
クラウドネイティブな開発を強みとし、デザインから開発、インフラ構築、運用までを一貫して手掛けるアイレット株式会社。同社はKDDIグループの一員として、クラウドインテグレーション事業(※1)を中心に急成長を遂げてきた。その舵取りを担うのが、代表取締役社長の岩永充正氏である。かつてKDDIで携帯インターネットの黎明期を牽引し、時代の大きなうねりを最前線で体感してきた同氏は、未来をどう描いているのか。キャリアの原点となったパラダイムシフトの経験から生成AIへと続く次なる挑戦まで、その軌跡と経営に迫る。
(※1)クラウドインテグレーション事業:企業が既存システムや新規事業をクラウドへ移行・統合し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためのサービス
携帯インターネット変革の渦中で得たキャリアの礎
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
岩永充正:
1996年にKDDIの前身であるDDIに新卒で入社しました。ちょうど前年に携帯電話の自由化があり、それまでレンタルが基本だった端末が自分のものになる時代が始まりました。「これから携帯電話事業が大きく伸びていく」と感じ、その成長に自分も関わりたいと思ったのが入社の動機です。
希望通り携帯電話事業の部門で携帯電話の企画開発を担当しました。当時はとにかく端末をいかに小さく、軽く作るかという「軽さ競争」の時代で、他社が99グラムの端末を出せば、それに追いつけ追い越せと開発に明け暮れる毎日でした。しかし入社して2年ほど経つと、「これからは携帯でもインターネットを使う時代だ」という声が上がり始め、会社の方向性が大きく変わっていきます。私は、携帯端末に搭載するブラウザの開発担当を任されました。
ーー携帯電話事業の中で、特に印象に残っていることは何ですか。
岩永充正:
携帯でインターネットをするという世界観そのものを、自分たちで模索しながら作っていく過程は強烈な体験でした。端末だけ、サーバーだけを見ていれば良いわけではなく、コンテンツプロバイダーの登場など、新しいビジネスモデルが生まれる瞬間を目の当たりにしたのです。当時は「パラダイムシフト」という言葉が盛んに使われましたが、まさにその変革の渦中に身を置けたことはキャリアの礎になっています。
開発から運用まで一貫した総合力と競争力
ーーその後、貴社へ出向されることになった経緯をお聞かせください。
岩永充正:
KDDIが次に目指していたのが、IoT(※2)の世界でした。かつて携帯インターネットが普及した時、KDDIは端末とサーバーを準備しましたが、その上で動くコンテンツを開発する事業者を関連会社のKCCSが開拓・支援することで、一気に世界が広がった成功体験があります。IoTの世界でも同じモデルを再現するために、コンテンツ開拓とその開発を担い、共にお客様を育てていける存在としてアイレットが必要だと判断されたのが経緯です。
(※2)IoT(Internet of Things):さまざまな物をインターネットに接続して、データ収集や相互通信を行う技術。
ーー経営に携わる上で、特に大切にされてきたことは何ですか。
岩永充正:
最も重要だと考えていたのは、アイレットが持つ「良さ」を消さないことです。出向当時、アイレットはKDDIから見ればまだ未熟な部分もありましたが、非常に勢いがあり、社員は皆、アイレットの社員であることに強い誇りを持って仕事をしていました。そのカルチャーやベンチャースピリッツを尊重し、守り抜くこと。その上で、会社の仕組みなど未熟な部分を少しずつ成熟させ、結果として皆がもっと働きやすい会社にしていくことを常に心掛けていました。
ーー貴社ならではの強みは何だとお考えでしょうか。
岩永充正:
