※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

道路や橋、ダムなど、私たちの暮らしを支える社会インフラ。そのPRに特化し、映像や展示物などのコンテンツ制作をワンストップで手掛けるユニークな企業があることをご存じだろうか。鹿島建設株式会社の社内ベンチャーとして、当時30代で同社を創業したのが、代表取締役社長の中嶋望氏だ。なぜ、大手企業の一社員だった中嶋氏は、経営者となる道を選んだのか。同氏に、創業の経緯、事業の強み、若手社員を経営幹部へと育てる独自の方針、そして求める人物像について話を聞いた。

組織への依存から脱却し、「すべて自分でやる」と決意して起業

ーー中嶋社長の経歴を教えてください。

中嶋望:
私は大学卒業後、弊社の親会社である鹿島建設に入社しました。もともとモノづくりが好きだったことが入社理由の一つです。入社後は開発プロジェクトに携わりました。特にウォーターフロントの開発が流行していた時期に手がけたマリーナ計画は、100件にのぼります。しかし、実現したのはわずか3件と少なく、現実の厳しさを感じましたね。

転機を迎えたのは30歳で新事業開発本部へ異動したときです。そこで現在の弊社の原型となる「インフラPRを行う子会社の設立」という企画を立てました。発想の根底には、優れたPRを行っている競合への対抗意識や、外注が当たり前だったPR業務を内製化したいという思いがあったのです。

企画を当時の社長にプレゼンテーションした際、私は「経営の一員に加えていただければ」と言い添えました。30代の若手に子会社の社長を任せないだろうと思い込んでいたからです。すると社長は「企画を立てた本人が社長をやらないのなら、そんな会社はつくってもしょうがない」と一喝。鹿島建設という大きな組織に依存していた自分に気づかされました。この衝撃的な経験から、経営を人任せにせずに「すべて自分でやる」という意識が芽生えたのです。

そして1998年、37歳で鹿島建設の社内ベンチャーとして株式会社ピー・アール・オーを設立しました。2012年に株式会社カジマビジョンと合併後、株式会社Kプロビジョンに社名変更し、現在に至ります。

社会インフラの認知を広げるために幅広いPR事業を展開

ーー貴社の事業内容を教えてください。

中嶋望:
弊社は事業領域を「インフラPR」と定めており、建築・土木などの社会インフラ分野で、パンフレット・Web・映像・展示を軸とした広告・広報・PRコンテンツの企画・制作を手がける会社です。インフラとは、電気や水道、道路といった生活基盤に加え、住宅やオフィス、公共施設などの建築物も含まれます。弊社は、こうしたインフラの重要性を広く認知してもらうことを使命としています。

ーー事業の強みについてはいかがでしょうか。

中嶋望:
弊社の強みの一つは、建設現場の「工事記録の撮影」です。工事現場のルールや安全性を熟知したスタッフが撮影を行うため、外部の制作会社では難しい、安心かつ的確な記録が可能です。この特殊なノウハウにより、鹿島建設以外の建設会社様からもご依頼をいただいています。ニッチな分野に特化しているので、競合は現状ほとんど存在しません。

また、5年前から企業博物館や資料館などの展示物制作も開始しました。Webや映像とは一見異なる分野ですが、独自の発想によって事業を拡大しています。たとえば、壁一面を使った広い空間で年表などのストーリーを説明する手法がお客様から高く評価されています。最近では、ロケット打ち上げの撮影といった宇宙ビジネスにも参画し、レトロなコンテンツから最先端領域まで、幅広い事業領域に対応しています。

カンパニー制を導入し、経営幹部の育成を目指す

ーー社員の成長を後押しするために、どのような取り組みをされていますか。

中嶋望:
弊社ではカンパニー制を導入しています。私が自分で会社を経営する機会を与えられたように、社員にも同じ環境を早い段階から提供したいとの思いから導入した制度です。現在は映像・展示・印刷物・ITなどのコンテンツ別のカンパニーと、建築・土木などマーケット別のカンパニーの2種類があります。最も若いカンパニー長(プレジデント)は当時30歳、最年長は60歳と、年齢を問わずリーダーシップを発揮する機会があることが特徴です。

私自身、鹿島建設という親会社、グループ会社という仲間の存在を心強く感じています。しかし、だからといって依存するのではなく、しっかりと自立していることも大切です。弊社の環境を活用しながら、カンパニー制によって自立性を高める。この両輪を意識して、経営幹部へと成長してほしいと願っています。

また、社員には日頃から「企画・営業・制作のすべてに携わるように」という私の方針を伝えています。お客様探しからご提案の企画、そしてプロジェクトが始まったときの制作まで一貫して関わる。この一連の経験を通じて、ビジネス全体を深く理解し、主体的に動けるような人材を育成しています。

本人の意欲を起点に、多様なキャリア形成をサポート

ーー貴社が求める人物像について教えてください。

中嶋望:
指示されたことを淡々とこなすのではなく、自ら考えて能動的に動ける人材を歓迎します。弊社の一番の魅力は、社員が、自ら何かを成し遂げたいという意欲を持っていれば、実力に応じてその機会を与えられることです。入社後3年間は社員の適性を見極めるためにジョブローテーションをします。4年目を迎えた社員には、自分でキャリアパスを描いてほしい、との思いから、四半期ごとに「何に取り組みたいか」などを人事担当部署がヒアリングして、希望があったら叶えるようにしています。社員の自主性を尊重しながらも、会社としてもサポートは惜しみません。

これにより、社内で多様なキャリアを描くことが可能です。プロジェクトを牽引するリーダー、専門知識を持ちつつもバランス感覚に優れたスペシャリストなど、本人の意思次第で、未来は大きく変わります。ユニークな事業を展開している弊社だからこそ、既成概念にとらわれず、新しい発想でビジネスを楽しめる方と一緒に働きたい。それが私の思いです。

編集後記

「人任せにせず、すべてを自分でやる」。創業時の中嶋氏の思いは、社員の育成にそのまま反映されている。カンパニー制も、企画・営業・制作を一貫して担当させる体制も、すべて経営センスを磨くための取り組みだ。社員が社内カンパニーの立ち上げを提案すれば、同氏はかつて自分がそうされたように「提案したあなたが経営しなさい」と背中を押すだろう。同社がどのような人材を育成し、事業を成長させていくのか、今後も注目していきたい。

中嶋望/1984年、東京水産大学(現在:東京海洋大学)環境工学科を卒業後、鹿島建設に入社。海洋開発の部門に所属し、マリーナなどの開発プロジェクトに携わる。1991年に新事業開発本部にて関連会社のブランディングやコンテンツの制作事業を行う。1998年、鹿島建設100%子会社の株式会社ピー・アール・オーを設立し、代表取締役社長に就任。2012年にカジマビジョンと合併して株式会社Kプロビジョンに社名変更し、2023年に創立25周年を迎えた。