※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

高砂熱学工業株式会社のグループ企業として、水熱源ヒートポンプユニットを軸に独自の空調システムを展開する日本ピーマック株式会社。同社は、快適な環境づくりに貢献するとともに、カーボンニュートラルへの対応という大きな社会課題にも向き合っている。2024年4月、代表取締役社長に就任した土谷科長氏は、高砂熱学工業での豊富な現場経験とマネジメント経験を持つ。就任後、土谷氏が組織の自立と成長のために導入したのは「パーパス経営」だ。個々の力を最大限に引き出し、未来の環境機器メーカーへと進化を目指す同社の取り組みについて話を聞いた。

現場経験から培われたマネジメントの原点

ーーこれまでの歩みと、今の仕事の原点となったご経験についてお聞かせください。

土谷科長:
昭和58年に高砂熱学工業に入社し、40歳くらいまで建設現場の監督を務めていました。特に印象深いのは、若い時に初めて一人で任された現場です。お客様の要求も厳しく、難しい現場でしたが、一人ではできないことも、一生懸命やっていると周りの方々が助けてくれることを実感しました。何事も一生懸命やれば、周りは見ていてくれて、いざという時には助けてくれる。それが仕事の醍醐味であり、大切な部分だと学びました。

その後、管理職となり、横浜支店長、東京本店長を経て、2024年4月に弊社の社長に就任しました。

ーー管理職として、どのようなことを大切にされていますか。

土谷科長:
マネージャーや経営者は、自分で何かをするというより、社員の力を引き出し、目標達成に導くことが役割です。社員が気持ちよく、自信を持って働ける土壌を作ることこそが、トップの仕事だと考えています。

そのため私は、特に2つのことを大切にしています。一つは、現場で働く人たちが最大限の力を発揮できるような、やりやすい環境、仕組み、組織をつくること。もう一つは、全体を俯瞰して見て、人や機材といった資源を適正に配分し、目標を確実に達成させることです。

全員の能力を最大化するパーパス経営

ーー社長に就任後、まずどのような課題に取り組まれたのでしょうか。

土谷科長:
弊社は高砂熱学工業のグループ会社ですので、存在は当然知っていました。しかし、就任時に強く感じたのは、「グループ本社を強く意識しすぎているのではないか」という点です。そこでまず、「一つの独立した会社として、自分たちで道を切り拓き、自立する組織にしなければならない」と強く思いました。

実際に社長として現場を見て、この思いは確信に変わりました。社員一人ひとりが高い技術を持ちながらも、自分の仕事に対して自信を持ちきれていない。300名位の規模の会社で、全員が能力を100%発揮しなければ、この先の発展はありません。まずは社員が自信と独自性を持ち、能動的に仕事ができる環境をつくる必要がありました。

ーー課題解決のために、具体的にどういった取り組みをされたのでしょうか。

土谷科長:
社員一人ひとりの能力を最大限に発揮してもらうために、パーパスの策定に取り組むことにしました。従来の経営理念は、どこか会社から与えられた受け身のものになりがちです。そうではなく、社員一人ひとりが共有し、自分たちの内側から能動的に出てくるようなものでなければ、本当の結束力は生まれないと考えたからです。

そこで、策定の段階から従業員にも参加してもらい、アンケートを実施。集まった社員一人ひとりの意見を具現化したものをベースに、経営者側の思いも少し加えさせていただき、今年の4月1日に発行するに至りました。

策定したパーパスは「地球ともっと幸せに、環境機器で未来につなぐ。」です。現在、パーパスを社員全員が共感できるものにするための啓蒙活動を進めているところです。これが浸透すれば、もっと強い組織になれると確信しています。

水を熱源に使う省エネシステムの優位性

ーー貴社の主力事業と、強みや特徴について教えてください。

土谷科長:
弊社の事業は、オイルショックの前、省力化のために開発された個別空調機が元になっています。主力は「水熱源ヒートポンプユニット」で、一般的な空調機が外気で熱交換するのに対し、弊社のシステムは水を循環させて熱交換を行うのが大きな特徴です。

