
半導体製造装置向けの排ガス処理装置で、業界内で確固たる地位を築くクリーン・テクノロジー株式会社。同社が生み出す製品はすべてが「世界初」であり、35年前に開発された装置は一度もモデルチェンジすることなく今なお第一線で活躍している。この常識を覆す製品開発を一身に担ってきたのが、創業者である代表取締役の淡路敏夫氏だ。商社勤務時代に年間33億円という驚異的な営業実績を上げながらも、逆境の中で独立の道を選んだ過去を持つ。本記事では、唯一無二の技術を生み出す開発思想と、学歴不問で社員の成長を促す独自の経営観に迫る。
難関顧客で年間33億円を達成 驚異の実績が拓いた独立への道
ーーまずは、創業に至るまでのご経歴についてお聞かせください。
淡路敏夫:
もともとは研究職に就いており、その後、半導体製造装置を扱う商社に技術職として転職しました。競合の大手企業に対抗するための技術担当として採用された形です。
当時の商社では営業が花形で、技術職は営業のサポート要員と見なされがちでした。売った後のメンテナンスで利益を出すよりも、新しい装置を売る方が儲かるという考えが主流だったためです。会社としても技術的なフォロー体制の重要性に気づき、その担当として技術者を採用しました。ところが、結局は「売るのが大事だ」という方針に傾き、私は営業への異動を命じられました。
営業に異動後、私が担当することになったのは、他の担当者がなかなか成果を出せずにいたお客様が中心でした。しかし、私はその環境で真摯に取り組み、3年ほどで年間33億円という売上を達成します。これは突出した実績でした。当然、会社から評価されるものと考えていたのですが、現実は逆でした。はるかに大きな成果を出したことで、周囲から疎まれてしまったのです。結果的に、会社に私の居場所はなくなり、独立を決意しました。
世界初の製品。35年間モデルチェンジ不要の理由
ーーなぜ、半導体製造装置の排ガス処理の分野で事業を始められたのですか。
淡路敏夫:
独立するにあたり、堅実な取引が期待できるビジネス領域として半導体業界は魅力的でした。ちょうどその頃、環境問題への関心が高まり、半導体業界でも排気ガスをきれいにすることが求められ始めていたのです。他社は単に「ガスを処理する」という視点でしたが、私は商社で製造装置を見てきた経験から、「製造装置本体の安定稼働を妨げることなく、同時にガス処理も実現するべきだ」と考えました。つまり、排ガス処理を単体で捉えるのではなく、製造プロセス全体の中でどうあるべきかという視点が根本的に違ったのです。
ーーその視点の違いが、製品の圧倒的な性能につながったのですね。
淡路敏夫:
当時、業界トップクラスの企業の製品でも、処理能力は1分間に200リッター程度でした。しかし、製造装置側から見るとそれではまったく不十分です。そこで私が開発した装置は、他社の15倍にあたる毎分3,000リッターの処理能力を実現しました。資金も時間もなかったため、試作なしのぶっつけ本番でお客様に導入しましたが、最終的にその性能が認められ、多くのお客様から「生産効率が上がった」「製品の歩留まりが良くなった」と評価していただきました。35年前に開発したこの装置は、電気部品こそ変わりましたが、構造やソフトは当時のままで、今でも売れ続けています。
「素人が世界初をつくる」。価格競争をしない絶対的な自信

ーー「世界初」の製品を生み出す上で、大切にされている考え方は何ですか。
淡路敏夫:
私が新入社員や学生の皆さんにも伝えているのは、「『世界初』の分野では、誰もが素人だ」ということです。誰もやったことがないのですから、どんなに賢い人でもその分野では素人です。既成概念や世の中の法則にとらわれていると、同じようなものしかつくれません。何も知らないからこそ、常識を打ち破る「世界初」のものがつくれるのです。大切なのは学歴や知識ではなく、「いいものをつくりたい」という強い心だと考えています。
ーー価格も高いそうですが、価格競争はしないのでしょうか。
