※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

鍵や水道、電気といった生活インフラのトラブルに、24時間体制で駆けつけるカーロックホームズ株式会社。同社は個人ではなく、マンション管理組合との契約に特化した独自のビジネスモデルを展開している。その盤石な事業の根幹には、「誰も助けてくれない」と悟った壮絶な過去と、そこから生まれた「愛」という信条がある。組織や社会に馴染めないという葛藤を抱きながらも、現場で奮闘を続けて成功を収めた代表取締役の上野原政司氏。今回は同氏に、創業の原点や事業成長の転換点、そして「世の中のハブになる」という未来の展望をうかがった。

巨額の負債を乗り越え見出した自立への活路

ーー最初のキャリアと、事業を始められた経緯についてお聞かせください。

上野原 政司:
最初から鍵屋を目指していたわけではありません。若い頃から社会や組織のあり方に疑問を抱き、サラリーマン時代は「何のために働くのか」と自問自答する日々でした。特に、誰に対しても平等に接したいという思いが強く、組織の慣習には常に葛藤がありました。

最初のキャリアは、葬儀のお香典返しを扱う飛び込み営業でした。7年ほど経験した後、妻の実家が営む釣り竿の製造業へ移り、職人になりました。しかし5年ほど経った頃、会社が倒産し、私は1000万円ほどの借金を抱えることになったのです。

誰にも頼れない状況で深い孤独感を味わい、どう生きていくべきか模索する中で思い出したのが、地元で活躍していたある先輩の存在でした。自分の腕で道を切り拓くその姿に、私は以前から強い憧れを抱いていたのです。この経験から「自分の身は自分で守るしかない」と痛感した私は、その先輩と同じ、鍵屋の道へ進むことを決意しました。

事業成長を支えた出会いと独自のビジネスモデル

ーー事業が軌道に乗るまでの経緯と、ターニングポイントを教えてください。

上野原 政司:
独立当初は鍵屋の基礎知識が不足し、売上は伸び悩む一方でした。借金は最終的に2000万円にまで膨らみ、苦しい返済の日々が続きました。家族を養うために昼夜問わず5年間アルバイトを続け、ようやく完済したのです。

事業の最大の転換点は、綜合警備保障(ALSOK)との出会いでした。賃貸市場向けの駆けつけサービスが始まった頃、ある営業所から鍵交換の仕事をいただいたのがきっかけです。いただいた仕事は決して断らずに対応していると、依頼は東京、関東全域へと拡大。最終的には「全国のネットワークを作ってほしい」という話にまで発展しました。

ーー貴社のビジネスモデルの特徴は何でしょうか。

上野原 政司:
当時は、目の前のチャンスを逃したくない一心で、ただ夢中で仕事に取り組んでいました。全国の協力店ネットワークは半月で69社を構築し、そこから1年で売上が1億円を超え、現在ではグループ全体で10億となり、事業の安定性が増していきました。

弊社の最大の強みは、法人向けに特化している点です。一般的な鍵屋では、現場の状況によって料金が不安定になりがちです。一方、弊社は管理組合と契約を結ぶ会員制サービスのため、安定した収益基盤を確立しています。

目指すは「愛」を核に据えた家族のような一体感

ーー経営者として、社員の方々に大切にしてほしいことは何ですか。

上野原 政司:
それは「愛」です。人と人との関わりは、時間をかけて同じ目標を共有する中で、新たな価値創造や相乗効果を生み出します。私は組織を「ディズニーランド」のようにしたいと考えています。私たちが、お客様に楽しんでいただけるようなキャストになれれば理想的です。若い時に感じたような表面的な関係ではなく、家族のような組織を目指しています。

ーーその「愛」を社内で実践するため、具体的にどのようなことに取り組んでいますか。

上野原 政司:
社員と物事を共有し、全員で課題解決に取り組むことを大切にしています。たとえば、業務知識を楽しく学べるよう、業界用語のクイズを毎月実施し景品を出すといった工夫をしています。

また、私を含め役職者も積極的に現場へ足を運びます。現場の温度感や大変さを肌で感じ、共に時間を共有しなければ、本当の意味で相手を理解することはできません。この行動こそが「愛」なのだというメッセージを、自らの姿勢で伝え続けています。

売上目標の先に見据える「心の鍵」という価値

ーーお客様や社会に対して、どのような存在として認知されたいですか。

上野原 政司:
私たちの最大の目標は、売上ではなく「お客様の心の鍵を開ける」ことです。時には、物理的な鍵がすぐに開かないということもあります。ただ、お客様から「あなたが来てくれたら、もう安心だ」と信頼していただけることこそが、最高のサービスだと考えています。

そして、私たちは「世の中のハブ」になることを目指しています。全国どこへでも駆けつけられる存在として広く認知され、「困ったときにはカーロックホームズ」と、皆様の心に一番に浮かぶ存在になりたいのです。

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

上野原 政司:
目標達成を最短で実現するため、DXと認知度向上に注力します。また、これまで積極的ではなかったYouTubeでの発信や、各種団体への参加も進め、広く存在を知っていただきたいです。そのためにDXは不可欠であり、AIを活用した電話応対や業務効率化システムの構築をすでに進めています。

また、女性が能力を最大限に発揮できる環境を整えることが、日本社会の発展にも繋がると信じています。職人業界の第一人者として、業界全体のDXとスタンダード化を牽引し、3年後の売上20億円の達成を目指す計画です。

編集後記

上野原氏の歩みは、壮絶な体験から独自のビジネスモデルを築き上げた軌跡そのものである。「誰も助けてくれない」という逆境は、「誰も断らない」という顧客本位の行動指針へと昇華され、顧客からの信頼の源泉となった。業界の常識に挑むDX推進や「心の鍵を開ける」という付加価値の追求を続ける同社の今後の更なる飛躍を期待したい。