※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

IT FORCE株式会社は、介護タクシー配車サービス「よぶぞー」や自治体DX「監査くん」など、社会課題解決型のサービス開発に注力している会社だ。代表取締役社長の陰山光孝氏は、楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社)での経験によって「やれば大抵のことはできる」という自信を得た。その経験を胸に、2006年に同社を設立。「やったもん勝ち」の信念のもと、2028年の上場を目指し、公共・社会福祉領域への貢献に挑む。同氏に、その歩みと展望を聞いた。

楽天での経験が起業を促した原動力

ーーこれまでのご経歴について教えていただけますか。

陰山光孝:
私は1971年に東京都で生まれ、職業訓練校を経た後、新卒でSES(※1)が主力の会社に入社しました。そこでは大手SIer(※2)へ派遣され、成田空港のフライト案内システムなど、比較的インフラ系の案件を担当していました。

(※1)SES(System Engineering Service、システムエンジニアリングサービス):システム開発や保守などのプロジェクトにおいて、クライアント企業のITエンジニアの技術力や労働力を提供するサービス。
(※2)SIer(System Integrator、システムインテグレーター):システムの企画、構築、運用などを一括して請け負うIT企業。

ーーその後のご経歴と、起業に至った経緯についてお聞かせください。

陰山光孝:
その後、楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社)に入社しました。非常に素晴らしい会社で、社員が生き生きしていて、若い人が自信を持って仕事をしている環境でした。このような楽天での経験は、自分の中で非常に大きなものとなりました。

創業者である三木谷浩史氏と同じ会議に出席し、役職や年齢に関係なく、自分の提案や意見が認められるという経験をしました。自分のような一社員でも、トップ経営者に対し、対等な立場で議論を交わし、その論理が通じることを実感しました。この経験を通じて、「特別な能力を持った人だけではなく、やれば誰でもある程度はできるのではないか」とポジティブに捉えられるようになったのです。

これがきっかけとなり、「私も挑戦しよう」と、デジタル分野で企業向けにシステム開発を提供する株式会社シンクスカイ(現・IT FORCE株式会社)を登記しました。

感覚から理論へ 大学院で得た「言語化」の力

ーー経営者として大切にされている信念は何でしょうか。

陰山光孝:
私は「自分が納得できるかどうか」を大切にしています。たとえば、人生の最期に「いい人生だったな」と後悔なく思えるようにしたい。何でも行うわけではありませんが、裏付けがしっかりあれば実行し、ダメならすぐやめる。いけると思ったらやる、と決めています。

ーーその信念を、どのように経営に反映させてこられましたか。

陰山光孝:
これまでは「自分が納得できるか」という経験則を頼りに経営してきました。しかし、規模が拡大し仲間が増える中で、自分の判断を論理的に説明し、社員全員の共通認識とすることができませんでした。自分の判断基準を周囲に説明できないことに、次第に限界を感じ始めたのです。

そこで経営を体系的に学び直そうと、大学院に入学しました。大学院では、漠然とした経験を理論的な言葉に置き換える「言語化」の重要性を学びました。感覚を理論で説明し、人に伝えられて初めて「技術」になるのだと実感しています。

高齢化社会と行政の非効率への挑戦

ーー大学院での学びから、特にどの分野の社会課題に注目されましたか。

陰山光孝:
大学院での学びを経て、経営理論に基づきDX(※3)が遅れている領域として、特に高齢者が利用するサービスに着目しました。日本には、健康寿命が平均寿命よりおよそ10年短いという社会課題があります。この課題解決に向けて、健康寿命の延伸に貢献できるサービスを模索していました。

さらに詳しく話を聞くと、介護タクシーは予約が大変で、タクシーを呼べないから外出をあきらめてしまうケースも往々にしてあることが分かりました。そこで、この現状を打破するために立ち上げたのが、介護タクシー配車サービス「よぶぞー」です。このサービスなら社会課題を解決できると確信し、IT FORCEの事業として本格的に展開することにしました。私たちのリソースを投入すれば、高齢者の外出の機会を増やせるのではないかと考えたのです。

(※3)DX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革し、新たな価値を創造して企業の競争力を高めること。

