※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

ゴキブリの「完全駆除」を掲げ、独自の技術と信念で業界の常識に挑む株式会社クリーンライフ。「企業の成長は、社員一人ひとりのモチベーションから生まれる」と断言するのは、代表取締役の大野宗氏だ。YouTubeでの情報発信やモータースポーツへの協賛など、その取り組みは害虫駆除という枠を大きく超える。同社はなぜ、社員の「誇り」と「やりがい」を徹底的に追求するのか。その根底にある独自の経営論に迫る。

成果主義との決別 組織を強くする仲間への貢献意識

ーーこれまでのご経歴と事業内容についておうかがいできますか。

大野宗:
弊社の事業内容は、一言でいえば飲食店のゴキブリを「完全駆除」することです。業界では非常に珍しいことですが、私たちは「いなくならなければ全額返金」という保証を付けています。保証を付けるほど、ゴキブリをゼロにすることに徹底的にこだわっているのです。

私が起業を考え始めた頃、東京のあるゴキブリ駆除業者の部長に連れられ、某デパートの8階飲食フロアを訪れる機会がありました。そこで目にしたのは、3店舗ほどの店長が、その部長に対し「本当にゴキブリが一匹もいなくなりました。ありがとうございました」と、深々と頭を下げて感謝を伝えている光景でした。この時、「ゴキブリ駆除業は、人から深く感謝される、社会にとって良い仕事だ」と感動し、起業の決意を固めました。この時の感動と、「徹底的な駆除がお客様の感謝につながる」という気づきこそが、弊社の「完全駆除」という創業精神の原点となっています。

この「完全駆除」を可能にしているのが、私たちの高い技術力です。そのため、一般的な業者のように毎月お伺いする必要はありません。基本的に年2回の作業で、ゴキブリがいない状態を一年中維持できます。結果として、お客様からの信頼は非常に厚く、一度ご契約いただくと、顧客の更新率は97.9%にも達します。

ですから、事業内容としては害虫駆除業です。しかしその本質は、日本一の技術屋集団としてお客様の悩みを根本から解決し、心からの「ありがとう」をいただくことにあります。

ーー社員のモチベーション向上を最も重視されているのはなぜですか。

大野宗:
伸びる会社とは、社員のモチベーションが高い会社だと考えているからです。ゴキブリ駆除という仕事は、社会的なイメージがよいとは言えません。その中で社員のモチベーションをどう上げるか。多くの経営者は「能力給」を導入するでしょう。しかし、これは私自身がサラリーマンだった頃の経験から、その考え方に反対です。

能力給は、「今だけ、自分だけ、お金だけ」という価値観を生み出します。自分の手取りが増えるなら、会社にとって最善でない選択をする恐れがあります。仲間が困っていても、自分の成績を優先してしまうかもしれません。それでは会社は伸びないと考えています。

かつて日本が奇跡的な経済成長を遂げた時代、主流だったのは年齢給、年功序列、終身雇用
でした。その根底には、会社や仲間のために働くという意識がありました。会社全体が成長すれば、結果的に自分たちの給料も上がっていく。その考え方が、組織を強くすると信じています。

社員の誇りを醸成する 3つの重要な経営の柱

ーー社員が誇りを持てる会社にするために取り組まれていることを教えてください。

大野宗:
社員が誇りを持って働くには、「自慢できる会社」「誇れる仕事」「仲間意識」、この3つが不可欠です。

まず「自慢できる会社」であるために、働く環境にこだわっています。弊社のオフィスビルは著名な建築家が手掛けた木造建築で、日本建築学会の作品選集にも掲載されています。

こうした働く環境に加え、社員が「夢とロマンのある面白い会社だ」と胸を張れるよう、多角的な取り組みを行っています。私が「ゴキブリ博士」としてYouTubeで情報発信すること、有名チェーン店のゴキブリ駆除を任されているという事業の確かな実績、そして毎年全額会社負担で海外旅行を実施する社員への還元もその一環です。さらに、プロのレーシングドライバーを目指す若者を支援したり、無人島を所有したりといった挑戦的な活動は、社員の誇りとモチベーションを高めるための重要な要素となっています。

