
きな粉や米粉といった日本の伝統的な食材「穀粉」の製造販売を手がけるキングフーズ株式会社。同社は、穀粉業界のリーディングカンパニーであるみたけホールディングスの一員として、西日本における製造拠点という重要な役割を担う。2025年6月、その代表取締役に就任したのが八木昌幸氏だ。新卒でみたけ食品工業に入社後、営業一筋でキャリアを重ね、若くしてグループ会社のトップに抜擢された。伝統を守りながらも、会社の未来を見据えて新たな挑戦を続ける同氏に、これまでの軌跡と事業へのこだわり、そして今後の展望について話を聞いた。
知識と行動で築いた信頼 営業一筋で貫いた信念
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
八木昌幸:
大学卒業後、2005年に新卒でみたけ食品工業に入社しました。キングフーズはみたけホールディングスの事業会社です。学生時代から食品業界に興味があり、中でもきな粉や米粉といった「穀粉」に魅力を感じていました。これらは日本の食文化に深く根付いた伝統的な食材です。派手さはないものの、食を支え、伝承されていく点に面白さを感じました。入社後は営業職として配属され、それからずっと営業一筋でキャリアを歩んできました。
ーー入社されてから、どのようなことを意識されていましたか。
八木昌幸:
「早く責任ある立場になりたい」という思いが強かったので、年齢で判断されないよう、とにかく勉強しました。お客様に信頼していただくには知識が不可欠だと考え、業界全体の動向や自社製品について徹底的に学びました。製品が工場でどう作られるか、自社の強みはどこにあるのかまで深く理解し、営業トークに厚みを持たせることを意識しました。その結果、お客様からも「よく勉強しているね」と思っていただけるようになったと感じています。
ーーキャリアの中で、特に印象に残っている成功体験についてお聞かせください。
八木昌幸:
特に印象深いのは、大手卸売企業様のPB(プライベートブランド)商品の製造を受託できたことです。上司の力も借りましたが、自身の営業として最初から最後までやり遂げられたという手応えがありました。
また入社5年目には、お客様とごまの産地である中南米へ農地視察に行きました。言葉の壁はありましたが、原料の現場を自分の目で見たことで、お客様への説明に説得力が増し、非常に良い経験になりました。
営業部長から社長への抜擢 コロナ禍で深めた求心力
ーーその後のキャリアステップについてもおうかがいできますか。
八木昌幸:
本社で10年経験を積んだ後、名古屋営業所の所長を務めました。そこで責任者としての視点を養い、2020年にキングフーズへ営業部長として出向しました。着任直後にコロナ禍となり、営業活動が大きく制限され、まさに空白の期間でした。そうした中でも、現場に顔を出すなど地道なコミュニケーションを重ねて社員との関係を築きました。そして前任者やホールディングスからの推薦もいただき、2025年6月に社長に就任しました。
原料と製法への徹底したこだわり 唯一無二の味づくり

ーー改めて貴社の事業と、主力製品である「きな粉」のこだわりを教えてください。
八木昌幸:
弊社は米粉などの「穀粉」、片栗粉などの「澱粉」、豆類などの製造販売が主な事業です。グループの西の拠点という位置づけで、みたけ食品工業と同じスペックの製品を製造できる体制を整えています。「きな粉」は、大豆を焙煎して粉砕するというシンプルな製品だからこそ、原料にこだわっています。厳選した大豆は、きな粉に適している品種を選び、自然な甘さを引き出しています。次に重要なのが焙煎です。弊社独自の直火焙煎機を使い、香りを最大限に引き出した後、きめ細かく粉砕することで滑らかな口当たりに仕上げています。
ーー日々の品質管理で特に大切にされていることは何でしょうか。
八木昌幸:
原料が農産物である以上、毎年まったく同じ品質のものが収穫されるわけではありません。そのため、機械での数値分析だけでなく、最終的には人間の目と舌で判断することを徹底しています。日々の業務の中で担当者が必ず試食し、通常の味を体に覚えさせています。そうすることで、たとえ数値が規格内でも、味に違和感があればすぐに異常を検知できます。このような教育を日頃から徹底しています。
ーー原料での差別化が難しい製品ではどのような工夫をされているのでしょうか。
八木昌幸:
たとえば片栗粉は、中身で他社と差別化することが難しい製品です。だからこそ、包装形態を工夫するなど、お客様にとっての使いやすさを追求しています。また、昨今の価格高騰に対応するため、内容量を調整して手に取りやすい価格帯で提供するなど、時代に合わせた提案を心がけています。
10年で売上倍増を目指す未来像 新たな成長への挑戦
ーー今後どのような会社を目指していらっしゃいますか。
八木昌幸:
弊社の売上規模は、みたけホールディングスの一員となってから約2.5倍に成長しました。しかし、自社工場の生産体制はまだ交代制を敷いておらず、生産能力にはまだ余力があります。現在の倍以上のポテンシャルがあると考えており、今後10年で売上を倍増させることが目標です。もちろん人員の確保など課題はありますが、生産体制を強化するとともに、新しい商品の開発にも一層注力していきたいと考えています。
現在は家庭用製品の売上が中心ですが、今後は業務用製品の販路を拡大していきたいと考えています。具体的には、弊社の製品を原料として使ってくださる食品メーカー様などへの提案を強化します。展示会などに積極的に参加して新しいお客様との接点をつくり、そこから関係を深めていくスタイルで、新規開拓を進めています。
社員の納得を引き出す対話 次世代へ繋ぐ組織づくり

ーー社員の皆さんと向き合う上で、大切にされていることは何ですか。
八木昌幸:
社員一人ひとりの力を最大限に引き出すことが私の役目です。そのためにコミュニケーションを最も大切にしています。指示を出す側が言ったつもりでも、相手に伝わり、理解されて初めて成立します。そこまでいかなければ無責任になってしまいます。特に、メンバーに何かを頼むときは、ただ「説得」するのではなく、本人が「納得」して仕事に取り組める状態をつくることを心がけています。本人が十分に納得した状態で作業すれば、仕事のクオリティが上がると信じています。
ーー最後に、この記事を読む若い世代へメッセージをお願いします。
八木昌幸:
私自身が若くして代表という立場を任せてもらえたように、弊社グループには若い人にとって無限のチャンスがあります。「チャンスは平等、結果は不平等」という言葉がありますが、機会は誰にでも平等に与えられるものです。社員教育に非常に力を入れている弊社グループは、成長の機会を積極的に提供しています。この伝統的な業界を、若い力で一緒に盛り上げていきたい。やる気さえあれば、必ず活躍できる場所がここにあります。
編集後記
新卒で入社した会社で一筋にキャリアを重ね、若くして社長になる夢を実現した八木氏。その道のりは、深い製品知識、顧客との誠実な向き合い、そして継続する力といった地道な努力の積み重ねだ。さらに同氏は、伝統的な食材を扱いながらも常に未来を見据え、生産体制の強化や新商品開発にも意欲的である。その姿は、多くのビジネスパーソンにとって示唆に富む。同氏の誠実な人柄と静かな情熱に触れ、キングフーズのさらなる飛躍に大いに期待したい。

八木昌幸/1982年埼玉県生まれ埼玉県育ち。大学卒業後、2005年に4月にみたけ食品工業株式会社に入社。10年間本社営業部にて下積み、2015年6月に名古屋営業所に異動し所長を務める。2020年3月に現在のキングフーズ株式会社に出向。営業活動が限られるコロナ禍、営業部長として会社を牽引。2023年11月取締役営業部長を経て、2025年6月に同社代表取締役社長に就任。