淡路敏夫:
私たちの製品は高額ですが、それでいいと思っています。ビジネスの目的は、単に装置を売ることではなく、ガスをきちんと処理するという目的を確実に達成することです。その目的を達成できないのであれば意味がありません。多くの競合は、テストのときだけ良い数字が出ればいいと考えがちですが、私たちの製品は違います。良い性能が瞬間的に出るのは当たり前で、その性能がずっと持続することに価値があるのです。海外のお客様は自社で性能を検証されることが多く、その結果、私たちの製品が選ばれ、リピートにつながっています。
学歴不問、評価は結果のみ。個を活かす独自の育成術
ーー採用においては、どのような人材を求めていらっしゃいますか。
淡路敏夫:
「この指とまれ」というスタンスで、意欲のある方であれば、どなたでも歓迎します。私は結果がすべてだと考えていますから、勝つために何をするかが重要です。集まってきた人たちでどう戦うかを考えるのが私の役目であり、その人の学歴や性別、年齢は一切関係ありません。大手企業は45歳から早期退職の奨励や役職定年が始まります。これにより、給料が下がるケースも少なくありません。安定を求めて大手を選ぶという考えは、もはや現実的ではないのです。私たちは終身雇用を掲げ、社員が定年まで安心して働ける仕組みをつくっています。
ーー社員の育成について、何か特徴的な取り組みはありますか。
淡路敏夫:
社員には特定の部署に留まらず、さまざまな業務や国内外の拠点を経験する「多能工」であってほしいと考えています。そのため、定期的なローテーションを行っています。また、会社の成長とは、単に売上を増やすことではありません。社員一人当たりの利益金額が増えなければ、給料を上げることはできないのです。見かけの売上ではなく、社員にきちんと還元できる事業構造をつくることが経営者の責任だと考えています。
畑違いの万博出展から見据える未来。次世代への期待
ーー今後の事業展開について、どのようにお考えですか。
淡路敏夫:
現在は「新商品の開発」「採用の強化」「海外展開」の3つに注力しています。新商品開発については、そろそろ次の世代にバトンタッチしたいと考えていますが、なかなか難しいですね。うちの製品コンセプトはすべて私が考えてきましたから。また、コロナ禍で社員から声が上がったことをきっかけに、本業とはまったく違う医療系の感染対策装置を開発しました。この装置が評価され、実績がないにもかかわらず、大阪・関西万博のヘルスケアパビリオンで感染対策全般を任されることになりました。
ーー最後に、この記事の読者へメッセージをお願いします。
淡路敏夫:
皆さんに問いたいのは、「人生で何をしたいのか」ということです。9時から5時半まで働いて生活費を稼ぐだけの人生でいいのか、それとも何か面白いことを見つけて熱中する人生がいいのか。就職先を選ぶなら、その会社が過去にリストラをしていないか、そして社員の給料を上げられる仕組みを持っているかを見るべきです。見かけの売上規模や知名度に惑わされてはいけません。自分の生きるパートナーとしての会社を、本質を見極めて選んでほしいと思います。
編集後記
商社時代の逆境を圧倒的な結果で覆し、独立後も「世界初」の製品で常識を打ち破り続ける淡路社長。その根底には、「目的は何か」「勝つために何をすべきか」という、極めてシンプルで力強い哲学が一貫して流れている。学歴や経験といった物差しを捨て、個人の「ハート」を信じ、社員の生活を生涯守り抜こうとする姿勢は、これからのキャリアを考える若者にとって大きな示唆となるだろう。淡路氏の挑戦の物語は、未来を担う次世代にどう受け継がれていくのか。その展開から目が離せない。

淡路敏夫/1952年大阪府生まれ。1990年に会社を設立し、同社の代表取締役に就任。35年間にわたり、国内外の半導体産業における環境問題の解決に取り組む企業として活動。大阪・関西万博2025では、これまでにない新しい空間衛生を創出する独自技術を展示。