※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

スマートフォンレンズの原料やプラスチック添加剤など、社会に不可欠な機能化学品を製造する田岡化学工業株式会社。同社は近年、右肩上がりの成長を目指している。2025年に代表取締役社長に就任したのは岩崎明氏。化学メーカーでキャリアを重ね、同社の経営を担うこととなった。本記事では岩崎氏に、仕事観や社長としての覚悟、未来に向けた成長戦略について詳しく話を聞いた。

文系から化学へ 可能性を信じ歩んだキャリアの原点

ーー文系学部のご出身ですが、なぜ化学メーカーを志望されたのですか。

岩崎明:
大学では社会学部に属していました。就職活動時に将来性のある分野はどこかを考えた結果、化学産業に行き着きました。化学メーカーの魅力は、たとえばスマートフォンや自動車といった目に見える最終製品ではなく、その技術が幅広い製品の基盤となっている点にあります。化学反応によって新しい物質を生み出す技術は、あらゆる産業で必要とされます。多様な製品を生み出せる可能性に魅力を感じたこと、そしてもともとメーカー志望だったこともあり、この道を選びました。

新卒で住友化学工業(現・住友化学)に入社しました。キャリアの大半は企画業務で、事業部の予算作成などを担当。設備投資の検討、中長期計画の策定などに携わってきました。また、愛媛の工場にも14年ほど勤務しましたが、そこでも一貫して企画関連の業務に従事しました。

若き日の当事者意識が育んだ三つの仕事哲学

ーー工場勤務の経験で、特に印象に残っていることは何ですか。

岩崎明:
工場時代の企画業務は、予算を持ち、それを工場内でどのように配分し投資していくかを検討する役割でした。「自分たちの部署が工場全体の運営を担っている」という気概を持って仕事に取り組んでおり、非常にやりがいを感じていました。各プラント(※1)の収益性などを分析し、どこに重点的に投資すべきかを判断し提言していくことなどが主な業務でした。責任も重く多忙でしたが、若かったこともあり楽しみながら進められました。

(※1)プラント:化学製品や電力などの「特定の製品やエネルギーを大量に生産するために、複数の設備や機器が組み合わされた大規模な生産施設」を指す。

ーー仕事をする上で大切にされてきた価値観をお聞かせください。

岩崎明:
まず、何事にも誠実に取り組むことです。検討すべき事柄があったとして、8割程度の検討で仕事を進めることもできるかもしれません。しかし残りの2割をしっかり突き詰めなければ、後で失敗につながることがあります。自分がやるべきことについては、手を抜かずにやり切ることが絶対条件だと考えています。

次に、コミュニケーション、つまり人間関係です。一人でできることには限界があります。周囲と円滑な人間関係を築き、味方や協力者を増やして巻き込んでいくことを大切にしてきました。

最後に、人に流されないことです。仕事を進める上では、さまざまな意見や時には反対意見も出てきます。そこで安易に迎合していては、本来やるべきことが進まなくなってしまいます。自分が正しいと信じ、やるべきだと判断したことは、責任を持って貫き通す姿勢を心がけてきました。

事業の将来を担う重圧とステークホルダーへの想い

ーー社長に就任された時の率直なお気持ちをお聞かせください。

岩崎明:
身が引き締まる思いと同時に、守備範囲が格段に広がることへの責任の重さを痛感しました。これまでは事業の一側面を見ていればよかったのですが、社長となると会社全体を見渡さなくてはなりません。業績向上はもちろん、従業員の雇用・生活やコンプライアンスなど、あらゆる側面に目を配る必要があります。

大変だと感じる一方、関係者すべてが幸せになるにはどうすべきか。弊社を取り巻く方々について、より深く考えるようになりました。株主の皆様には株価や配当で報いたいですし、従業員には給与などで還元したいと考えています。そのために会社を成長させていく責任を強く感じています。

開発スピードを武器に描く売上高500億円への道筋

ーー貴社の事業内容と強みについて教えていただけますか。

岩崎明:
事業の柱の一つが受託事業です。お客様から「こういうものを作ってほしい」との要望を受け、開発段階から工業生産までを一貫して手がけます。特にスマートフォンのレンズに使われるモノマー(※2)や高性能絶縁剤であるワニス(※3)は、この受託事業が市場の拡大と共に大きく成長した例です。

弊社の強みは、この受託事業における開発のスピード感にあります。お客様から新しい要望をいただいた際、研究部門と製造部門が一体となって迅速に対応します。サンプル作成から工業化評価へ、いかにスムーズに移せるかを常に追求しています。このスピード感こそが弊社の大きな特徴であり強みです。受託開発は簡単なものではなく、依頼10件のうち本格的な生産につながるのは少数です。だからこそ、一つひとつの案件で信頼関係を地道に構築していくことが重要になります。

(※2)モノマー:プラスチックなどの高分子(ポリマー)を構成する最小の単位となる低分子化合物。

(※3)ワニス:天然樹脂や合成樹脂を溶剤に溶かした、透明な塗膜を作る塗料。

ーー今後の成長戦略と中期経営計画の展望についてお聞かせください。

岩崎明:
2027年度に売上高400億円、2030年代初頭には500億円という明確な目標を掲げています。

この目標を実現するには、従来の延長線上ではない、思い切った戦略が必要です。特に、新製品開発は不可欠です。既存製品だけでは市場の拡大は難しく、競合との消耗戦に陥ってしまいます。そこで、私たちは受託事業の拡大と成長分野への積極的な投資という両面で、新しい収益の柱を構築していきます。また、生産体制の強化も急務です。現在、プラントの稼働率が非常に高くなっています。次の成長に向け、生産能力を拡大するための設備投資も必要です。現在、具体的に検討・推進しています。

個々の成長が会社の力になる 人を育むための環境整備

ーー貴社で働く魅力や、人材に関する取り組みについてお聞かせください。

岩崎明:
弊社は従業員数500人台の規模で人と人との距離が近く、個々の裁量範囲が広いのが特徴です。特に研究開発部門では、若手がプロジェクトの主力となってお客様の要望に応えます。入社間もない社員が検討を担うこともあります。責任は大きいですが、やる気次第で大きく成長できる環境だと思います。

こうした成長環境を維持するため、人材確保は最重要課題の一つです。国内の労働力人口が減少する中、従業員が貢献意欲を向上させるための施策を進めています。休暇制度やスキルアップ支援、ローテーション制度を導入しています。さらに性別に関わらず活躍できる環境も整備します。働きがいのある会社づくりを追求していく考えです。

編集後記

文系学部から化学メーカーに入社し、企画畑でキャリアを積み上げトップに就任した岩崎氏。その歩みは、専門分野が違っても誠実な仕事と当事者意識で道を拓けることを示す。工場時代に培った「自分たちが工場を運営している」という当事者意識を持って仕事に取り組んだ経験は、社長就任後に強まった「従業員や株主、社会全体への貢献」という思いへとつながっている。業績回復を果たし、次なる成長フェーズへと向かう同社。若手に裁量を与え、信頼とスピードで顧客の期待に応え続ける挑戦に注目したい。

岩崎明/1964年12月生まれ。1987年一橋大学卒業後、住友化学工業株式会社(現・住友化学株式会社)に入社。2019年に同社執行役員を務めつつ、田岡化学工業株式会社(以下、田岡化学工業)の取締役(非常勤)を兼務。2023年、田岡化学工業の取締役副社長を経て、2025年6月に同社の代表取締役社長に就任。