
香陵住販株式会社は、茨城県を基盤に不動産の賃貸・売買仲介、管理、さらに自社企画による投資用不動産開発まで一貫して手がける総合不動産企業である。県内トップクラスの店舗網を活かし、顧客ニーズをダイレクトに商品開発へ反映できるものづくりの強みを持つ。創業会長が掲げた「かかわる全てのステークホルダーに対し、真摯に向き合う」という思いを継承し、2023年に代表取締役社長に就任したのが、金子哲広氏だ。1998年の入社後、賃貸営業の現場経験を経て企業のトップへと登り詰めた同氏に、キャリアの原点と今後の展望について話をうかがった。
営業の楽しさを知ったキャリアの原点と原動力
ーー不動産業界へ入られた経緯についてお聞かせいただけますか。
金子哲広:
地元の商業高校を卒業後、いくつかの職を経験しました。ある時、「地に足をつけて取り組もう」と決め、求人を探していた時に弊社のことを知り、すぐに電話で応募しました。縁あって1998年に弊社へ入社したのが始まりです。
不動産業界がどういう世界かも漠然としたまま、入社後は賃貸営業を担当しました。不動産に関する法律も業界の慣習に対する知識もゼロの状態からのスタートでした。
ーー未経験の業界に飛び込むことに、不安や戸惑いはなかったのでしょうか。
金子哲広:
入社した直後に感じたのは、不安や戸惑いよりも、純粋な驚きと楽しさが先でした。当時、賃貸の営業でしたが、お客様が希望されるお部屋にご案内して、契約に至ると仲介手数料をいただける。お客様のニーズは、ご結婚、法人の転勤、一人暮らしなどさまざまですが、その方たちに喜んでいただけるお部屋を一生懸命探して、決まった時にお客様が喜んでくださる。それが純粋に楽しかったです。
また、当時、営業力の高い上司から多くを学び、営業の楽しさを知ったことも大きかったです。
リーマンショックから得た危機を乗り越える確固たる信念
ーー営業としてキャリアを重ねる中で、印象深い出来事はありますか。
金子哲広:
リーマン・ショックの時です。以前3000万円で販売していた新築マンションが1000万円を切るぐらいまで値下がりするのを目の当たりにして、衝撃を受けました。多くのデベロッパーが倒産する中、地道に商売を継続されている地元の法人・個人の方たちには、逆に値下がりした物件を買う力があることにも気づきました。
創業会長の思いにもつながりますが、地道に継続している企業は、大きな波をも乗り越えられると痛感しました。
ーー「創業会長の思い」について、詳しくおうかがいできますか。
金子哲広:
弊社創業者の薄井 宗明(現・代表取締役会長)は、会社に対して「“公(おおやけ)の器”、あるいは“高貴な器”として地域社会に貢献しながらやっていく」という考えを持っている方で、その考え方が、現在の企業理念に反映されています。かかわる全てのステークホルダーに対し、真摯に向き合うという姿勢には非常に大きな感銘を受けました。
ーー2023年に社長へ就任されましたが、どのような思いでしたか。
金子哲広:
創業者が掲げた企業理念がはっきりしている会社だったので、大きな不安は感じませんでした。社長が交代すると、周囲からは「新しくどう変えていくか」と注目されますが、私は変えることではなく、まず創業者がゼロからイチを築き上げてきたものを、実直にさらに強みにしていくことが大切だと考えています。その上で、時代の変化に合わせて古いものを新しくイノベーション(革新)していく、という方針です。
ーー社長就任後、具体的に取り組まれたことについて教えてください。
金子哲広:
ちょうど資材高騰の時期と重なったため、自社企画の不動産に注力することに舵を切りました。もともと手がけていましたが、そこまで注力していたわけではありませんでした。これを機に、積算からデザインまで担当者とゼロから見直し、主力商品として打ち出していこうと取り組みました。
県内トップの店舗網で実現 顧客の声を反映する商品開発

ーー貴社の事業の強みについて教えてください。
金子哲広:
