。

事業成功の鍵となる「心」と「科学」の二軸経営

ーー貴社へ参画された経緯と、就任直後の状況についてお聞かせください。

友成勇樹:
マクドナルド退社後、モスフードサービス株式会社などで経営に携わりました。様々な経験を積む中で、2018年に現在の会社の母体である珈琲館の事業再生の話をいただき、その後シャノアール社(現在はカフェ・ベローチェのみ)についてもご縁があって挑戦することに決めたのです。

シャノアール社は2020年に事業を引き継いだのですが、その直後から新型コロナウイルスの感染が拡大し、業績は見る見る悪化。「しまった」というのが正直な気持ちでした。しかし、1年ほど経つと助成金などの支援も始まり、結果的にはそれを活用して経営を立て直すことができました。

(※1)プレタ・マンジェ:ロンドンを拠点に展開するプレミアム・サンドイッチ・ショップ。

ーー社長が経営において、最も大切にされていることは何ですか。

友成勇樹:
飲食業は、経験と勘に代表される「心」の部分がとても重要です。差別化されたセンスや面白いアイデアはそこから生まれます。しかし、それだけでは事業を拡大していくことはできません。一方、売上ポテンシャルや投資効果を分析する「科学」の部分だけでも、魅力的な店はつくれません。「心」と「科学」の両方が揃って初めて、事業は成功すると考えています。

ブランドの個性を最大化する緻密な戦略

ーー展開されているブランドについて、それぞれのコンセプトを教えていただけますか。

友成勇樹:
お客様の利用動機を基に、それぞれの業態で明確な位置づけを定めています。具体的には、「Wants」(目的を持って来店される)と「Needs」(通りがかりに利用される)という2つの視点です。

まず「珈琲館」は、「行こう」という目的意識、つまり「Wants」で来店されることを想定した店舗です。割合でいえば7:3ほどで、品揃えや空間づくりもその点を重視しています。

対象的に、「カフェ・ベローチェ」は日常の「Needs」に応える役割を担います。「どこかへ行く途中の中間点」といった偶発的なご利用が中心で、気軽に入りやすい「使い勝手の良さ」が個性です。

そして「カフェ・ド・クリエ」は、これまで両者の中間的な立ち位置でした。目的を持って来店される女性のお客様も多い一方で、「Needs」の側面も強く、個性が明確でなかった点が収益面の課題でした。そこで現在は、より「Needs」の要素を強化し、4:6の比率を目指して見直しを進めています。

このように各ブランドの役割を明確にし、それに基づいて立地やメニュー構成といった戦略を最適化することで、事業全体の収益向上を図っているのです。

珈琲館
カフェ・ベローチェ

地域貢献を担う「寺子屋」としてのフランチャイズ戦略

ーー人材育成について、どのような取り組みをされていますか。

友成勇樹:
一昨年に、社内教育制度(研修プログラム)として「珈琲大学」をスタートしました。これはアルバイトの初日から始まり、社員が在籍している期間中、常に学び成長し続けられる「キャリアロングラーニング」(※2)のための仕組みです。私が「ハンバーガーユニバーシティ」で専門的に学んだ教育システムを導入しており、ここまで体系化された育成プログラムを持つ飲食企業は少ないと思います。

一番身につけてほしいのは、仮に弊社を辞めたとしても、次のキャリアで活かせるポータブルなビジネススキルです。特にビジネスコミュニケーション能力は重要だと考えており、相手との信頼関係の築き方や状況に応じた対話の進め方など、その基礎となる多様なスキルを教えています。ここで得た学びが、彼ら自身の人生を豊かにしてくれると信じています。

(※2)キャリアロングラーニング:生涯にわたって学び続け、自己のキャリアを前向きに充実させるための学習活動のこと

ーー現在、注力されている取り組みは何ですか。

友成勇樹:
フランチャイズ展開に力を注いでいます。その地域のことを深く理解されている名士の方々に、私たちのブランドを活用していただくことで、それぞれの町へ貢献を果たしてほしい、という思いがあるからです。

この考え方は、アメリカのマクドナルドで学んだことが根底にあります。アメリカのフランチャイズ店の多くは、その地域の有力者がオーナーを務めています。そして、お店では若者たちに挨拶の仕方や働くことの意義を教え、お金を稼ぐことの大切さを伝える「寺子屋」のような役割を担っているのです。

親御さんたちも安心して子どもをアルバイトに行かせられるような、地域の人材育成の場となること。それこそがフランチャイズビジネスの理想だと考えています。私たちも、お店を通じてそうした役割を果たしていきたいのです。

CAFÉ de CRIÉ(カフェ・ド・クリエ)

日本の喫茶文化を世界へ グローバル市場で描く成長戦略

ーー今後の事業展望についてお聞かせください。

友成勇樹:
国内では、現在の約560店舗からさらに拡大の余地があると考えています。そして近い将来的には、海外への進出も本格的に考えています。まずは東南アジア、そしてインドも有望な市場だと見ています。インドはすでにマーケットリサーチを終えており、現地のパートナーと組む形で、そう遠くない将来に実現したいと考えています。

ーー最後に、これからキャリアを築く若者へメッセージをお願いします。

友成勇樹:
最も重要なスキルは、ビジネスコミュニケーションだと思います。専門的な知識やスキルももちろん大切ですが、社会でうまくやっていくためには、円滑なコミュニケーション能力が不可欠です。社内で起こる問題のほとんどは、コミュニケーションのずれが原因です。ぜひ、自分自身のためにそのセオリーを学んでスキルを磨き、自分の人生をより良くしてほしいと願っています。

編集後記

幼少期に銀座の寿司屋で触れた職人の「心」。マクドナルドで叩き込まれた経営の「科学」。友成氏の経営哲学は、その両極を実体験として知るからこそ生まれた、揺るぎない説得力を持つ。睡眠時間を削り、MBAを取得した壮絶な努力の日々は、常に学び、自身をアップデートし続ける姿勢の表れだ。同社は今、国内での成長はもちろん、世界という大海原へ漕ぎ出そうとしている。同氏が率いる挑戦の航路に、これからも注目していきたい。

友成勇樹/1963年東京都生まれ。1986年中央大学商学部を卒業後、日本マクドナルド株式会社へ入社。1997年より米国マクドナルド本社へ赴任し、在任中にMBAを取得する。2002年に日本プレタ・マンジェ株式会社の代表取締役社長に就任。2004年に日本マクドナルド株式会社を退社して独立。株式会社モスフードサービスの取締役などを歴任。2018年に珈琲館株式会社、2020年に株式会社シャノアールの代表取締役社長に就任。2021年、両社の合併によりC-United株式会社の代表取締役社長に就任。2022年、株式会社ポッカクリエイトの代表取締役会長に就任。2023年1月の株式会社ポッカクリエイトとの合併を経て、現在に至る。