※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

世界的な製薬企業、ファイザー株式会社中央研究所の閉鎖を受けて設立されたラクオリア創薬株式会社。同社は、新薬の「種」を生み出す圧倒的な研究開発力を武器に、独自のビジネスモデルで持続的な成長を続けている。代表取締役の須藤正樹氏は、創業メンバーとして同社の立ち上げに参画した後、一度は会社を離れ、大学やスタートアップ企業での勤務を経て復帰した経歴を持つ。2025年1月、満を持して代表取締役に就任した同氏に、会社の強みとアジア企業との連携で描く未来のビジョンについて話を聞いた。

紆余曲折のキャリアを経て再びラクオリア創薬へ

ーー社長に就任されるまでのご経歴についてお聞かせください。

須藤正樹:
大学卒業後、研究者としてファイザー株式会社中央研究所に勤務していました。2008年の閉鎖に伴い、当時の所長が立ち上げた弊社の創業に参画したのです。

転機の一つは2012年、創業者が退任し、事業や組織の再編を迫られた中で私が化学研究部長の職務を任されたときでした。当時は、創薬ベンチャーとして非常に厳しい時期。私は研究部門の責任者の一人として、今につながる薬の種をつくり出すことに成功しましたが、すぐに売上を伸ばすことはできませんでした。

結局、2015年には希望退職者を募集するという、当時の経営陣が苦渋の決断を下すことになりました。今の主力事業につながる成果は出せていた自負はありましたが、業績低迷の責任を痛感し、けじめとして一度、弊社を去る決意をしたのです。

ーーそこから復帰し、社長に就任されるまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

須藤正樹:
退職後は大学に身を置きましたが、母の急逝などを機に「自分は何がしたいのか」と自問し、やはり創薬の世界で挑戦したいとの思いが再燃しました。そして、大学発スタートアップに身を投じて創薬支援や再生医療にかかわる仕事をしていた時、当時の社長から「戻ってこないか」と声をかけてもらい、復帰を決意しました。

2021年の復帰後は経営戦略や事業戦略の策定を担当し、成長基盤づくりに注力。その流れでバトンを受け継ぎ、2025年1月に代表取締役に就任しました。

創薬ベンチャーの常識を覆す実績と研究開発力

ーー創薬ベンチャーとしての、貴社ならではの強みは何ですか。

須藤正樹:
弊社のビジネスモデルは、医薬品の種となる化合物を創出し、開発・販売権を製薬会社などに譲渡して収益を得る仕組みです。強みは、その種を生む高い研究開発力と確かな実績にあります。

創薬は、臨床試験に進む前の段階を含めると、成功確率が1万分の1ともいわれる厳しい世界です。その中で弊社は、すでに4つの製品を世に送り出し、世界中で販売されています。具体的には、世界18カ国で販売されている人用の胃酸分泌抑制剤が1つ、そして動物用医薬品が3つです。これほど多くの製品を市場に出し、グローバルに展開できている創薬ベンチャーは、国内でも極めて稀だと自負しています。

ーー実績がありながら、なぜ研究開発に注力し続けるのですか。

須藤正樹:
医薬品には特許期間があり、それがきれると同時に売上が激減する「特許の崖(パテントクリフ)」という大きな課題があります。企業が持続的に成長するためには、立ち止まることなく、常に新しい薬の種を生み続けなければなりません。

また近年、大手製薬企業も研究開発を自前主義から脱却し、ベンチャーが生み出した有望な種を外部から導入する動きを加速させています。私たちの研究開発力が活きる大きな好機が、そこにあり続けると考えています。

革新の理念を胸に アジア連携で拓く未来

ーー会社として大切にされている考え方について教えてください。

須藤正樹:
活動の中心にあるのは、イノベーションです。ミッションに「イノベーションの力で、いのちに陽をもたらす」を掲げていますが、これは有効な治療法がない病気や怪我で苦しむ方々のために、新薬で貢献したいとの思いからです。

また、コーポレートスローガン「innovators for life」には、「生命のため」と「一生涯」という2つの意味が込められています。生命のために革新を起こし、その探求を生涯続けていく。これが私たちの決意です。

ーー商品開発や新規開拓における具体的な戦略は何ですか。

須藤正樹:
今後の戦略として、製薬会社が開発の早い段階から「ぜひ導入したい」と注目するような、付加価値の高い領域へ集中的に投資しています。具体例の一つが、子会社化したファイメクス株式会社が持つ新規医薬品の研究開発技術を強化しています。このような先進技術を軸に、パートナー企業にとって魅力的な薬の種を生み出し、製品化までの道のりがまだ遠い段階であっても、早い時期に開発権を譲渡して収益を得る仕組みを加速させていきます。

ーー今後のビジョンについて、短期・中期・長期の視点でどう描かれていますか。

須藤正樹:
短期的には、すでに製品化された4つの薬から得られる「特許使用料(ロイヤリティ)」によって、安定した収益基盤を維持します。しかし、いずれ特許が切れて収益が下がる時期は必ず訪れます。そのため、中期的には研究開発基盤をさらに強化し、次の収益の柱となる新薬の種を生み出し続けることが最重要課題です。

そして長期的には、10年、20年先を見据え、アジアを拠点に世界へ新しい価値を発信することを目指しています。その布石として、長年のパートナーである韓国のHK inno.N社から約14億円の資金調達を含む資本業務提携を、2025年12月に発表しました。信頼できるパートナーとの連携で、単独では成し得なかった大きな挑戦が可能になります。

日本の創薬ベンチャーと韓国の製薬会社が連携し、アジア発のグローバル展開を目指します。このユニークな取り組みを成功させ、世界中の病気で苦しむ方々に新薬をお届けする存在でありたいと考えています。

編集後記

ファイザーからの独立と、一度の退職、そして復帰を経て代表取締役に就任。須藤氏のキャリアは、まさに同社の挑戦の歴史と重なる。成功確率1万分の1ともいわれる極めて不確実性の高い事業に挑みながら、すでに4つの製品を世に送り出した実績は揺るぎない自信となっているだろう。しかし、確固たる基盤の上に立ちながらも、決して安住することなく、新しい技術やアジア企業との連携といった次の一手を着実に打っている。冷静な戦略と未来を切り開く情熱。同社がアジアから世界を照らす未来に、今後も期待したい。

須藤正樹/1971年香川県出身。1996年京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻修了後、帝人に入社。1999年よりファイザー中央研究所で研究職に従事し、2008年に同研究所からスピンアウトして設立した当社に参画。2012年化学研究部長、2016年名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所特任准教授、幹細胞&デバイス研究所事業開発部長を経て、2021年より当社事業戦略部長。執行役員、取締役を歴任し、2025年1月より代表取締役に就任。