最大のメリットは省エネ性にあります。水配管で建物全体をつなぐため、たとえば、冷房と暖房が混在する場所では、水を介して熱の融通を行います。これにより、熱源を作る一次側のエネルギーを抑えられます。また、室外機と室内機が一体となってパッケージになっているため、1台1台個別に冷暖房を選択・切り替えできるのも強みと言えます。

ーーそのシステムは、主にどのような場所で採用されているのでしょうか。

土谷科長:
冷房と暖房の熱負荷が混在しやすい商業施設やホテルなどがメインです。また、お客様のニーズに合わせて仕様を変更するカスタマイズに対応できる小回りの良さも、大手にはない強みだと自負しています。電車の運転席の空調機などを開発した実績もあります。

空調から環境機器へ広がる事業領域

ーー今後、会社としてどのような姿を目指されていますか。

土谷科長:
社長就任時に、社員には「3つのSHINKAをしましょう」とお願いしました。1つ目は今ある技術・ノウハウをもっと深掘りする深化。2つ目は今のやり方・作り方をもっと進化させること。これにはDXの推進も含まれます。そして3つ目が新しい市場、新しい商品にもっと挑戦し、増やしていく新化です。

その具体的な取り組みの一つとして特に注力しているのが、社会的な課題であるカーボンニュートラルと地球温暖化への対応です。まず、地球温暖化係数のより低い冷媒(R454Bなど)を使った空調機の開発を進めています。すでに、地球温暖化係数が「1」という、極めて環境負荷の低い冷媒を利用した機械も市場にリリースしました。現在の主流冷媒(R32)の温暖化係数(GWP)は670程度であり、この「1」という数値が示す環境性能の高さは圧倒的です。

この挑戦の一環として、私たちはパーパスにあえて「空調機器」ではなく「環境機器」という言葉を盛り込みました。空調だけにこだわっていては、次の市場は広がりません。「熱をどういうふうに使うのか」という広い視野を持ち、お客様の価値に合致するものを開発していく。そのために、この言葉を選びました。

ーー「環境機器」メーカーとしての今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

土谷科長:
まず今後の展望ですが、CO2削減に向けた省エネ効果の高いシステム開発をさらに進めます。たとえば、従来よりも高い温度の水(15度など)でも全館空調を可能にする仕組みを開発しており、これが実現すれば熱源を作るエネルギーコストを大幅に下げられます。来年中には一つ、製品として出せるのではないかと考えています。

そして、就職・転職活動中の皆さんへのメッセージとして、弊社は、一人ひとりの能力が最大限に発揮できる会社を目指しています。カーボンニュートラルという社会課題は、これから最も重要になるテーマです。その最先端で早くからチャレンジできる環境が、弊社にはあります。高い技術力を持つ環境機器を通じて社会に貢献できるこのチャンスを、ぜひ私たちと共に掴みましょう。

編集後記

現場での原体験が、土谷氏の一貫した組織論を築いた。それは、安定基盤に安住せず、社員一人ひとりが自信と誇りを持って自立することだ。この個の力を最大限に引き出すために導入されたのが「パーパス経営」である。同社の強みである水熱源ヒートポンプ技術は、今、環境機器という新たな市場で、カーボンニュートラルという社会課題に挑む原動力となっている。技術と組織の進化の加速によって、社会に貢献する企業としての未来に大いに期待したい。

土谷科長/1961年、北海道出身。1983年北見工業大学工学部機械工学科卒業後、高砂熱学工業株式会社に入社。高砂熱学工業株式会社にて執行役員横浜支店長、常務執行役員東京本店長などを経て、2024年4月1日、子会社である日本ピーマック株式会社の代表取締役社長に就任。