※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

デンマーク発のフィンテック企業、サクソバンク証券株式会社。同社はFXや外国株式、CFD(差金決済取引)など多岐にわたる金融商品を扱っている。それらを一つの口座とアプリで取引できる利便性を強みに、多様化する投資家のニーズに応える存在だ。同社を率いるのは、トレーダーからリスク部門を経て経営トップとなった代表取締役社長のゲーデ ヨハン氏。同氏のキャリアの転機となった「お客様との対話」から得た哲学は、いかに事業戦略に反映されているのか。顧客の声を中核に据え、進化を続ける同社の強みと未来へのビジョンに迫る。

お客様との対話が原点 トレーダーから社長への道

ーー貴社に入社された経緯と、その後のキャリアについてお聞かせください。

ゲーデ ヨハン:
もともとトレーディングが趣味で、以前から証券会社で働くことに関心がありました。サクソバンク証券に入社し、はじめはトレーディングデスク(※1)で市場リスクを管理。その後、新しい商品やサービスを開発するチームへ異動しました。そこではトレーディングとリスク部を兼務し、リスク管理の視点でサービスをどう改善できるかを考えていました。本社でその業務を担当していたところ、前任の社長が退任されるタイミングで、後任として打診を受けたのです。

社長就任の打診があった際、非常に意欲的でした。お客様のためになる商品やサービスを改善したいと、常に考えていたからです。お客様のより身近な存在になりたいという思いから、社長を引き受けました。

(※1)トレーディングデスク:顧客からの注文を受けたり、自社の資金で株式や債券、為替などの金融商品を売買したりする部署。

ーーこれまでのキャリアにおける最大の転機は何でしたか。

ゲーデ ヨハン:
リスクマネジメント部門に異動したことです。そこでリスクの取り方やシステム構築を深く考え、何より初めてお客様と直接対話する機会を得ました。トレーダー時代は社内業務が中心だったので、これは大きな変化でした。

ーーお客様との対話を通じて、どのような気づきがありましたか。

ゲーデ ヨハン:
お客様との対話で、立場が変われば同じものでも見え方が全く異なると気づきました。社内でよく例に出す「6と9」の話を、身をもって体験したのです。こちらから「6」に見えているものが、お客様には「9」に見えているかもしれない。この当たり前の事実に気づいてから、まずはお客様の視点に立つことを徹底するようになりました。そうでなければ、本当に求められているものは何かを理解できません。

多様な商品をワンストップで提供するフィンテック企業

ーー貴社の事業内容とこれまでの歩みについてお聞かせください。

ゲーデ ヨハン:
サクソグループは1992年にデンマークで創業し、2006年に日本法人が設立されました。当初はFXとFXオプションのみの取り扱いでしたが、現在では外国株式やCFDなどへサービスを拡大しています。

具体的には、外国株式等は米・欧・香港など10,000銘柄以上、FXの通貨ペアは150種類以上を提供しています。最近では、海外で広く利用されている外国株式オプション取引(※2)も日本で始めました。私たちは、分散投資の重要性を伝え、そのための多様な選択肢を提供したいと考えています。

(※2)外国株式オプション取引:特定の外国株式を将来の一定の価格で購入または売却する権利(オプション)を売買する取引のこと。

ーー貴社ならではの強みは何ですか。

ゲーデ ヨハン:
最大の強みは、私たちが提供する全ての金融商品を、一つの口座とアプリで取引できる点です。商品ごとに口座を分ける必要がなく、一つのプラットフォームで一元管理できます。この高い利便性がお客様のメリットだと考えています。

また、サイバーセキュリティ体制も強みです。サクソグループは世界中に拠点を持ち、グループ全体で長年セキュリティ対策に取り組んできました。業界団体の勧告に先駆け、2022年頃から二段階認証を自主的に導入するなど、先進的な対策を講じています。

顧客の声が進化の原動力 変化を止めない姿勢

ーー経営において最も大切にされていることを教えてください。

ゲーデ ヨハン:
お客様の声を真摯に聞き、そこからいかにサービスを改善していくかを考えるプロセスです。アンケートやお問い合わせでいただくご意見は社内全体で共有します。そして、良い点は継続し、改善が必要な点は迅速に対応するよう心がけています。

