
お金を借りたい個人と低金利の銀行ローンをマッチングするプラットフォーム「クラウドローン」を運営する、クラウドローン株式会社。「クラウドローン」は国内でも独自のポジションを築くユーザー主導型マッチングサービスだ。銀行員、スタートアップ企業の経営という経験を経て、金融業界で融資の領域がアップデートされていない現状に強い課題意識を抱いたという代表取締役の村田大輔氏。同氏に、事業の原点にある情熱と独自の強み、そして未来への展望をうかがった。
決済・投資の進化に対する融資領域の停滞
ーーこれまでのご経歴と、起業のきっかけについてお聞かせください。
村田大輔:
もともとは銀行に勤務し、厳格さが求められるリスク管理業務を担当していました。その後、スタートアップ企業に身を移して経営に携わる中で、事業に対する見方が大きく変わっていきました。
創業の直接のきっかけは、2018年頃、決済や投資の分野で次々とイノベーションが起きる中、融資の領域だけが旧態依然としていることに強い課題感を覚えたことです。融資は多くの人にとって人生の重要な節目で利用するものです。にもかかわらず、金融機関ごとに異なる基準という不透明な仕組みの中で、選択肢が限られています。あるいは、十分に比較検討できないままローンを選んでいます。この情報格差を解消したいという強い思いが、起業の原点にあります。
ーー創業期にはどのようなご苦労がありましたか。
村田大輔:
創業当初の困難は数えきれません。まず、私たちの事業は法規制の要件が厳しく、事業の適法性を金融庁に照会し、回答を得るまでに1年近くを要しました。
次に大変だったのは、提携銀行の開拓です。当時はスタートアップ企業と連携する銀行が少なかった時代で、実績のない弊社との提携には慎重な姿勢を示す金融機関が多く、お断りされる日々が続きました。しかし、「このサービスは必ず社会に必要とされる」という確信がありましたし、私自身、もともと困難な挑戦を好む性分で、「まずは挑戦し、粘り強くやり遂げる」という思いで、失敗を前提としながら、どうすれば課題を乗り越えられるかを常に考え続けていました。
融資における信用力を見える化する仕組みの確立

ーー改めて、貴社の事業内容と独自の強みについて教えてください。
村田大輔:
弊社が提供している「クラウドローン」は、個人向けの銀行融資プラットフォームです。利用者が希望条件を登録すると、融資可能な銀行から直接まとめて提案が届く、国内でも珍しいユーザー主導型のサービスとなっています。
しかし、単なる比較サイトではありません。弊社の最大の強みは、銀行と競合するのではなく共に価値を創造する協業モデルを築いている点です。銀行が持つ信頼性を基盤としながら、「クラウドローン」のデータを銀行と共同活用し、新たな価値を創出することで、業界全体のアップデートを目指しています。
また、この仕組みによってお客様一人ひとりの信用力を可視化し、実際に審査通過の可能性が高い銀行からの提案のみをお届けします。これにより、ユーザーに信頼性の高い選択肢と迅速な意思決定を支援し、これまでのローンの常識を変えようとしています。
ーー事業が成長する上で、最も大きな転機はいつでしたか。
村田大輔:
大きな転機は2つあります。1つ目は、初めて提携を決めてくださった銀行が決まった時です。まだ実績のない私たちを信頼し、担当者の方が懸命に社内で説得してくださいました。そのご尽力があったからこそ、「クラウドローン」がスタートできましたし、この仕組みが社会に必要とされているのだと確信できました。
もう1つは、マイカーローンを必要とするお客様にターゲットを絞り込んだことです。ユーザーの利用動向を分析した結果、マイカーローンを探している方の課題が最も深いと気づき、そこに注力しました。これにより、抽象的だった「ローンにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)」という構想が具体的なサービスへと大きく前進し、事業全体に相乗効果が生まれました。
短期的な成果より誠実な関係構築という判断基準
ーー社員の方々と共有している企業文化について教えてください。
村田大輔:
