
第一生命グループのIT・デジタル戦略を中核として担う、第一生命テクノクロス株式会社。同社は、2024年3月に第一生命ホールディングスへ親会社を変更し、同年4月に第一生命情報システムからの社名変更を行い、グループ全体のDXを牽引する“エンジン”としての新たな一歩を踏み出した。同社を率いるのは、新卒入社以来、一貫してシステム畑を歩み、その変革をリードする代表取締役社長の安藤伊佐武氏。大規模プロジェクトの経験から培われた「良いシステムはビジネスゴールに直結する」という信念、そして「テクノクロス」の名に込めた未来への展望を聞いた。
経営を牽引するシステム部門の役割と達成感
ーーまずはこれまでのキャリアについてお聞かせください。
安藤伊佐武:
新卒で第一生命保険相互会社に入社後、最初の異動で現在の当社の前身である第一生命情報システム株式会社に配属されました。以来、一貫してシステム畑を歩んでいます。第一生命のシステム開発を中心に、第一生命のIT企画部でIT戦略やガバナンスを担当した経験があります。また、第一フロンティア生命のIT担当を務めたりと、第一生命グループのITを幅広く経験してきました。
第一フロンティア生命でのIT統括部長時代に、大規模な基盤更改プロジェクトを担当しました。当時、競合他社に先んじて新商品をいかに早く出すかが経営課題でした。これはシステムの課題でもありました。古いシステムでは商品開発に時間がかかっていましたが、クラウド化を含む基盤更改によって、新商品を早くローンチできる体制を目指したのです。
ーープロジェクトを推進する上で注力されたことは何でしょうか。
安藤伊佐武:
単なるインフラの更改に終わらせず、「インフラ更改」「人材育成」「業務プロセス変革」の三位一体で進めることに注力しました。業務プロセス変革では、従来のウォーターフォール開発(※1)からアジャイル開発(※2)への移行にも取り組みました。この三つを同時に進めることが、最大の成果につながると考えました。
結果的には、新商品開発の期間を従来の約半分に短縮できました。またそれ以上に大きかったのは、IT統括部のメンバーが誇りややりがいを持って働けるようになったことです。「自分たちの仕事が会社のビジネスゴールに直結している」と実感できるようになりました。ビジネス部門がやりたいことに対し、システムが重くて応えられない状況から、周りから頼られるシステム部門になれたことは、非常に大きな成果でした。
(※1)ウォーターフォール開発:一つひとつの開発工程を完了させて進めていくシステム開発モデル。前の工程が完了して次の工程へ進むと、前の工程にさかのぼることは、ほとんどないのが特徴。
(※2)アジャイル開発:リアルタイムなニーズやフィードバックを受けて、小さな単位で改善を繰り返すシステム開発モデル。ビジネスの変化に柔軟に対応するのが特徴。
国内の枠組みを超えたグローバル戦略への転換

ーーキャリアにおいて、他に転機となったご経験はありますか。
安藤伊佐武:
直近で所属していた第一生命ホールディングスでの経験です。当時の上司で、GCIO兼GCDOであるスティーブン・バーナム氏は外資系金融機関で経験を積まれた方でした。私たちが日本のシステム会社とだけ仕事をしていたのに対し、彼はグローバルな大手企業やスタートアップとも強いつながりを持ち、うまく活用しようという戦略を持っていました。
日本の保険会社であっても、国内という枠組みだけにとらわれてはいけない。それまで国内の環境で育ってきた私は、「仕事に対する自分の範囲をもっと広げなければいけない」と強く意識を変えられた経験です。
ーーその学びは、現在の取り組みにどのように生かされているのでしょうか。
安藤伊佐武:
現在、第一生命グループとして国際的なデジタル変革を推進するため、インドに「グローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)」の設立を進めており、私たちはその中心にいます。少子高齢化が進む日本に対し、インドは若く活気があり、優秀なIT人材が豊富です。このインドの力をグループや日本のIT業界のために生かしていくことが非常に重要だと実感しています。
ビジネスと技術を交差させる社名に込めた思い
ーー「テクノクロス」という社名に込めた意味を教えてください。
安藤伊佐武:
「テクノロジーとビジネスをクロスさせ、新たな価値を創出する」という意味を込めています。テクノロジーがどれだけ進化しても、それ単体では意味がありません。ビジネスでどのような成果が出たか、どう役立ったかが重要です。テクノロジーとビジネスは両輪であり、両方をしっかり推進していくという思いを込めています。
ーー第一生命グループ全体が変革を進める中で、貴社ではどのような変化があったのでしょうか。
安藤伊佐武:
現在、当社グループは大きな転換期を迎えています。かつての第一生命情報システムは、第一生命保険の子会社として「安心・安全・安定」なシステムをいかに低コストで運用するかが使命でした。
しかし、今回、第一生命ホールディングスの子会社となり「第一生命テクノクロス」へと社名を変更しました。これは、第一生命グループが2030年度に向けて、「グローバルトップティアに伍する保険グループになる」という大きな目標を掲げているからです。その実現に必要なデジタル革新を牽引する“エンジン”になってほしいという、新たな役割を期待されていると考えています。
これまでの「安心・安全・安定」をしっかり守りながら、グループ全体のデジタル・イノベーションを推進していく。その思いの現れが、今回の親会社変更と社名変更です。私自身も前職の第一生命ホールディングスでこの変革プロジェクトを担当しており、経営層の大きな期待を肌で感じています。
ーー最後に、変革期にある貴社に関心を持つ読者へメッセージをお願いします。
安藤伊佐武:
まさに今、弊社は変革のまっただ中にあります。社員はその変革を楽しみ、会社全体の雰囲気がどんどん良くなっているのを感じています。弊社のブランドメッセージは『一生涯のパートナー「ともに描く、あたらしい明日。」』です。これは、想像を超えた未来を、社員や関係する皆さんと一緒に作っていこうという思いを込めています。
弊社では、ITスキルはもちろん、グローバルな仕事の仕方や実力を身につけられます。ぜひ、私たちが見たことのないような未来を、共に描いてくれる方に来ていただきたい。熱い思いを持った方々を心から歓迎します。
編集後記
第一生命グループの変革を支える“エンジン”として、新たなスタートを切った第一生命テクノクロス。安藤氏の言葉からは、システム開発の最前線で培われた確かな手応えと、グローバルな視点を持って未来を切り拓こうとする強い意志がうかがえる。「テクノロジーとビジネスをクロスさせる」という使命は、まさにこれからの時代に求められるIT・デジタル企業そのものの姿である。同社が国内トップクラスのIT・デジタルカンパニーへと飛躍を遂げる日は、そう遠くないかもしれない。

安藤伊佐武/1973年京都府生まれ、東京大学卒業。第一生命保険に入社後、グループ各社でIT・DX戦略を担当。2023年第一生命ホールディングス IT・デジタル企画ユニット長を経て、2024年同社執行役員および第一生命テクノクロス代表取締役社長に就任。