
高度な技術で空調設備サービスを提供する株式会社ヨコレイ。「品質とスピード」を徹底することで、法人顧客との厚い信頼関係を築き、着実に成長を遂げてきた。その根底にあるのは、「職場は人生のステージであり、社員一人ひとりの幸せを追求する」という、代表取締役である有井清氏の確固たる経営哲学だ。社長就任後、ドラッカーマネジメントを導入して組織の変革を推し進めながらも、先代から受け継いだ理念を大切に守り続けている有井氏。働き方改革や物価高といった時代の変化を追い風に変え、社員の健康と経済的な充足を第一に考える経営を通じて、持続可能な未来を築き上げていくその軌跡と、未来を担う若手への熱い思いをうかがった。
「社長のメルマガ」に込められたミッションと経営哲学
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされましたか。
有井清:
大学卒業後、一度は地元の水産商社に就職したものの、1年で退職しました。当時はまだバブル経済期で、海外で活躍する友人たちの姿を見て、もっと広い世界を見てみたいという思いが強かったのです。この時点では、家業を継ぐことは考えていませんでした。
退職後、改めて就職活動を始めたところ、父から「うちに来ないか」と誘われ、入社を決めました。高校や大学時代にアルバイトとして働いた経験はありましたが、正式な社員として働き始めたのはこの時からです。当時の総務部長が「労災があるから」と社員として登録してくれたことが、私のキャリアの始まりとなりました。
ーーその後、どのような経緯で社長に就任されましたか。
有井清:
入社後、先代である父から「お前は”経営”を勉強した方が良い」と経営の勉強を勧められ、30歳で経営学の講座に参加しました。そして、34歳のときに父から社長を引き継ぎ、株式会社ヨコレイの代表取締役に就任しました。
就任当時は、正直に言って何をすればいいのか定まらない状態が続きました。そんな中、2004年に経営コンサルタントの講義でドラッカーマネジメントを学んだことが、大きな転機となりました。企業経営にはミッションが不可欠だと教えられ、1年間の学びを通じて、やるべきことが明確になったのです。そして、2005年1月に「社長のメルマガ」を創刊し、第一号でこのミッションを打ち出しました。会社の仕組みだけでは伝わりきらない私の考えや大切にしている思いを社員と共有したいと考え、それ以降も毎月1日に発行を続けています。
時代の要請に応える変革と、変わらないプロの信念
ーーミッションを社内に浸透させるため、どのような社内改革を進められたのでしょうか。
有井清:
ミッションの実現に向けて組織を最適化するため、時には厳しい決断も必要でしたが、共通の理念のもとで成長を目指すチームの再構築に注力しました。また、当時は曖昧だった労務管理を見直し、残業代や休日出勤手当をきちんと支払う会社へと変革させました。労務環境の整備と並行して、私たちの事業の強みである「品質とスピード」という2005年からの理念も守り続けています。特に、お客様が困っているときに迅速に駆けつける“当日訪問率100%”を目指すことは、当時から高く評価いただいている当社の文化であり、大きな差別化要因です。
ーー働き方改革を進める中で、「即日対応」という事業方針に矛盾を感じることはありませんでしたか。
有井清:
働き方改革が進むにつれて、即日対応が社員の自己犠牲の上に成り立っていることに気づきました。それは「社員一人ひとりの幸せ」という私の経営哲学と矛盾していると考えるようになったのです。そこで、緊急性の高いお客様にのみすぐに対応し、そうでない依頼は勇気をもって断る決断をしました。昔は営業活動で最大限の受注を目指していましたが、今は社員のスケジュールに合わせて受注を最適化しています。時代の要請に応じたことで、社員が長く働ける環境が整い、結果的に収益性も向上しました。
ーー競合他社にはない、独自の強みとして特に注力されている点は何でしょうか。
有井清:
当社の事業は、創業時は横浜冷暖房設備株式会社として松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社)の空調修理を請け負うことから始まり、その後、工事も手掛けるようになりました。現在は工事のマネジメントをメインにしていますが、サービスメンテナンスも自社で一貫して行うことができる会社は少ないため、それが大きな強みとなっています。また、お客様、社員、ビジネスパートナー、地域社会という4つのステークホルダーに対する貢献度を数値化して公表する「横浜型地域貢献企業」の認証もいただいており、透明性の高い経営を心がけています。
社員の幸せを追求する経営と、未来を担う若手へのメッセージ

ーー「社員一人ひとりの幸せ」という経営哲学を、具体的にどのように実現されているのでしょうか。
有井清:
社員の幸せは、健康と経済的な充足の2つが重要だと考えています。まず、健康を維持するため、以前から健康セミナーを定期的に実施してきました。また、経済的な充足のため、給与アップにも積極的に取り組んでいます。加えて、社員同士の絆を深めることも大切です。仕事から離れた場所で本音で話せるよう、懇親会や社員旅行、家族を招いてのイベントを定期的に開催。こうした場は、日頃の業務だけでは生まれない、強いチームワークを育む上で欠かせないものです。
採用活動においては、当社のミッションと価値観に共感してくれる「仲間」を迎え入れたいという思いがあります。私たちが一方的に選ぶだけでなく、応募者からも選ばれる会社を目指しているのです。
ーー最後に、若手社員に期待する役割やマインドについてお聞かせください。
有井清:
私は、仕事を通して自分自身を磨き、仲間を大切にすることが社会人として重要だと考えています。当社の社員にはビジネスマナーを身につけてもらうため、全員に秘書検定を受験・取得させています。こうした基本が軽視されがちな現代だからこそ、私たちは「社会を支えるプロ」として、地道な取り組みを大切にし、社会に価値を生み出していきたいと考えています。単なる技術職ではなく、「社会を支えるプロ」としての自覚を持ち、活躍してくれることを期待しています。
編集後記
水産学を学び、家業とは無縁のキャリアから一転、若くして社長に就任した有井氏。時代の変化を捉え、自らを変革し、会社をより良い方向へと導くその姿は、まさにリーダーとしての強い意志を感じさせた。特に、「社員一人ひとりの幸せ」を追求するために働き方を見直し、労働環境の整備や給与アップを積極的に進める姿勢は、社員への深い思いやりから生まれていると感じた。有井氏の「職場は人生のステージ」という言葉が示すように、同社は社員一人ひとりの人生を豊かにする舞台として、これからも進化を続ける。社長の揺るぎない経営哲学のもと、今後のさらなる飛躍が楽しみである。

有井清/1967年11月横浜市生まれ。1990年3月北里大学水産学部水産増殖学科卒。同年4月株式会社三徳入社。1991年5月横浜冷暖房設備株式会社入社(同年、同月に株式会社ヨコレイに改称)、2002年9月より現職。2017年5月一般社団法人 神奈川県空調衛生工業会 会長就任。2021年6月神奈川県県民功労者表彰(産業・経済分野)、2024年7月国土交通大臣表彰。