※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

日本企業のグローバル展開とDX推進が急務とされる昨今。その強力なビジネスパートナーとして注目を集めるのが、FPTジャパンホールディングス株式会社だ。同社はベトナム発のICT企業、FPTコーポレーションの日本法人で、日本の構造的な課題である少子高齢化とIT人材不足に対し、強固な人材供給力で応えている。同社の取締役会長を務める谷原徹氏は、CSK(現・SCSK)時代に技術畑でキャリアを築き、経営危機や大規模な組織統合を乗り越え、社長にまで上り詰めた実力者である。谷原氏は、経験で培った組織マネジメントの信念と、日本企業の再成長への熱い思いを抱いている。本稿では、同氏が語るミッションとビジョンを紹介する。

技術一筋から経営の道へ 人と組織に向き合った半生

ーー貴社に入社される前までのご経歴について教えてください。

谷原徹:
1982年に大学を卒業後、CSK(現・SCSK)に入社し、最初の16年間は一貫して技術畑を歩みました。特に銀行の第3次オンラインシステムの開発に10年間携わりました。システムプログラマーとしてプログラム作成に心血を注いだのです。夜間に稼働するシステムの開発は過酷を極めましたが、この経験がその後のキャリアの土台となりました。

大きな転機は、新入社員の教育責任者という予期せぬ辞令でした。年間300〜400名もの新入社員を育成する任務を半年間務めました。上司からは「会社は技術だけではない。人を育てることこそが最も大切だ」と厳しくいわれ、技術者としての道を一度離れることになります。当初は異動を希望していませんでしたが、この経験を通じて、若い力の素晴らしさや組織・チームの重要性を深く実感しました。

ーーこれまでのキャリアの中で、最も困難だった出来事ついてお聞かせください。

谷原徹:
当時のCSKグループは、不動産投資などにより経営基盤が揺らぎ、経営危機の渦中にありました。ホールディングスの一員として再建に向けて奔走する中、私が担ったのはファンドの窓口役。支援先を探し続けた、孤独な日々でした。

複数の候補が挙がる中、選択肢として浮上したのが住友商事の100%子会社である住商コンピュータサービスとの合併でした。その際、私は社員が困惑する事態を避けることを第一に考えました。そして「吸収合併ではなく、対等な立場で合併したい」という思いを当時の社長へ伝えました。そこには社員の雇用と会社の成長を守り抜きたいという一心がありました。そして「これが実現しないなら退職も辞さない」という強い覚悟がありました。

ーー貴社に入社された経緯についておうかがいできますか。

谷原徹:
2022年にSCSKの社長を退任した後は、住友商事の顧問としてグローバルなDX推進を支援していました。しかし権限のない立場でサポートするよりも、主体的に働ける環境を求めていたのです。

そのような折、ベトナムのFPTコーポレーション会長から4年越しの誘いを受けました。当初は長年の国内企業での経験をふまえ、その誘いを固辞していました。しかしFPT会長から「日本の全てを見てほしい」と経営を託されます。FPTジャパンを「真の日本企業」へ成長させるビジョンにも共感しました。そして、再び経営の最前線に立つことを決意したのです。

日本企業の相棒という大志 強固な人材供給力で拓く未来

ーー貴社の事業に対する強みをお聞かせください。

谷原徹:
弊社の強みは、日本の大きな課題に対応できる人材供給力です。日本は少子高齢化とIT人材不足という課題を抱えています。現在、弊社には4,800名の社員が日本に在籍しています。FPTグループは小学校から大学院まで15万人の生徒を擁し、すべてITを基盤とした教育を行っています。この強固な人材供給力が、私たちの大きな武器となっているのです。

ーー今後、どのような会社を目指していますか。

谷原徹:
弊社は創業者ビン会長が「日本企業の相棒になる」ことを究極のビジョンとしました。日本には「失われた30年」と言われる時期がありましたが、デジタル化が進む今こそ大きなチャンスがあると考えています。IT先端技術を駆使し、日本の生産性を向上させ、世界に出ていかなければなりません。そうしなければ、日本のものづくりはさらに遅れをとる可能性があります。

ベトナム人社員は、勤勉さとハングリー精神に富み、日本の約30〜40年前の姿を彷彿とさせます。彼らが持つ「日本を支援したい」という強い思い。それこそが、日本企業のグローバル展開を後押しする力になると信じています。

即断即決と責任を負う姿勢 組織の成長を促すリーダーの信念

ーー組織やチームをまとめる上で最も大切にしていることは何でしょうか。

谷原徹:
リーダーとして最も大切にしているのは「即断即決」です。いつまでも悩んでいては、何も進みません。もちろん選択を誤ることもあります。その際、すぐに「申し訳ない。計画を変更し、別の道へ進もう」と率直に謝罪し、全員で新しい方向に進めるような組織こそが一流だと考えます。言い訳をせず、責任は自分が負うこと。この姿勢を徹底することで、社員もついてきてくれるのだと思います。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

谷原徹:
弊社が目指すのは「一流企業」です。それは単に給与水準が高いだけでなく、創造性や決断力、牽引力で評価される会社を指します。「FPTに入社した」と聞いた方が「本当にいい会社ですね」と賞賛してくださることが、私たちの理想と言えるでしょう。

編集後記

長年、日本のIT業界の最前線で活躍してきた谷原氏。その話は、技術者としての情熱と経営者としての強いリーダーシップに満ちていた。特に印象に残ったのは、社員の成長を何よりも大切にする姿勢だ。自身の経験から「若い力が会社を変える」という信念を強く持っている。日本経済の未来を憂い、「日本企業の相棒になる」という壮大なビジョンを掲げる谷原氏の挑戦は、読者に大きな希望を与えるに違いない。

谷原徹/1982年、コンピューターサービス株式会社(現SCSK株式会社)に入社。株式会社CSK執行役員、株式会社CSK-ITマネジメント代表取締役社長などを経て、2011年にSCSK株式会社取締役専務執行役員に就任。2016年より同社代表取締役社長執行役員を務めるなど、主要な役職を歴任し日本のIT産業を牽引する。その後、同社取締役 参与 シニアフェロー、住友商事株式会社アドバイザーを経て、2023年4月、FPTジャパンホールディングス株式会社の取締役会長に就任。