弊社は3つのバリューを掲げています。1つ目は「JOYーワクワクを生み出す」です。人数が少ないスタートアップだからこそ、一人ひとりの役割は大きく、前例のない未知の領域に挑む初めての業務が多くあります。地味な作業であっても、それが会社の成長と社会の変革に繋がっているという想いを持ち、常に面白がりながら仕事を楽しむことを大切にしています。
2つ目は、失敗を恐れず挑戦を後押しする「TRYー挑戦を後押しする」です。弊社ではノウハウを学び、それをすぐに事業に試すというスピード感で成長しています。会社としても、教育支援プログラムを無償で提供するなど、積極的に挑戦を後押しする環境です。20代や30代前半で、これほど主体的に仕組みづくりに携われる機会は、大企業では得難いと考えています。
そして3つ目が「TRUSTー信頼を築き広げる」です。特にリモートワークを主体とする私たちにとって、表面的なルールで管理するのではなく、性善説に立ち、互いを深く信頼し合うことで健全な関係性を築くことが不可欠です。上司と社員が双方向で信頼関係を構築し、本気で仕事に取り組める環境を大切にしています。この信頼こそが、円滑なコミュニケーションと持続的な成長の基盤です。
ーーご自身が、経営者として大切にされている価値観は何でしょうか。
村田大輔:
「信頼」を何よりも大切にしています。特に金融という領域では、成果よりも先に信頼を築くことが不可欠です。短期的な利益よりも、顧客やパートナーとの誠実な関係構築を重んじ、信頼関係を基盤とした上での迅速な事業展開を追求する。これは、銀行員時代の経験から培われた価値観です。短期的な効率のみを追うのではなく、常に「ユーザーや提携先から信頼される選択とは何か」を判断基準にしています。
「借りる」常識を変えるためのロードマップ
ーー今後、社会にとってどのような存在でありたいとお考えでしょうか。
村田大輔:
私たちの最終的な目標は、「融資とは、人生の希望を叶えるためのポジティブな選択肢である」という価値観の象徴となることです。ローンに対するネガティブなイメージを払拭し、未来の選択肢を広げるための前向きな手段として、社会に浸透させたいと考えています。融資の透明性を徹底的に高めることを通じて、専門知識がない方でも安心して最適な選択ができる社会を目指しています。
ーーそのビジョンを実現するための、具体的な計画をお聞かせください。
村田大輔:
まず、3年後の2028年に株式上場を目標としています。上場によってサービスの社会的認知と信頼性をさらに高め、融資におけるデータの透明化を通じて、銀行とユーザーの関係を再構築していく方針です。
具体的な事業目標としては、今期5億円、来期11億円の売上を目指し、提携金融機関数を3000社まで拡大。そして従業員数を現在の3倍にあたる30名体制へと増強する計画です。
ーー採用においては、どのような人材を求めていますか。
村田大輔:
職務経歴そのものよりも、「なぜこの事業を成し遂げたいのか」という当事者としての熱意を何より重視しています。
これまでは、知人からの紹介を中心としたリファラル採用で、ミッションへの深い理解を持つ仲間を集めてきました。今後は、この仲間たちと共に、「融資についての透明性を高め借り手と金融機関を信用でつなぐ。」というミッションに心から共感し、自ら課題を発見して仕組みづくりに挑戦できる方を求めています。私たちと一緒に業界構造を変革する挑戦に加わってくれる方と、ぜひ一緒に働きたいと願っています。
編集後記
「融資」という言葉には、どこか後ろめたさや不安がつきまとう。しかし、村田氏の話を聞くうちに、それは情報格差が生んだ先入観に過ぎないのだと気づかされた。銀行員時代に抱いた課題意識を原点に、同氏は「借りる」という行為を、未来を切り拓くためのポジティブな選択へと昇華させようとしている。その挑戦は、金融業界の構造を変えるだけでなく、私たちの人生の可能性をも広げる、大きな一歩となるに違いない。

村田大輔/1980年兵庫県生まれ。2012年、住信SBIネット銀行株式会社に入社。2015年2月クラウドソーシング「nutte」を運営する株式会社ステイトオブマインドを共同創業し、取締役に就任。その後、不動産テック系企業に転職。2018年、クラウドローン株式会社を創業し、代表取締役に就任。