
「遊休地のアップサイクルで未来に繋ぐ」をミッションに掲げ、トレーラーハウスを活用した地域活性化事業を展開する株式会社エリアノ。一級建築士事務所を母体とする高いデザイン性と、コンサルティング能力を活かした事業開発力を強みに、企画設計から宿泊・レンタル事業までを手掛ける。M&Aアドバイザリーとして企業承継に携わる中で、地域活性化の必要性を痛感したCEOの武田晃直氏。同氏に、創業の原点と事業の独自性、今後の展望について話を聞いた。
中小企業のM&A支援で痛感した地域活性化への課題
ーー現在の事業に着目された経緯をお聞かせいただけますか。
武田晃直:
前職での経験が大きく影響しています。私は10年以上にわたり、主に売上10億円未満の中小企業様のM&A支援に携わっていました。その中で、ある地域の会社が大きな首都圏の会社に買収されることはあっても、地域自体は一切活性化されないという現実を目の当たりにしました。企業の引き継ぎだけではなく、地域全体を活性化させないと日本全体が元気にならない。この強い課題意識が、現在の事業の原点の一つです。
創業当初は、建築士である共同創業者たちと「もっとフレキシブルで環境に配慮した建築物ができないか」と議論していました。そこで、「質の高いトレーラーハウスをつくって販売しよう」というアイデアが生まれ、事業がスタートしました。しかし、創業翌月にコロナ禍となり、建築物を売買する環境ではなくなってしまったのです。さらに、予定していた出資が止まるという危機にも直面しました。
この社会環境の変化と資金難の危機を経て、単に物を売るのではなく、使われていない土地に私たちが投資し、その土地を活用させていくというモデルに目をつけました。これは、M&Aの経験で培った「投資をすることで、今までできていなかったことができるようになる」という発想を活かしたものです。
ーーその経験から得た学びは経営にどう活きているのでしょうか。
武田晃直:
実績ゼロの状況で危機に直面した際、私たちの思いやビジョンに共感してくださった方々のご支援でなんとか乗り切ることができました。この経験から、ビジョンへの共感が重要だと痛感しています。
また、コロナ禍のような不測の事態に備え、販売のようなフローの収入だけでなく、宿泊事業やレンタル事業といったストック収入を構築する必要性を考えるきっかけになりました。現在、ストック収入のビジネスモデルを構築し、経済変動(ボラティリティ)の少ない安定した事業基盤を確立しました。
遊休地の価値を高めるアップサイクル戦略
ーー貴社の事業理念とミッションについてお聞かせいただけますか。
武田晃直:
弊社は、エリアの価値を創造し、地域を活性化させることを目的に設立しました。「遊休地のアップサイクルで未来に繋ぐ」をミッションに掲げ、事業を展開しています。たとえば、建物が建てられない国立公園内や、未活用の観光地にトレーラーハウスを置くことで価値を高め、次の世代に新しい価値を提供する取り組みを進めています。
トレーラーハウスは、法律上は「車両」扱いのため、原則どこにでも置け、インフラへの接続も可能です。建物と違い、必要なくなれば移動して別用途で活躍できるサステナブルな特徴を持っており、地域活性化の手段として最適だと考えています。
ーー現在展開されている事業の柱についてご説明ください。
武田晃直:
大きく4つあります。まず1つ目はトレーラーハウスの企画設計・販売事業「スタイルキャビン事業」です。弊社では一級建築士が企画設計から手掛け、建築物と同じ設計工法で作られているため、デザイン・機能性・耐久性において高いクオリティを実現しています。一級建築士が企画設計から関わることは業界的に極めて稀であり、強みの一つです。
2つ目は、トレーラーハウスを活用した宿泊事業「Ones Home事業」です。地域に滞在施設がないことが影響して、活性化されていない場所が多くあります。この課題に対し、私たちや投資家がトレーラーを所有し、それを地域に置いて滞在施設をつくることで、「第2の故郷をつくる」ことを目指しています。この事業は、遊休地のアップサイクルと地域活性化に直結するものです。
3つ目は、弊社に出資いただいている電源開発株式会社(J-POWER様)と共同で行っているトレーラーハウスのレンタル事業「PL@CE事業」です。一時的にトレーラーハウスを活用したいという地域や企業のニーズに応えることで、宿泊事業などと同様に、地域活性化のきっかけづくりとしても展開しています。
これら3つを主軸として事業を回しつつ、プラスアルファとして、共同創業者が一級建築士であるため、「エリアノ一級建築士事務所」としての設計業務も行っています。売上の構成は、トレーラーハウス関連が95%、設計業務が5%という状況です。
建築家によるデザインとコンサル視点の事業開発の両輪体制

ーー競合他社にはない、貴社独自の強みについてどのようにお考えでしょうか。