ーー介護タクシー事業を本格化されて、現状の手応えはいかがでしょうか。

陰山光孝:
おかげさまで多くのお客様からリピートをいただいております。その背景には、地道に足を使うことを徹底した点があります。地域の介護施設などを回り、タクシー事業者様をご紹介いただいています。また、導入いただいた事業者様のところへ定期的に顔を出し、実際の声をサービスに反映するサイクルを繰り返しています。独りよがりにならず、仲間をつくり、エコシステムを構築し、関係各所と連携していくことが弊社の計画です。

ーー介護タクシー事業を今後、どのように発展させていくお考えですか。

陰山光孝:
よりご利用いただきやすくなるよう、直近では決済機能の強化を考えています。また、アプリ操作が難しい方のために、AIが電話で予約応対できる機能も検討しています。

将来的には、利用回数などに応じたクーポンや還元システムの仕組みも導入する計画です。多くの高齢者の方がもっと自由に外出できる社会を目指したいです。

ーーその他にも、社会課題の解決に向けたサービスはあるのでしょうか。

陰山光孝:
「よぶぞー」は介護領域の課題解決ですが、私たちは行政のDXにも着目しています。

自治体の職員の方々は、管轄の介護事業所などへ監査に赴く必要があるのですが、その仕組みが自治体ごとに異なり、非効率なのが現状です。そこで、監査業務にフォーカスした製品「監査くん」を開発しました。

これまでの監査業務の主な負担として、過去資料の収集、印刷・書類管理・郵送などの事務作業が挙げられます。また、紙からパソコンへの転記負担も大きな課題でした。しかし、「監査くん」を導入すれば、タブレットやPCを利用することで、監査計画の作成、監査状況の共有、監査結果の指導のサポートなどが一元化できます。職員の方の負担軽減とサービス向上につながるのです。結果として、自治体の歳出を減らすことにも貢献できると考えています。

上場という目標の先にある社会貢献

ーー今後の成長戦略についてお聞かせください。

陰山光孝:
2028年の上場を目指していますが、上場自体が目的ではありません。目先の売上を増やすことより、本質的な自社サービスで社会課題に貢献することを重視します。公共や社会インフラの領域にフォーカスし、そこに賛同してくれる仲間を集めたい。そういった取り組みをしっかり実践していくことで、結果として上場が現実的になると考えています。

ーーどのような人材を求め、また育成していきたいとお考えですか。

陰山光孝:
公共DXや社会福祉DXを推進するプロジェクトマネージャーやシステムコンサルタント、SE(システムエンジニア)、営業、人事などを強化したいと考えています。将来的には人件費を倍にし、事業拡大に備える方針です。

注力テーマとして経営幹部育成や後継者育成も進めており、本質を見極め、論理的に考え、熱意を持って真摯に取り組めるリーダーを育てていきたいと考えています。「やったもん勝ち」というマインド、まずはやってみるという姿勢を共有できる仲間と共に挑戦したいです。

ーー最後に読者へのメッセージをお願いします。

陰山光孝:
日本人として、グローバルな視点を持ちつつ、私たちができることを、私たちなりの形でしっかりと取り組んでいきたいと考えています。私たちが取り組んでいる社会貢献や挑戦を一緒に体験し、考え、推進していただける仲間を求めています。志を同じくする方がいらっしゃれば、ぜひ私たちと共に挑戦してほしいと願っています。

編集後記

楽天での経験を「やればできる」という確信に変え、起業家として歩み始めた陰山氏。その経験則に基づく経営を、大学院で理論として体系化し、「言語化」による理論と実践の両立を果たした姿が印象的だ。「やったもん勝ち」という信念は、単なる勢いではなく、社会課題の解決という明確な裏付けと論理があってこそ輝く。2028年の上場は、同社が社会に本質的な貢献を果たすための通過点に過ぎないのだろう。その挑戦に注目していきたい。

陰山光孝/1971年東京都生まれ。墨田川高校卒業後、職業訓練校情報処理科を経て、株式会社ニッポンダイナミックシステムズへ入社。バブル崩壊という逆風の中で経験を積む。その後、楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社)に転職し、尊敬する三木谷浩史さんの影響を受け、2006年にIT FORCE株式会社を設立。2023年に日本工業大学 専門職大学院(技術経営修士)修了。デジタル技術を活用した社会課題の解決に全霊を注ぐ。