
官公庁の修繕工事を主軸に、高い技術力で社会インフラを支える東京住宅サービス株式会社。代表取締役の石引賢一氏は、ITコンサルタントから家業へ転身した経歴を持つ人物だ。業界の常識にとらわれない視点で組織改革を実行し、2030年の売上高100億円達成、そして「建設業のイメージ刷新」という大きな目標を掲げている。若手が夢と誇りを持ち、生き生きと活躍できる会社をいかにつくるか。その独自の組織論と未来への展望に迫った。
異業種での経験を活かした組織の仕組み化
ーーキャリアの原点となった経験について教えていただけますか。
石引賢一:
新卒で株式会社ベイカレント・コンサルティングに入社し、ITコンサルタントとしてキャリアを始めました。入社を決めたのは、さまざまな企業を見られること、そしてどの業界でも通用するスキルが身につくと考えたからです。
父が家業を営んでいることは知っていましたが、家で仕事の話をされたことは一度もありませんでした。そのため、当時は継ぐことを強く意識していたわけではなく、前職の仕事も非常に充実していたため、このままキャリアを積んでいこうと考えていました。
ーー入社までの経緯と、当時の社内の状況についてお聞かせください。
石引賢一:
転機となったのは、父から「うちに来ないか」と不意に声をかけられたことです。それまで父は家で仕事の話を一切せず、弊社のホームページも存在しなかったため、入社するまで具体的にどのような事業を営んでいるのか、詳しく理解していませんでした。しかし、誘いを受けたことで家業を継ぐ道も一つの選択肢だと捉え、入社に至りました。
入社して何より衝撃を受けたのは、当時のアナログな管理体制です。給与明細や会計帳簿は手書きで、計算ミスが原因で金額が合わないこともありました。出退勤管理も、昔ながらのタイムカードを打刻する仕組みでした。さらに、鍵の管理も完全に属人化していました。タグのない大量の鍵がボックスに収められており、ベテラン社員が感覚で探し出すような状態だったため、新入社員には到底扱えません。組織として変えるべき課題が山積みであると痛感したことを覚えています。
ーー組織の改革を進める上で、特に意識したことは何ですか。
石引賢一:
「誰が見ても分かるようにする」という仕組み化をとにかく意識しました。私がIT業界で当たり前だと考えていたことを、一つひとつ導入していった形です。給与計算や勤怠管理はシステムを導入し、鍵の管理のような業務も整備を進めました。
もちろん、最初からすべてを変えられたわけではありません。前任者からやり方を引き継ぎ、業務を理解した上で改善していきました。現場のことは現場のプロである社員たちに任せ、私はバックオフィスの環境整備に徹する。そうすることで、それぞれの強みを生かした役割分担ができたと考えています。
適正価格と確かな技術がもたらす顧客の再訪

