※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

成田国際空港を拠点に、日中路線を中心として運航するローコストキャリア、スプリング・ジャパン株式会社。JALグループの一員として日本の品質を武器に、訪日観光客や日本の若年層向けに独自のサービスを展開している。2024年、同社の代表取締役社長に就任した浅見達朗氏は、日本航空株式会社(JAL)での豊富な経験を持つ人物である。JALの経営破綻やコロナ禍という激動の時代を乗り越えてきた同氏に、これまでの歩みと日中の架け橋となるための今後の展望をうかがった。

逆境の中で見出した光 経営理念の礎となった人の価値

ーー浅見社長の「原点」となった経験をお聞かせください。

浅見達朗:
新卒でJALに入社後、国内外のさまざまな部署を経験しています。JALは異動が多く、私も予約センター、営業、路線計画、米州駐在などを経験しました。環境が頻繁に変わるため、新しい場所で都度コミュニケーションをとり、関係を築く重要性を学んできました。特に印象深いのは、国際線の路線計画部に約8年間在籍した時のことです。2010年の経営破綻時は多くの路線を運休させる苦しい判断が続きました。待遇も下がり、30代半ばで転職も考えました。しかし、最終的に会社に残る決め手となったのは「人」の存在でした。「この仲間たちと一緒に働き続けたい」という強い思いが、私を支えてくれました。

ーー具体的に、どのようなスタッフが集まっていたのでしょうか。

浅見達朗:
当時は運休判断など後ろ向きな業務が多かったのが実情です。しかし、部署のスタッフは「これを乗り越えれば会社は良くなる」「自分たちが良くしていくんだ」という前向きな姿勢で仕事に取り組んでいたのです。自ら考え、積極的に行動し、強い想いを周囲に伝えて仲間を増やしていける、そんな素晴らしいスタッフに囲まれて働ける環境は、他ではなかなか得難いものだと感じました。この経験から、誰と共に働くかが自分にとって非常に重要だと痛感しています。今でも「人」を大切にするという価値観が私の根幹にあります。

苦境の事業への着任 スタッフの可能性と成功体験

ーーどのような経緯で貴社の社長に就任されたのでしょうか。

浅見達朗:
2022年にJALで課長職を務めていた際、コロナ禍におけるスプリング・ジャパンの中国路線に携わるようになったことが最初の関わりでした。当時は中国のルールが複雑で、便を自由に運航できない状況だったのです。JALとしてどうサポートできるか考えていました。2024年に社長就任のお話をいただいた時も、依然として厳しい経営環境にあるという認識でした。就任当時、中国路線は一日3路線(現在は7路線)の運航で、事業環境は厳しいまま。しかし、実際に来てみると、スタッフが非常に明るく素直なことに救われました。「この会社ならきっと成長できる」と確信した次第です。

ーー就任された当時、どのような目標を掲げていらっしゃいましたか。

浅見達朗:
会社の業績を黒字化させること。これに加えて、スタッフに「自分たちの力で成功した」という体験を積んでもらいたいと考えていました。弊社は2024年で就航10周年でしたが、それまで苦労の多い時期が続いていました。小さな成功体験の積み重ねが、スタッフと会社の成長に不可欠です。「スタッフが伸びれば会社も伸びる」と信じています。そのために、まずは現場を歩き「困っていることはないか」と直接対話することから始めました。

ーー実際の結果はいかがでしたか。

浅見達朗:
おかげさまで、2024年度に黒字化を達成することができました。現在は2025年度も終わるところですが、今のところ2年連続の黒字も見えています。スタッフ全員が一丸となって取り組んだ結果です。この成功体験が大きな自信となり、今後のさらなる飛躍の原動力となると思います。今後も現場と密に連携しながら、会社全体の成長を目指していきたいと考えています。

日中主軸という独自性 架け橋として担う使命

ーー貴社の事業内容や特徴について、教えていただけますか。

浅見達朗:
弊社は、日中路線を主軸にしたローコストキャリア(LCC)です。これほど日中間にフォーカスしているLCCは、他にはありません。お客様の8割以上が中国の方という点も特徴と言えます。日本語・中国語の双方に堪能なスタッフや、両国の文化を深く理解している人財が豊富です。そのため、お客様アンケートでは「接客が丁寧で驚いた」といった声を多くいただいており、客室乗務員の接客は高く評価されています。また、LCCとしては珍しく、ヤマトグループの貨物専用機の運航を受託している点も弊社ならではの強みでしょう。

