※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

店舗に特化した総合的なマーケティング支援を手がける、株式会社トリニアス。同社は顧客の課題を根本から解決する「社外CMO」として、総合的なコンサルティングを展開している。同社を率いるのは代表取締役の細井裕作氏だ。航空機の整備士という経歴を持つ同氏は、JALの経営破綻を機にビジネスの世界へ転身した。自らの手で道を切り拓いてきた細井氏に、創業の経緯から事業にかける思い、そしてAI時代を見据えた今後の展望について話を聞いた。

航空整備士のキャリアとJAL破綻による強い危機感

ーー社会人としての最初のキャリアについてお聞かせください。

細井裕作:
もともと機械や乗り物が好きだったことから、航空専門学校へ進学しました。卒業後、株式会社JALエンジニアリング(以下、JALEC)に入社しました。JALECには、航空機の整備士は機種ごとの整備資格を取得すればJALが就航している世界中の空港に駐在できる制度がありました。3年ごとに勤務地を変えながら海外で働ける点に大きな魅力を感じ、JALECへの入社を決めました。

整備士の仕事を続けるつもりでいましたが、入社2年目に大きな転機が訪れました。それは日本航空(JAL)の経営破綻です。社内で大規模な早期退職者の募集が始まり、それを目の当たりにしました。そして、「このまま飛行機の整備しかできない人間でいて大丈夫か」と強い危機感を抱きました。

知識がなかったため、会社の外に目を向けることができませんでした。そこで、SNSを通じて1年間で約600人の方々とお会いしました。そこで多様な働き方を知り、夢を持って挑戦する方々の輝く姿に感化され、自分も挑戦したいと起業を決意したのです。

創業期の困難を乗り越え組織を支えた仲間の存在

ーー起業当初の事業概要について詳しくお聞かせください。

細井裕作:
「まずは、自分の力でお金を稼ぐ経験を積みたい」と考えました。そこで出会ったのが、共同創業者である山口です。当時、スマートフォンの普及に伴い、大手通信キャリアが電波改善のために無料のWi-Fi基地局を店舗に設置する事業を進めていました。私たちはそのWi-Fi機器を飲食店やサロンなどに設置していただく、飛び込みの訪問営業からスタートしたのです。

創業期は営業の仕事をしていました。事務所に寝袋を持ち込んで泊まり込み、仮眠をとってはまた仕事に戻るという生活を半年ほど続けました。親や友人からはJALECを辞めることを猛反対されていました。絶対に失敗できない状況下で、一番の支えとなったのは仲間の存在です。事業が軌道に乗り始めると、活動に共感してくれる仲間が自然と集まってきました。このメンバーで成功をつかみたいという思いが、当時の原動力となったのです。

ーーなぜ、現在の事業へ移行したのでしょうか。

細井裕作:
Wi-Fi設置でご縁のできた店舗様を訪問するなかで、新たなニーズに気づいたのが次の事業へのきっかけです。当時、Googleマップ上で店内を360度見渡せる「インドアビュー」というサービスが始まりました。素晴らしい内装や雰囲気を持つ店舗でも、それがユーザーに伝わっていないケースが多くありました。そこで私たちはGoogleの認定フォトグラファーとして店内を撮影し、その魅力を発信する事業を手がけたのです。

撮影した写真をGoogleビジネスプロフィールに掲載すると、店舗のオーナー様から「もっと多くの人に見てもらうにはどうすればいいか」という相談をいただくようになりました。その課題に応える形でMEO(Map Engine Optimization)対策が始まりました。これは、Googleマップ上での検索順位を最適化する施策です。当時はまだサブ業務として捉える企業が多かったものの、私たちはここに注力することを決めました。そして、店舗に特化したマーケティング企業へと舵を切ったのです。

店舗の「社外CMO」という価値とそれを支える組織文化

ーー貴社のマーケティング支援における強みについて教えてください。

細井裕作:
多くのマーケティング会社は、SEOやSNS運用といった個別のサービス軸で支援を行っています。それに対し、私たちは店舗の最高マーケティング責任者「社外CMO」として、総合的なコンサルティングを行う点が強みだと考えています。オーナーと同じ視点に立ち、MEOやSNSはもちろん、ウェブサイトや各種ポータルサイトまで含めて全体を分析します。どこに本質的な課題があるのかを突き止め、改善策を提案するのです。

個人経営の飲食店やクリニックのオーナー様の多くは、マーケティングの専門知識を持っていません。私たちはそうした方々の右腕となる形で成果創出を支援しています。

ーーそういった強みはどこから生まれているのでしょうか。

細井裕作:
社員一人ひとりが仕事を「自分ごと」として捉える文化から生まれているのではないかと考えています。経営者はすべてを自分ごととして考えますが、その当事者意識こそが、仕事のやりがいや楽しさを生む源泉だからです。弊社では「なぜ、あなたでなければならないのか」という問いかけを常に続け、成功体験を積み重ねることを重視しています。

また自分だからこそお客様に価値を提供できたという実感が、社会的な自己肯定感につながります。そして、その個人の価値をチームや組織を通じてどう拡大していくかという思考が、経営的な視点を養っていくのではないでしょうか。

AI時代を見据えた展望と次世代へのメッセージ

ーー今後の事業展望について詳しくお聞かせください。

細井裕作:
「店舗マーケティングといえばトリニアスだよね」と、誰もが想起するような存在になることを目指しています。そのために現在注力しているのが、Google検索に導入されたAIによる回答生成への対策、通称「LLMO(Large Language Model Optimization)対策」です。これは、私たちがこれまで培ってきた店舗への総合的なマーケティング支援の延長線上にあるもので、他社に先駆けて取り組んでいます。人に依存しがちなマーケティング業界で確固たる地位を築くため、今後は各業界に特化した自社メディアの制作にも力を入れ、より強固な事業基盤を構築したいと考えています。

ーー最後に、読者へのメッセージをいただけますでしょうか。

細井裕作:
若い方々には、まず自分自身が「誰に、どのような価値を与えたいのか」を常に問い続けてほしいです。人は自分のためだけでは、困難なときに踏ん張れません。「この人のために」という対象がいて初めて、努力し続けられるのだと思います。誰かのために価値を提供したいという思いが、結果として自分自身の成長につながります。それは最終的に、「いいものが正しく評価される世の中」の実現にもつながるはずです。

編集後記

航空機の整備士から、マーケティング会社の経営者へ。細井氏のキャリアは、安定したレールから自らの意思で飛び出し、道を切り拓いてきた挑戦の連続そのものだ。その原動力となったのは、JALの経営破綻を目の当たりにした強烈な当事者意識、そして「仲間と共に成功したい」という純粋な思いである。「仕事は自分ごとと捉えることで楽しくなる」という同氏の言葉は、キャリアに悩む多くの若者に、新たな一歩を踏み出す勇気を与えるだろう。

細井裕作/1986年広島県生まれ。航空専門学校を卒業後、株式会社JALエンジニアリングに入社し、3年間航空整備士として勤務。その後、起業を志し退社。2012年2月、代表取締役会長の山口氏と共同で、株式会社トリニアスを設立。創業当初より専務取締役を務め、同社の成長を牽引。2024年、代表取締役社長に就任。特化型Webマーケティング企業として、累計5,000社以上の支援実績を持つ。