弊社は、「不動産売買事業」「賃貸仲介事業」「賃貸管理事業」「収益不動産事業」の4つを軸に事業展開しています。不動産業界は売買、仲介などの一回限りの取引で収益を上げる「フロー型」と呼ばれるビジネスモデルを展開する会社が多く見られます。しかし弊社は、「賃貸管理事業」も展開することで、継続的なサービス提供を通じて、安定した収益を積み上げていく「ストック型」ビジネスも同時に展開しています。こうすることで、大きな売上がなくても会社が継続できる経営基盤を整えています。
ーー現在、注力されている取り組みがあれば教えてください。
金子哲広:
自社企画の投資用不動産として「レーガベーネ」シリーズを手がけています。これは、私たちが土地を購入し、事業計画を立てて建物を建設し、それを投資家の方にご購入いただく事業です。ただし、売って終わりではなく、その後の賃貸仲介、管理まで長年にわたってサポートさせていただくビジネスモデルです。
「レーガベーネ」の開発にあたり、強みとなっているのがマーケティング力です。弊社は県内の店舗数が業界1位のため、お客様の「こうだったらいいのに」というニーズが各店舗に集まってきます。そのお客様の声を「レーガベーネ」の開発に活かし、企画から販売、管理まで一貫して行う体制が、最大の強みだと考えています。
地域社会に貢献する「ファン作り」こそ永続企業への道
ーー大切にされている価値観についておうかがいできますか。
金子哲広:
企業理念にも通じますが、かかわるステークホルダーの方たちと真摯に向き合うことです。上場企業として株主の皆様はもちろん、オーナー様、お客様、かかわるすべての方たちを大事にしています。
特に私は、一従業員として現場から社長になりました。だからこそ、働く環境の整備を強く意識しています。従業員の幸せを追求することが、質の高いサービス提供の土台になると考えています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
金子哲広:
今後、デジタル化を推進し、業務の効率化を進めることが大きな柱です。AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった技術を積極的に活用し、生産性の向上を目指しています。生産性が上がれば、従業員も働きやすくなり、日々の業務負担も軽減されます。結果として、プライベートの時間も充実させられることが、最終的な狙いです。
これは単なる効率化ではなく、従業員の幸せを実現することで、地域社会へ貢献し続ける永続企業となるための重要な戦略だと位置づけています。
ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。
金子哲広:
私たちは永続企業を目指しています。そのためには、お客様満足、働く私たちの幸せ、地域社会への貢献が不可欠です。これが究極的な答えであり、成功への近道だと確信しています。綺麗事と思われるかもしれませんが、日々誠実に動いていれば、未来は開けていくものです。
地域社会に貢献し、「ファン作り」を行うこと。ファンが増えれば、結果的に仕事も獲得しやすくなります。私たち不動産業界は、AIなどが進化しても、最終的なクロージングは人と人との信頼関係が本質として残ります。未来が明るい業界だと考えていますので、この思いに賛同し、長期的なキャリアプランを持って共に歩んでいただける方であれば、ぜひ一度弊社の門を叩いていただきたいです。
編集後記
電話一本で入社し、営業現場の楽しさを原動力に企業のトップへと登り詰めた金子氏。同氏が継承するのは、「かかわる全てのステークホルダーに対し、真摯に向き合う」という創業理念だ。この揺るぎない理念が、フローとストックの両輪による安定経営と、顧客ニーズを直接反映できるものづくりの強みを生み出している。関わるすべての人への真摯な姿勢と「ファン作り」を永続の道と信じる、同社の堅実な挑戦に注目していきたい。

金子哲広/1975年4月16日生まれ。1998年6月に香陵住販株式会社に入社し、賃貸、売買仲介部門の営業に従事。その後、2007年に取締役就任、2016年10月に常務就任を経て、2023年12月に代表取締役社長に就任。