次に「誇れる仕事」です。弊社はゴキブリの「完全駆除」にこだわり、お客様から心からの感謝をいただくことをやりがいにしています。「私がお店を救った」という経験は、何物にも代えがたい誇りになります。この仕事の専門性や奥深さを伝えるため、書籍出版のような活動にも力を入れています。

最後に最も重要なのが「仲間意識」です。個人の売上よりも「仲間を助けたか」といった行動姿勢で高く評価します。このオフィスがフロアごとに床の高さをずらした構造なのも、困っている人にすぐ気づき、仲間意識を高めるための工夫です。

自国への誇りから自社へ 理念で繋がる強固な組織

ーー仕事をするうえで大切にされていることは何ですか。

大野宗:
私は、会社経営は国づくりと全く同じだと考えています。国に建国神話や憲法があるように、会社にも創業精神や経営方針がなければなりません。弊社の創業精神は、以前、銀座の某デパートで目撃した感動体験が原点となっています。それは、「ゴキブリを完全に駆除し、お客様に心から感謝されることで、社会に貢献する」という強い信念です。私たちはこの精神に基づき、徹底した駆除を通じて人様の役に立つことを目指しています。そして、その上には「日本一の技術屋集団になり、仲間を大切にする」という経営方針があります。これが会社の憲法であり、この考え方を社員全員で共有することを大切にしています。

社員が自社に誇りを持つには、まず日本人であることに誇りを持てることが大切だと考えます。社員旅行で知覧の特攻平和会館を訪れたのも、そのためです。自虐的な歴史観を乗り越え、自国に誇りを持てて初めて、自社への誇りも生まれると考えているからです。

急成長より着実な成長を 目指すは「木の年輪経営」

ーー今後の事業の展望についてお聞かせください。

大野宗:
私たちは「木の年輪経営」を目指しています。弊社の顧客更新率は97.9%と非常に高く、一度ご契約いただくと、ほとんどのお客様が継続してくださいます。「完全駆除」という結果を出すことで、自然と紹介が生まれる好循環ができています。これにより、毎年着実に売上が積み重なります。

急成長はせずとも、木の年輪のように毎年少しずつ着実に会社は大きくなっていく。そういう経営が理想です。将来的には売上10億円を達成し、株式上場も視野に入れています。会社が成長し続けなければ、社員に新しいポストを用意することもできません。夢のある会社であり続けたいと考えています。

ーー最後に、若い世代へメッセージをお願いします。

大野宗:
仕事を探すとき、多くの人は「やりたい仕事」を探します。しかし、私は「やりがいのある仕事」を探してほしいと願っています。やりがいとは、人の役に立っている、社会の役に立っていると実感できること。どんな仕事であっても、そこに「道」をつけ、プロとして極める意識で真剣に取り組めば、必ずやりがいは生まれます。

好きなことを仕事にすると、大変な側面が見えたときに辛くなることもあります。趣味は趣味として楽しみ、仕事では社会貢献を実感できるものを選ぶ。その方が、長い目で見たときに幸せな職業人生を送れるのではないでしょうか。弊社の仕事は、お客様の「困った」を解決し、心から感謝されることです。これほどやりがいのある仕事は、なかなかないと思っています。

編集後記

大野氏が語る経営論の根底には、「今だけ、自分だけ、お金だけ」という風潮への強い警鐘がある。そして、かつて日本が持っていた「和」の精神への回帰を促す。社員の意欲を個人の成果報酬ではなく、仲間への貢献や会社全体の成長と結びつける。その信念は極めて日本的だ。同時に、現代の組織が失いかけている本質を突いている。同社の挑戦は、これからの働き方を模索する多くの若者にとって、確かな道しるべとなるだろう。

大野宗/1961年3月生まれ、大阪府出身。近畿大学理工学部を卒業後、フジコピアン株式会社に入社、勤務を続けながらも、自身の人生を賭ける価値ある仕事を探し求めるうち、ゴキブリ駆除事業と巡り合う。会社勤めの傍ら、そのノウハウを学び、1997年に個人事業マジックバスターとして独立。2005年に株式会社となり、株式会社クリーンライフに商号変更。