具体的なサービス改善例として、完全な日本語対応が挙げられます。「日本の事情をよく知るスタッフに相談したい」という声にお応えしたカスタマーサービスはその一例です。また、「なぜ米ドルを直接入金できないのか」とのご指摘を受け、すぐに「米ドル口座」も開設しました。さらに「使い慣れた画面で取引したい」とのご要望もありました。これには、外部のチャート分析ツール「TradingView」とのシステム連携で応えています。すべては、お客様の声から始まった改善です。

ーー変化に対応し続けるために、実践していることはありますか。

ゲーデ ヨハン:
オフィスの玄関に、恐竜の模型を置いています。かつて地球の頂点に立った彼らも、環境の変化に対応できずに絶滅しました。私たちも過去の成功体験にしがみつくのではなく、常に変わり続けること。それこそが、私たちが恐竜にならないための唯一の方法だと考えています。

ーー社内制度で特徴的な取り組みはございますか。

ゲーデ ヨハン:
知識共有とコラボレーションを深めるため、毎朝オフィス全体でモーニングコールを行っています。日によっては2分程度で終わることもあれば、必要に応じて30分程度かけることもあります。このコールは誰でも自由に発言できるオープンな場で、フィッシングや詐欺対策、テック系の豆知識、オフィス環境改善の提案など、幅広いテーマを取り上げています。

ーー貴社の社風について、詳しくお聞かせいただけますか。

ゲーデ ヨハン:
サクソバンクグループは、挑戦と革新を重んじる起業家的な成果主義の社風です。デンマーク発祥のため、業務の優先順位付けを重視しワークライフバランスを確保する文化が根付いています。日本法人では多国籍な社員が日本の文化を尊重しており、グローバルな視点と日本の働き方が融合した環境が特徴です。

ーー日本での具体的な取り組みを教えてください。

ゲーデ ヨハン:
日本で最も「顧客中心の証券会社」となることを目指しています。お客様の声を反映し、オンラインで本人確認が完結する「eKYC」の導入による口座開設の迅速化や、月曜午前3時から取引可能なFX環境の提供など、利便性と競争力の高いサービスを展開しています。

世界に好奇心を持ち若いうちから投資を始める意義

ーー貴社が実現したいビジョンについて、お聞かせいただけますか。

ゲーデ ヨハン:
私たちは「We get curious people invested in the world.」というメッセージを掲げています。人々が投資に好奇心を持つきっかけをつくる存在になることが目標です。「金融商品は難しい」というイメージを払拭し、誰もが投資への第一歩を踏み出せるようサポートする会社でありたいと考えています。

そのビジョンを実現するためには、お客様が何に「難しい」と感じるかを深く理解せねばなりません。お客様の声を聞き、新しいアイデアと融合させながら、プロセス全体をより良くしていく地道な取り組みが重要だと考えています。

ーー投資への「怖い」というイメージを乗り越えるには何が必要ですか。

ゲーデ ヨハン:
お客様が「怖い」と感じるのは、よく理解できていないことが原因だと思います。その不安を解消するため、私たちはウェブサイトでの解説に加えて、オンラインセミナーを数多く開催。専門家が直接質問に答え、その録画をYouTubeでも公開しています。

ーー最後に、これからを担う若い世代へメッセージをお願いします。

ゲーデ ヨハン:
「Be curious around the world.(世界に好奇心を持とう)」。この一言に尽きます。そして、できるだけ若い時から投資を始めることをお勧めします。投資で成功するには市場にいる時間(Time in the market)が非常に重要です。若くして始めれば、それだけ多くのチャンスを手にできます。

編集後記

見る角度が違えば、同じものでも全く違う姿を映し出す。この視点こそが、顧客の声から次々と生まれるサービス改善の根幹にある。玄関の恐竜が象徴するように、過去に固執せず、常に変化し続けるという強い意志。トレーダーから経営者へと視点を変え、成長を遂げてきたヨハン氏自身の歩みが、サクソバンク証券の未来を力強く牽引していくのだろう。

ゲーデ ヨハン/ダンスケ銀行(Danske Bank A/S)を経て、2009年にサクソバンク証券の親会社であるサクソバンクA/S(Saxo Bank A/S)に入社。入社後、リスクモデルの開発やマーケットリスクの査定を行い、マーケットリスク管理部門の副責任者、カウンターパーティーリスク管理のシニアマネージャーを経て、サクソバンク証券の代表取締役社長に就任。