武田晃直:
一級建築士事務所として、トレーラーハウスを「建築」と同じ設計工法でつくっている点です。これにより、デザイン・機能性・耐久性において非常にクオリティの高いプロダクトを提供でき、弊社のプロダクトを競合他社が販売するケースもあります。
さらに、新規事業の開発力も強みだと自負しています。私を含め、コンサルティングや経営企画室の出身メンバーが多いため、商品を売って終わりではなく、大企業や自治体と共に事業をつくっていくことを得意としています。
ーーデザイン面でのこだわりを詳しくご説明いただけますか。
武田晃直:
私たちは空間を通じて関わる人が幸せになることを大切にデザインしています。宿泊施設やトイレ、観光案内所など、トレーラーハウスはコンパクトでありながら、しっかりとした質の高い空間を地方に生み出せます。これは、地域の課題解決と魅力の創出を同時に行ううえで重要なポイントだと捉えています。
その実現のため、実績のある著名な建築家の方々がパートナーとして関わってくださっています。これも私たちの大きな特徴です。
遊休地活用と地域内経済循環の同時実現
ーー地域活性化の具体的な成功事例をご紹介ください。
武田晃直:
新潟県佐渡市の事例が分かりやすいと思います。佐渡を盛り上げようとしている地元の有力企業様から佐渡市をご紹介いただき、内閣府の「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用し、廃校になった学校のグラウンドという遊休地に宿泊事業をつくりました。
このモデルの特徴は、単に遊休地を活用しただけではない点です。宿泊事業のオペレーションは地元の精密部品をつくっている会社様が担い、トレーラーハウスの最後の組み立ても地元企業にお願いしました。このように、地域外からお金を落とすだけでなく、地域内にお金が落ちる循環のモデルを構築したことが特徴です。
事業を回すという面に関しては、このモデルを全国で展開できると考えています。地域の遊休地を活用し、地域の企業にオペレーションを担っていただき、地域にお金が落ちる仕組みをつくる。資金面さえクリアできれば、どんな地域でも成り立つモデルです。
国土の約8割に眠る未活用地の市場規模
ーー今後の目標についてお聞かせいただけますか。
武田晃直:
遊休地を所有している方と、その地域で何かをやり遂げたい方を繋げていく、循環的なシステムをつくることが目標です。建物を建てられない場所などを含めると、日本の国土の約8割は活用されていない土地になります。活用してほしいというニーズは相当あり、山ほどある学校の廃校や耕作放棄地など、可能性は大きいです。そのために、自治体や企業、金融機関から遊休地の情報を集めると同時に、地域で何かをやりたいという声をたくさん聞くことに注力しています。
この取り組みを加速させるため、新規の取引先として自治体、金融機関に加え、大企業との連携も強化したいです。特に、地方創生に取り組みたいがハードを持っていないITやAIなどのサービス系企業と、ハードを提供できる私たちが連携する。そうすることで、自治体にも分かりやすい「バリューセット」のような形で地域活性化のソリューションを提供できると考えています。
ーー今後目指している会社の姿についてお聞かせください。
武田晃直:
5年後はこうした取り組みを通じて、自治体や企業の共通課題に対するプロダクトの販売を強化し、組織も拡大させていきます。また、M&Aも活用し、トレーラーハウスの製造や輸送などの事業も強化していく方針です。
そして10年後には、全国の自治体にとって「遊休地活用といえばエリアノ」と言っていただける存在になることが目標です。さらに、国内で使用したトレーラーハウスを東南アジアなどで再活用することも見据えています。また、メイドインジャパンの高品質なトレーラーハウスを欧米豪の7兆円市場へ展開することも検討しています。将来的には、災害や紛争で被災された方々がすぐに住める場所として提供するなど、世界的な課題解決にも貢献していきたいです。
編集後記
国土の約8割が活用されていないという現実。その広大な市場に、「デザイン」と「事業開発力」という強みで挑む同社の取り組みは、大きな可能性を秘めている。そして、「地域と共に事業を創造する」という武田氏の揺るぎない信念は、創業期の危機を人との繋がりで乗り越えた経験に裏打ちされたものだ。日本の遊休地が、やがて世界の課題解決の拠点となる未来。その実現に向け、強い覚悟を持つ同社の次なる展開に注目したい。

武田晃直/大手美容メーカー、株式会社ミロク情報サービスの営業を経て、M&A支援会社を立ち上げ、中小企業を中心にM&A、事業承継、事業再生の支援に従事。500社以上の中小企業の相談を受け、数十社のM&A成約を支援する。この経験を活用して、一級建築士のメンバー2人とトレーラーハウス事業を行う株式会社エリアノを創業。主に、営業、経営企画を担当。