
切削工具(※1)の製造・販売を手掛ける株式会社MOLDINO。同社は、金型をはじめとする「難削領域」と呼ばれる加工が難しい分野において、独自の開発技術と提案力を強みとしている。2020年、三菱マテリアル株式会社の完全子会社となった同社を現在率いるのは、長年、親会社の立場から同社を見つめてきた代表取締役社長の金子氏だ。今回、金子氏に同社のポテンシャルと、変化の激しい時代を勝ち抜くための戦略、そして日本のものづくりの未来に向けたビジョンをうかがった。
(※1)切削工具:金属などを削り、望みの形状に加工するための刃物。
将来の予測が困難な時代を勝ち抜く変革への意志
ーー社長にご就任されるまでのご経歴についてお聞かせください。
金子善昭:
大学卒業後、現在、弊社の親会社である三菱マテリアル株式会社に入社し、一貫して切削工具の事業に携わってきました。キャリアの半分は営業、残りの半分はマーケティングや新規事業開拓、M&A(企業の合併・買収)などを担当。特に、業界全体の再編、そして収益性を高めるための事業再編を進めるプロジェクトに長く関わりました。このプロジェクトでは、メーカーの数が非常に多く複雑な流通構造を持つ日本の切削工具市場において、生き残るために事業を再構築し、資源を集中させることに注力しました。
日本の切削工具業界はメーカーの数が非常に多く、国内市場が成熟する中で、どう生き残っていくかが大きな課題でした。複雑な流通構造を整理し、収益性を高めるための事業再編を進めてきた経験が、今の私の考え方の基礎になっています。
ーー社長就任時の率直な心境をお聞かせください。
金子善昭:
社内で様々な議論がある中で、いずれ自分にその機会が来る可能性は十分あると感じていたので、驚きはありませんでした。生意気な言い方かもしれませんが、「待ってました」と非常に前向きな気持ちでした。三菱マテリアルにいた頃から、自分たちが持っていないものを持つMOLDINO社に、ある種の憧れのようなものを抱いていたため、社長就任の声がかかったとき、非常に嬉しかったことを覚えています。自身のこれまでの経験を活かし、新しい挑戦ができることに、大きな期待とワクワク感を抱きました。
開発技術と提案力が支えるブランド価値
ーー前職で親会社の立場にいらっしゃった時、MOLDINO社にはどのような印象をお持ちでしたか。
金子善昭:
同じ切削工具メーカーですが、ビジネスのスタイルが全く異なりました。三菱マテリアルのビジネスがデパートだとすれば、MOLDINO社は専門店です。三菱マテリアルは広大な販売ネットワークを活かし、豊富な商品ラインナップを揃えて販売を拡大していくスタイルでした。
一方、MOLDINO社は商品ラインナップで勝負せず、「専門性」を重視し、狭く深く掘り下げていく。お客様の要求に技術で応え、専門性を追求する姿勢は、同じフィールドにいながら全く違う道を歩んでいると感じました。自分たちにはないそのスタイルは非常に新鮮であり、技術を突き詰めていく姿は素晴らしいと思っていました。
ーー「MOLDINO」という社名には、どのような思いが込められているのでしょうか。
金子善昭:
「MOLDINO」は、弊社の事業の核である金型を意味する「Mold」と「Die」(※2)と、「Innovation(革新)」を組み合わせた造語です。この名前には、金型業界に革新を起こし続けるという強い決意が込められています。2017年にブランド名として制定し、2020年に社名も当時の三菱日立ツールからMOLDINOへと統一しました。
弊社は経営理念の中に「開発技術のMOLDINO」というフレーズがあります。これは旧社名である日立ツール株式会社時代から受け継がれている言葉で、私たちの原点です。ただ、素晴らしい開発技術があるだけでは事業は成り立ちません。開発したものを高い品質で量産化する生産技術、そしてお客様の課題を解決する提案力。これら全てが高いレベルで維持されて初めて、ブランドの価値が高まり、お客様の信頼を得られると考えています。
(※2):「Mold」は樹脂や溶けた金属を流し込んで成形する射出成形や鋳造に使われる密閉型の金型。「Die」は金属を打ち抜いたり曲げたりするプレス加工などに使われる開放型の金型。
経済価値と環境負荷低減の両立を達成

ーー貴社サービス「PRODUCTION50」について、詳しくお聞かせいただけますか。
金子善昭:
「PRODUCTION50」は、最新かつ最適な工具と加工方法により加工費用の半減を目指す取り組みで、切削以外の工数、すなわち製造費全体の生産性向上の提案を行います。これは、単に工具という「モノ」を売るのではなく、お客様の生産性を飛躍的に向上させる「コト」を提供する、ソリューション提案の根幹をなす考え方です。金型を製造する工程全体を見渡し、課題を解決することで、トータルコストを削減することを目指しています。