デザインからシステム開発、インフラ構築、そして運用保守までをワンストップで提供できる点です。弊社は「クラウドに強い会社」というイメージを持っていただくことが多いのですが、創業時は開発会社としてスタートしており、その基盤があります。クラウド導入・活用の総合支援サービス「cloudpack(クラウドパック)」にて、AWSやGoogle Cloudに加え、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)といったマルチクラウドに対応した高度な技術力と、KDDIグループとしての信頼性を兼ね備え、お客様のビジネスをトータルで支援できることが、弊社の大きな競争力となっています。
ーー貴社はKDDIグループの中で、どのような立ち位置を担っているのですか。
岩永充正:
グループ内には開発会社がいくつかありますが、クラウド技術を駆使してシステムを構築するクラウドネイティブ(※3)の領域では、弊社が中心的な役割を担っています。ただ、私たちはKDDIの仕事だけに依存する会社にはしたくない。外部のお客様からもしっかりと仕事を受注することを重視しており、現在も売上の3分の2はグループ外のお客様から成り立っています。
(※3)クラウドネイティブ:最初からクラウド上で動作することを前提として設計・開発されたシステムやアプリケーション、またソフトウェア。
開発の会社というアイデンティティの再確立

ーー社長就任後、特に注力されたことは何か教えてください。
岩永充正:
2020年に社長に就任したタイミングで、新たにパーパスとして“技術と探究心で今日の「できない」を明日の「できる」に”を制定しました。また、それ以前から大切にされてきたベンチャースピリッツやお客様に寄り添うことといったアイレットのDNAとも言える価値観を「iret SPIRIT」という5つの基本精神として明文化し、パーパスを実現するための行動指針として整理しました。
また、改めて「開発の会社である」というアイデンティティを社内外に強く打ち出すことに注力し、開発部門の人員はこの数年で4倍から5倍に増強しています。創業者が「大手SIerに勝つ」という気概で立ち上げた会社なので、その精神に立ち返り、彼らと伍して戦えるだけの力をつけることを目指してきました。
ーー貴社サービスが持つ、他社サービスとの違いや強みは何でしょうか。
岩永充正:
「gaipack(ジーエーアイパック)」は、私たちがこれまで数多くのシステム開発で培ってきた知見と、生成AIの活用ノウハウを体系化し、サービスとして提供するものです。多くのパッケージサービスが特定の課題を解決する「点的」なものであるのに対し、弊社の強みはシステム全体を開発できることです。個別のパッケージをうまく組み合わせながら、お客様が本当に解決したい課題に対してシステム全体として最適な形で納品できる。この遂行能力こそが最大の強みです。お客様のITレベルにかかわらず、業務の仕組みそのものを変革するお手伝いができると考えています。
クラウド成功モデルが示す事業の再現性
ーー最後に、若手の方々へメッセージをお願いします。
岩永充正:
弊社は、クラウドという大きな変化の波に乗り、一つの成功モデルを作り上げた会社です。その成功のノウハウを知っているからこそ、今まさに訪れている生成AIという新たな変革期においても、成功には再現性があると確信しています。私たちはすでに生成AIの領域に大きく舵を切っており、この世界でこれから大きく成長していくはずです。そんな変化の面白いタイミングにある会社で働きたい、共に成長したいという方は、ぜひ私たちの仲間になってほしいです。
編集後記
岩永氏の経営は、時代の変革を成長の機会に変えるという一貫した姿勢が光る。黎明期の経験を礎に、クラウド、そして生成AIへ。常に次なる成功の波を捉えている。同社の強みは、大企業グループの確かな信頼性と、創業時から守り抜くベンチャーの熱量を両立させている点にある。この独自のバランスこそが、同社の揺るぎない競争力の源泉だ。
“技術と探究心で今日の「できない」を明日の「できる」に”をパーパスに掲げ、変化を圧倒的な力に変える企業姿勢こそが、未来を切り開く推進力となるだろう。

岩永充正/1972年11月生まれ。大学を卒業後、携帯電話自由化の流れから市場有望性が高いと考えて、KDDI株式会社(当時DDI)に入社。2017年、アイレットのKDDI子会社化に合わせ、グループ会社としてシナジーを高めるために在籍出向。2020年4月、代表取締役社長に就任。