ーー貴社の主な事業内容について教えてください。
石引賢一:
UR都市機構や官公庁の案件を軸に、建物の修繕工事を手がけています。入居者の退去に伴うリフォームから共用部の細かな修繕、さらには十数年周期で実施する大規模修繕工事まで、維持管理における多様なニーズにお応えするのが私たちの役割です。現在は本社周辺や板橋営業所のエリアを中心に、地域に根差した活動に注力しています。
ーー貴社の強み、お客様から支持される理由についてどのようにお考えですか。
石引賢一:
官公庁の工事を通じて確立した、妥協のない高い品質基準が私たちの最大の強みです。外壁塗装を例に挙げると、入念な下地処理から複数回の重ね塗りまで、定められた工程を忠実に遂行することを徹底しています。完成直後の見た目では分からない、数年後の耐久性に決定的な差が生じるのが特徴です。
価格面で一度他社を選ばれたお客様が「やはり品質の良い御社に」と戻ってくる事例も少なくありません。ゼネコンの見積もりの半額近くでより高品質な施工を提案できた実績もあり、長年培った技術を適正価格で提供することが深い信頼へとつながっています。
未経験からプロを育成する手厚い指導体制
ーー採用面接において、応募者からはどのような反響がありますか。
石引賢一:
直近の2、3年、内定を出した方の辞退者は一人もいません。建設業界に対して「3K(きつい・汚い・危険)」や「昔ながらの古い業界」といった固定観念を抱いて面接に来る方も、いまだに多いのが実情です。しかし、実際にお会いしてお話をさせていただくと、「イメージしていた雰囲気と全然違いますね」と、弊社の働きやすさを実感していただくことが増えました。
結果として、面接に来た方のほとんどが「第一希望です」と言ってくださり、内定後の辞退もありません。弊社の環境や雰囲気が、求職者の皆さんにしっかりとポジティブな形で届いているのではないかと、非常に手応えを感じています。
ーー人材育成に関する取り組みについて教えてください。
石引賢一:
弊社では教育、特に国家資格の取得支援に非常に力を入れています。たとえば「一級建築施工管理技士」の試験において、全国平均の2倍以上の合格率を長年キープしています。私が入社した当時はこれほどではなかったのですが、今では「資格を取るのが当たり前、次は何に挑戦しようか」と、社内で活発な会話が交わされる文化が根づいています。
こうした実績を出すことができるのは、弊社の社員のほとんどが未経験で入社しており、新人の「分からない」という気持ちに寄り添える先輩ばかりだからです。建設業界にありがちな「見て覚えろ」という風土は一切なく、手厚くフォローしながら指導する体制を整えています。
実際に、未経験から短期間で飛躍した事例も少なくありません。現在、板橋営業所の所長を務めている社員は、もともとガス会社出身で建設は全くの未経験でした。しかし、入社3年目で所長に抜擢され、今では大手企業様の案件を任されるほどに成長しています。このように、意欲さえあればゼロからでもプロとして、着実にキャリアを築いていける環境が整っています。
売上高100億円企業が描く建設業の新たな姿
ーー今後の目標や、その実現に向けた具体的な歩みについてお聞かせください。
石引賢一:
2030年の売上高100億円達成という大きなビジョンを見据え、現在は飛躍に向けた強固な基盤づくりに注力しています。その象徴となるのが、再来年に完成を予定している三鷹の新社屋建設です。現在の拠点では、今後のさらなる事業拡大に対応するための空間的なキャパシティが限界に近づいています。そこで、新たな人材を広く迎え入れ、組織の成長を一段と加速させるための環境整備が不可欠であると考えています。
DXを徹底的に推進していますが、弊社の事業は本質的に労働集約型のビジネスです。テクノロジーを突き詰めた先にある「人」こそが最大の原動力であるという確固たる信念を持ち、未来を切り拓いています。
ーー新社屋の建設には、どのような思いが込められているのでしょうか。
石引賢一:
建設業界のイメージを刷新したいという強い思いがあります。いわゆる「3K」のイメージを払拭し、若者たちが誇りを持って働けるような、お洒落でスタイリッシュな空間をつくりたいと考えています。設計とメインの施工は他社に依頼しますが、外構工事と内装工事は自社で行う予定です。面接に来てくれた方に「この建物の一部は私たちが手がけました」と胸を張って言える。そんな心を躍らせる体験を提供したいです。


ーー最後に、未来の仲間となる方々へメッセージをお願いします。
石引賢一:
建設の仕事は、自分たちの成果が目に見える、非常にやりがいのある仕事です。ボロボロだった建物が、私たちの手でピカピカに生まれ変わり、お客様から「ありがとう」と直接感謝の言葉をいただけます。こうして情熱を注いだ成果は、この先何十年も形として残り続けます。AIが進化しても、人の暮らしを支えるこの仕事の価値は決してなくなりません。未経験でも全く問題ありません。成長したいという強い思いを持った方と、一緒に未来をつくっていけることを楽しみにしています。
編集後記
IT業界の合理性と建設業界の職人技。その両方を知る石引氏だからこそ、旧来の慣習にとらわれない組織改革を実現できたのだろう。内定辞退者ゼロという実績は、労働環境の改善に留まらず、社員一人ひとりのキャリア形成に真摯に向き合う姿勢の表れである。新社屋建設や理念の策定は、未来への明確な意志表示だ。同社が描く「若者が夢を持てる建設業」の姿は、業界全体の希望の光となる。

石引賢一/1986年東京都出身。2009年青山学院大学経済学部卒業後、株式会社ベイカレント・コンサルティングに入社。ITコンサルタントとしてDX推進に従事。様々なプロジェクトを得て、2011年に東京住宅サービス株式会社へ入社。IT・会計の知⾒を活かし業務改善・効率化を推進。2022年6月、同社代表取締役に就任。