切削工具が関わる切削加工のコストは、金型製造費全体のわずか10~15%程度に過ぎません。この中だけで勝負していても、お客様にとってインパクトは限定的です。そうではなく、より大きな割合を占める放電加工や仕上げ加工といった後工程を、弊社の工具と技術提案によって大幅に削減することに価値があると考えています。
ーー実際に導入された現場では、具体的にどのような成果につながっているのでしょうか。
金子善昭:
あるお客様の例では、弊社の提案によって、従来78時間かかっていた製造工程が24時間に短縮され、7人必要だった作業が2人で運用できるようになりました。これは、今まで放電加工(※3)でしかできなかった複雑な形状を、弊社の高精度な工具で直接削れるようにした結果です。
提案によって、工具の費用が少し上がったとしても、工程全体で見ればお客様のコストは半分近くにまで削減されました。これが私たちの提供する価値であり、まさしく「コトを売る」ということです。
(※3)放電加工:電気の力で金属を溶かして加工する方法。
ーーコスト的メリットに加え、より広い視点ではどのような意義があるとお考えですか。
金子善昭:
加工時間やコストが下がるということは、それだけエネルギー消費量が減り、環境負荷が小さくなることを意味します。弊社の「PRODUCTION50」は、お客様の経済的な価値を高めると同時に、CO2削減といった社会的な価値の創出にも貢献できると考えています。
企業として利益を追求するだけでなく、社会にどう貢献できるかという視点は、これからの時代に不可欠です。この二つの価値を両立させ、最大化していくことが、企業の持続的な成長につながると確信しています。
従来の枠組みにとらわれず切り拓くものづくりの未来
ーー現在経営を行う上で大切にされている考え方についてお聞かせください。
金子善昭:
経営においては、私たちの業界は将来予測が困難な状態の時代に突入していると認識しています。この状況で大切なのは、第一に「従来の枠組みにとらわれない」こと、そして「予測できない事態を柔軟に受け入れる」ことです。決断に時間をかければ、その間にも状況は刻一刻と変化していきます。だからこそ、役員たちには迅速に決断し、臨機応変に動くよう伝えています。
また、企業の価値は、そこで働く人の価値に直結します。ですので、社員一人ひとりには自分の仕事や成長を他人任せにせず、積極的に行動する姿勢を持ち、プロフェッショナルとして自身の価値を高めてほしいと考えています。
ーー今後、事業をどのように展開していく方針でしょうか。
金子善昭:
これまでは「金型加工用工具のプレミアムブランド」というイメージが強かったのですが、自ら間口を狭める必要はありません。弊社の技術は、金型以外の分野で課題を抱えているお客様にも必ず貢献できます。今後は、これまであまり注力してこなかった分野にも積極的にアプローチし、より幅広い市場でビジネスを展開していきたいと考えています。ソリューション提案型のビジネスをさらに強化し、国内外で新たな顧客を獲得していく方針です。
ーー最後に、これからのものづくりを担う人々へメッセージをお願いします。
金子善昭:
日本のものづくりは、人口減少や技術承継など多くの課題を抱えていますが、この国の成長の根幹を支える重要な産業であることに変わりはありません。これからの若い人たちが「この会社で働きたい」「新しいものを開発したい」と心から思えるような、魅力的な企業づくりを進めていきたいと考えています。変化の激しい時代だからこそ、これからも挑戦を続け、日本のものづくりの未来を切り拓いていきます。
編集後記
「78時間が24時間に激減」という数字は、MOLDINOが単なる工具メーカーではなく、製造プロセス全体を変革するソリューションプロバイダーであることを示している。三菱マテリアル時代に培った俯瞰的な視点と、技術を極める専門性が融合し、MOLDINO独自の“モノからコトへ”というビジネスモデルを推進している。この挑戦は、企業の生産性向上に留まらず、CO2削減という社会課題の解決にもつながっていく。未来への確かな視座を持つリーダーのもと、同社の挑戦はさらに加速するだろう。

金子善昭/1963年、東京都出身。1986年、明治大学政治経済学部卒業後、三菱マテリアル株式会社に入社。三菱マテリアルツールズ営業企画部長、米国法人マーケティングディレクター、加工事業カンパニー戦略部長・営業本部長を歴任。2024年4月より株式会社MOLDINO代表取締役社長。