※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

企業のDX推進が加速する中、従来のシステム開発が抱える課題が浮き彫りになっている。期間やコスト、仕様変更への対応の難しさといった点だ。これらの課題に対し、ローコード開発プラットフォームを駆使して解決策を提示するのが株式会社BlueMemeである。シンクタンク、事業会社のCTOというキャリアを経て同社を率いることになった代表取締役社長、宮脇訓晴氏。AI時代を見据え、エンジニアが真の価値を発揮できる組織づくりと、業界の未来をどう描くのか。そのビジョンに迫った。

シンクタンクから事業会社へ 二つの経験から得た経営の視座

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。

宮脇訓晴:
大学院では地震学を研究し、構造解析の技術を学んでいました。その専門性を活かすべく、卒業後は大手シンクタンクである日本総合研究所(以下、日本総研)にエンジニアとして入社しました。ただ、当初の希望とは異なるITリサーチの部署に配属されたことがきっかけで、ITの世界に深く関わることになりました。

ーー日本総研時代で、特に印象に残っている仕事はありますか。

宮脇訓晴:
最初の3年程度は、外部の研究機関にて、ハッカーの追跡システムをプログラミングする仕事に従事しました。その後はコンサルタントに転身し、マイナンバーカードに搭載されている公的個人認証サービスの制度設計や、ICカードの研究開発プロジェクトに5年ほど携わりました。現在、生活に欠かせない基盤となっている技術の開発に、プロジェクトマネージャーとして推進できたことは大きな経験です。

ーーその後、どのようなキャリアを歩まれたのですか。

宮脇訓晴:
コンサルタントとしてキャリアを積んだ後、住宅ローン専門の金融機関であるSBIモーゲージ株式会社(現・SBIアルヒ株式会社)へ転職しました。経営課題を提示するだけでなく、事業会社の一員として自らの手で課題を解決したい。そして、会社を成長させてみたいという思いが強くなったからです。

SBIアルヒには、ITの責任者として入社しましたが、半年ほどでファンドの資本参加がありました。そこから営業本部長や営業企画本部長も兼任することになりました。最終的に約10年間、IT部門から営業、経営企画まで幅広く担当し、プライム市場への上場も経験しました。この経験を通して、事業を動かし成長させる手応えと自信を得ることができました。

突然の経営危機と戦略転換によるV字回復

ーー貴社へ入社された経緯についておうかがいできますか。

宮脇訓晴:
日本総研時代の後輩で当時弊社の役員だった者から「会社を大きくするのを手伝ってほしい」と声をかけられたのが直接のきっかけです。SBIアルヒでプライム市場への上場も成し遂げ、ちょうどキャリアの一区切りと感じていたタイミングでした。ITコンサルタントの経験から事業内容への理解は早く、入社の決意は固まりました。前職より小規模な会社を、再び自分の手で成長させることに大きな魅力を感じたからです。

ーー入社後に直面した、特に印象的な出来事はありますか。

宮脇訓晴:
入社2年目に、主力で扱うローコード開発ツール「OutSystems」のライセンス価格が大きく上昇したことです。弊社の強みは、小規模な案件からお客様と関係を築く「スモールスタート」でした。しかし価格高騰によってそのビジネスモデルが通用しなくなり、受注が伸び悩む厳しい状況に陥りました。

そこで発想を転換し、大規模で付加価値の高い提案へと戦略を切り替えました。お客様には、高額なライセンス費用を含めても価値を感じていただけるような提案です。その方針に合わせて営業体制も再編し、トータルでご納得いただけるプランニングを徹底しました。この戦略転換が功を奏し、下期には受注トレンドを大きくプラスに転換できました。会社として一段階成長できた、非常に印象深い出来事です。

ーーその後、どのような経緯で社長に就任されたのでしょうか。

宮脇訓晴:
社長就任は、全く予測していませんでしたが、昨年度の業績回復に取り組む中で、前社長の松岡とは「会社の体制も含めて変革が必要ではないか」という議論を重ねていました。その中で「やってくれ」と打診を受け、就任に至った形です。引き受けるにあたっては、今後の経営体制についてさまざまな議論をしました。現在は、私がBlueMeme本体の事業成長を担い、松岡は新しく設立したグループ会社「アルターデザインコンサルティング」の会長として、そちらのゼロからの立ち上げを担うという役割分担になっています。その会社はAIを活用した組織コンサルティングなどを手掛けており、弊社が57%を出資しています。

「つくる」から「対話する」へ 次世代のエンジニア像

ーー今後、どのような会社づくりを目指していますか。

宮脇訓晴:
弊社はエンジニアが最も多い、エンジニアのための会社です。だからこそ、エンジニア一人ひとりが「主役」として輝ける会社にしたいと強く思っています。そのために、社員のキャリアパスや処遇をしっかりと整備し、誰もが主役として活躍できる環境を整えることが私の使命です。

これからの時代、AIによる開発の自動化がさらに進むと、エンジニアの役割は単に「つくる」ことから、お客様と「対話する」ことへと変化していきます。お客様との対話を通じてビジネスに直接貢献し、新しい時代の業界の主役となれる。そんなエンジニアが集う会社を目指しています。

ーー貴社で働く魅力は、どのような点にあるとお考えですか。

宮脇訓晴:
お客様の声を直接聞き、自分の手でサービスを最後までつくり上げられる点です。弊社の受注は、9割近くがお客様との直接契約です。そのため、お客様と密に議論を重ねながら、自分の考えを形にしていくことができます。大きなシステムの一部分だけを担うのではなく、自分が関わったものがサービスとして世に出る。その達成感は、何物にも代えがたいやりがいになるはずです。

ーーこれからのエンジニアに求められるスキルについてお聞かせください。

宮脇訓晴:
最高のエンジニア像は、時代と共に変化します。かつては手で一行ずつコードを書くことが求められましたが、今はローコードのようなツールが単純作業を自動化してくれます。それによって生まれた時間をお客様との対話に使い、より本質的な価値を提供すること。お客様のビジネスを深く理解し、成功に導くコミュニケーション能力こそ、これからのエンジニアに最も求められるものだと考えています。これは、データベースなどの専門知識以上に重要なスキルです。

編集後記

シンクタンクで培った論理的思考と、事業会社で磨いた経営視点。宮脇氏の語り口は常に冷静だ。しかしその言葉の奥にはエンジニアという存在への深い敬意と、彼らと共に未来を創りたいという熱い情熱が宿っていた。開発の自動化が進む時代だからこそ、人間であるエンジニアの「対話する力」が価値を生む。同社の挑戦は、システム開発の常識を変え、次代を担うエンジニアたちの新たな道標となるだろう。

宮脇訓晴/1973年兵庫県生まれ。1997年、東京工業大学大学院修了後、株式会社日本総合研究所に入社し、コンサルティング業務に従事。2013年SBIモーゲージ株式会社(現・SBIアルヒ株式会社)に入社、上場などを経験。2022年株式会社BlueMemeに入社し、2025年6月、同社代表取締役社長に就任。