ーー最も大切にされている理念や使命は何でしょうか。

浅見達朗:
航空会社として「安全第一」は揺るぎない基本です。そのうえで、弊社が大切にしているのが「日中の架け橋になる」という使命です。私たちはこの使命を実現するために、日々の事業活動に取り組んでいます。

6機の翼で描く未来図 「中国へ行くならスプリング・ジャパン」

ーー「日中の架け橋」となるため、どのような取り組みをしていきたいですか。

浅見達朗:
日中を取り巻く社会情勢はその時々で波があるものですが、私たちはこうした変化に柔軟に対応しながら、長期的な視点で日中の交流を支え続けたいと考えています。中国からのインバウンドについては確かな実績があり、長期的にも伸びていくと見通されているため、今後は日本からのアウトバウンドをいかに伸ばし、安定的な双方向の交流を実現するかが鍵となります。LCCの強みを生かし、若い世代の方々に中国の多様な文化を直接体感していただきたい。大学へのゼミ合宿の提案など、新たな需要の種をまき、未来の交流の土台を築いていきたいです。

また、中国側でのブランド確立も進めます。設立母体である春秋航空の知名度を活用しつつ、独自の魅力を打ち出さなくてはなりません。弊社には日本語と中国語に対応できるスタッフがお客様とのタッチポイントに多くいます。日本品質の丁寧なサービスで差別化を図りたいと考えています。

ーー貴社ではどのような人材を求めていますか。

浅見達朗:
弊社の理念に共感し、熱意を持って取り組める方を求めています。日本と中国の双方に興味を持ち、両国の文化を柔軟に受け入れることが重要です。また、自分で考えて動ける人を歓迎します。LCCは少数精鋭で、フルサービスの航空会社に比べ一人一人の守備範囲が広いのが特徴です。「これだけ」という決まった仕事はなく、多様な業務を経験できます。大企業のような複雑なプロセスもありません。意思決定のスピードが速い点も魅力でしょう。自分の仕事の成果がすぐに世の中に反映される。これが弊社の仕事の面白さだと思います。

ーー最後に、今後の事業拡大に向けた長期的なビジョンをお聞かせください。

浅見達朗:
まずは「成田空港から中国へ行くなら、スプリング・ジャパン」と名前が挙がる存在になることが目標です。現在、中国本土への就航都市数はJAL本体より多く、成田空港に就航している航空会社の中でもトップクラスです。この強みを生かし、知名度と存在感を高めていきたいです。JALグループ内での役割も明確です。ビジネス層が中心のJALに対し、私たちは観光客や大学生などの需要を担います。このようなお客様は今後予定されている成田空港の機能強化によりさらに増加が見込まれるため、しっかりとお応えしていきたいと考えています。

「日中の架け橋」という使命を掲げていますが、保有機材はまだ6機です。これは使命を果たす入り口に過ぎないと考えています。今後は機材をさらに増やし、路線網を拡大していきたいです。事業規模の拡大に合わせ、チャンスがあれば新たなマーケットにもチャレンジし、より多くのお客様に選ばれることによって企業価値の向上を目指します。

編集後記

日本航空での豊富な経験を経て、スプリング・ジャパンの舵取りを担う浅見氏。JALの経営破綻という逆境の中で見出した「人と共に働く」ことの価値。それは同氏の経営論の根幹を成している。スタッフとの対話を起点に組織の成長を促すその姿勢は、日中路線を中心に据える同社の推進力となるであろう。6機の翼で「日中の架け橋」という使命に挑む同社の飛躍に、期待が寄せられる。

浅見達朗/1980年函館市生まれ。慶応義塾大学を卒業後、2002年に日本航空株式会社に入社。予約、営業、事業計画部門を経験し、2017年に米州地区販売推進室マネジャーとしてロサンゼルス駐在。2019年に帰国後、国際路線事業部、レベニューマネジメント推進部、路線事業戦略部のグループ長を経て、2024年4月にスプリング・ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任。