
AI技術を活用し、法務部門向けのSaaS(※1)やクラウドサービスを提供するGVA TECH株式会社。同社を率いる代表取締役の山本俊氏は、弁護士時代に感じた法律サービスの非効率性と費用面の課題という原体験に基づき、テクノロジーによる解決を目指して同社を創業した。創業初期の失敗から学んだ徹底したユーザー起点の姿勢を貫き、顧客のニーズに合ったきめ細やかなサービスで支持を広げている。法務の「守り」を効率化し、顧客企業が「攻め」の事業に集中できる環境をつくる。創業の思いと事業の展望、そして共に未来を切り拓く仲間への期待を聞いた。
(※1)SaaS(Software as a Service):インターネット経由で利用できるクラウド型のソフトウェアサービスのこと。
弁護士時代の課題意識が導いた起業への道
ーー弁護士から起業に至った経緯についてお聞かせください。
山本俊:
弁護士として独立後、スタートアップ支援等に注力していました。その業務の中で、弁護士業務自体の非効率性や、費用面で弁護士のサービスを受けにくい中小企業が非常に多いという現実を体感しました。特に、スタートアップ企業の成長を法務面から支援する中で、より多くの企業が法律を恐れずに挑戦できる環境を作る必要性を確信したのです。
この課題をテクノロジーで解決し、法律とビジネス活動の垣根をなくしたい、という一心で、2017年に弊社を創業しました。
ーー当時、法務領域で感じていた具体的な課題は何でしたか。
山本俊:
費用面で、弁護士のサポートを本当に必要としている企業へサービスを届けられないというもどかしさがありました。さらに、経験を積んだとしても、NDA(秘密保持契約書)のレビューといった定型業務ばかりでは、弁護士としての本質的なスキルアップにはつながりにくいと感じていたのです。このような業務をAIで効率化することができれば、私たちはより本質的な企業支援に時間を使えるようになると確信しています。
ーー創業初期、特に大きな学びとなった経験はありますか。
山本俊:
創業初期、「これは絶対に受け入れられるはずだ」という自己満足的なプロダクトアウト(※2)の発想で進めてしまい、顧客のニーズと合致せず、全く使われない状態となり、うまくいきませんでした。この失敗が大きなターニングポイントとなります。
現在の主力サービスである法務オートメーション「OLGA(オルガ)」の開発に際し、徹底的な「ユーザー起点のプロダクト開発」に方針転換しました。エンジニアやデザイナーも交え、100社ほどにヒアリングを実施し、課題の理解を深めたうえでプロダクトを磨き上げた経験が、現在の弊社の礎となっています。
(※2)プロダクトアウト:企業が独自の技術やアイデアを軸に、「良い製品を作れば売れる」という考え方で製品開発を行う手法。
2つの主力事業 現場に入り込み続ける理由

ーー現在の主力事業について、改めてご説明いただけますか。
山本俊:
弊社の事業の柱は2つあります。一つは、大企業の法務部門や弁護士向けに開発した「OLGA」。依頼受付から契約管理・ナレッジ活用まで、分散した法務業務を一つのクラウドで管理できるサービスです。そしてもう一つは、主に中小企業や個人事業主をターゲットにした法務手続きクラウド「GVA 法人登記」、「GVA 商標登録」です。
大企業向けSaaS「OLGA」の最大の強みは、事業部の担当者がアカウントなしで、普段使っているメールやSlack、Teamsといった既存ツールからシームレスに法務に依頼できる使い勝手の良さです。これにより、データが自然に蓄積され、法務部門の効率化と事業部のストレス軽減を両立する痒いところに手が届くサービスとして支持を広げています。
一方、法務手続きクラウドでは、登記変更や商標登録、補助金診断など、法務が絡む手続きを低価格で手間なくクラウド上で完結できるサービスを提供しています。特に変更登記の領域では、使い勝手の良さとカバー範囲の広さが特徴で、オンライン商業登記支援サービス利用社数業界ナンバーワンの地位を確立しています。
ーー経営者として意識していることを教えてください。
山本俊:
その時々で、会社やお客様、そして時代から求められる役割を柔軟に変えていくことです。営業やマーケティングなど私自身にスキルがない分野でも学び、自ら現場に入り込みます。この「頭と体と手を全て動かす」経験があるからこそ、現場から少し離れても、物事を高い解像度で深く理解することができ、的確な経営判断ができると考えています。
弊社には、ユーザー視点が一貫した誠実で親切なメンバーが集まっています。社員が顧客の期待を超えるサービス提供につながっていることこそが、弊社の最大の強みです。
企業の「攻め」を支援する、法務の「守り」の効率化
ーー今後、それぞれの事業でどのような展望をお持ちですか。
山本俊:
私たちは、AIで人が人のポテンシャルを発揮するような環境を作りたいと考えています。テクノロジーで法務の「守り」の部分の効率化を徹底することで、顧客企業が「攻め」、すなわち本業や事業価値の創造にエネルギーを注げる社会の実現を目指しています。
具体的には、「OLGA」の事業部への連携拡張を進め、法務担当者がより価値の高い業務に集中できる環境を整える方針です。また、「OLGA」に蓄積されたデータをAIエージェントで活用し、人手を介さずに業務効率化を進めるなど、AIの導入・利活用を促進します。法務手続きクラウドにおいても、登記、商標に続き、手続きのラインナップを積極的に増やし、会社・個人を問わず、あらゆる手続きのサポートを完結できる仕組み作りを目指しています。
変化を楽しみ自律的に考える人材への期待
ーー今後、どのような人材を求めていますか。
山本俊:
営業、事業開発経験者、プロジェクトマネージャーなどを積極的に募集しており、常にお客様のことを考えつつ、柔軟な発想で変化を楽しめる人物、自分の頭で考えて仕事をしてきた経験を持つ方に来ていただきたいと願っています。
ーー貴社で働くことで、どのような経験が得られるでしょうか。
山本俊:
弊社で働くことで、従来の法律事務所やIT企業では稀な、法務とテクノロジーが融合した最先端の領域で、事業を創り上げていく経験ができます。私たちは、新しいことや変化を楽しめる人材の採用を強化しつつ、AIによる業務効率化を並行して追求しています。このため、組織規模の拡大と高い生産性の向上を両立させる成長と変革が続く活発な環境で、自身の成長を実感できるでしょう。
編集後記
弁護士時代に感じた強い思いと、創業初期の失敗を糧に築き上げたユーザー起点の姿勢は、事業全体を貫く確固たる軸である。経営者自らが現場の最前線に立ち、業務の高い解像度で事業を捉える視線こそ、成長の原動力だ。法務の「守り」をテクノロジーで徹底的に効率化し、顧客が「攻め」の事業に集中できる社会の実現を見据えている。リーガルテック分野の未来をリードする、挑戦の舞台への期待は高まるばかりだ。

山本俊/1983年三重県生まれ。岡山大学法学部卒業、山梨学院大学法科大学院を修了後、鳥飼総合法律事務所に入所。2012年にGVA法律事務所を創業。2017年1月に、法律とIT技術を組み合わせた「リーガルテック」のサービスを提供する、GVA TECH 株式会社を創業し、代表取締役に就任。専門性が高いゆえにAX推進途上である法務領域で、法とすべての活動の垣根をなくすために注力している。