※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

三井化学グループの一員である三井化学クロップ&ライフソリューション株式会社は、世界の食料生産を支える農薬事業(クロップソリューション)と、人々の生活環境の質向上に貢献する事業(ライフソリューション)を展開しています。同社の事業は、一つの製品が世に出るまで15年もの歳月を要するため、長期的な視点が求められる。この事業特性は、未来を見据えた人材育成への強い思いにもつながっている。研究者としてキャリアをスタートさせ、現在は経営の舵を取る代表取締役社長の垣元剛氏に、事業に対する社員の愛情を育み、次世代へバトンをつなぐ経営について話を聞いた。

事業への愛着が育む社会貢献という使命

ーー貴社の強みや魅力は、どのような点にあるとお考えですか。

垣元剛:
弊社の事業のことが大好きな社員が非常に多いこと、それが当社の強みだと常々思っています。販売、製品開発、研究、どの部門の社員も農薬事業が本当に好きで、その背景には、自分たちの仕事が、世界の食料問題や飢餓撲滅に貢献しているという実感があるからだと考えます。科学的な面白さに加え、社会貢献という側面でも自己実現の場があることが、この事業の大きな魅力です。私自身も長く関わっており、もはやライフワークになっています。

ーー貴社の事業について詳しくお聞かせください。

垣元剛:
弊社の事業は大きく2つに分かれます。1つ目の柱は「クロップソリューション事業」、いわゆる農薬事業です。世界の人口が増加する一方、耕作可能な土地は限られており、食料を増産するには生産効率の向上が不可欠です。農薬はそこに大きく貢献できると自負しております。現在では110カ国以上で製品を販売するまでになりました。2つ目の柱が「ライフソリューション事業」です。こちらは農薬で培った技術を応用し、生活の質(QOL)の向上に貢献することを目標としています。シロアリを防除する住宅関連事業や、ゴキブリ・ハエといった衛生害虫の駆除剤、ペットのノミ・ダニ駆除剤など多岐にわたります。近年特に力を入れているのが、病気を媒介する生物を制御する「ベクターコントロール事業」です。ベクターのひとつが蚊で、蚊が媒介するマラリアを防ぎ、開発途上国で失われている多くの命を救う一助になりたいと考えています。

15年先を見据え種をまき続ける研究開発

ーー事業を成長させる上で新製品開発はどのような役割を担いますか。

垣元剛:
弊社の成長は、新製品を上市した際に大きく飛躍するという傾向があります。そのため、プロダクト・ライフサイクルを考慮することが不可欠です。成長中の製品はさらに伸ばし、成熟した製品は収益を維持し、陳腐化したものは撤退する。この判断をしながら、常に新たな製品を投入し続けることが事業成長の鍵となります。開発サイクルを適切に回し、新しい製品を絶え間なく生み出し続けることが極めて重要です。

ーー製品開発にはどのくらいの期間と費用がかかるのでしょうか。

垣元剛:
1つの農薬をゼロから開発すると、世に出るまでおよそ15年の歳月を要します。グローバルに展開できる新しい薬となると、研究開発費は約450億円にも上ります。私たちが現役の研究者だった15年ほど前はその半分から3分の1程度の金額でした。年々、安全性や環境への影響を証明するためのデータ取得に時間も費用もかかるようになり、開発の難度が上がっています。だからこそ、常に先の時代を読み、将来のニーズに応える製品開発に取り組まなければなりません。

次の世代へつなぐサステナブルな経営

ーー未来を担う人材の育成についてどのようなお考えをお持ちですか。

垣元剛:
経営者は後継者を育成し、バトンをつなぐ準備をすることが重要だと考えています。私自身、2012年頃に経営の指示で「40代の社員10人で10年後の会社の将来像を考える」というプロジェクトのリーダーを務めた経験があります。当時、自分たちで描いた未来図を「身をもって実践しなさい」と経営企画部長を任されたことが、私の大きな転機となりました。このプロジェクトは、今も4、5年おきに若手有望人材を選抜して継続しています。2035年や2040年といった長期的な視点で会社をどうしたいか、今着手すべきことは何かを考えてもらうのです。私たちの事業では、今、研究段階にあるものが製品として世に出る頃には、私たち自身はもう会社にいないでしょう。その時に責任を持つ世代に、あらかじめ事業の舵取りを考えてもらうことが大切だと考えています。

ーー最後に、会社の今後の展望についてお聞かせください。

垣元剛:
市場は伸びており、食とQOLへの貢献は私たちの誇りです。今後も事業を成長させながら、社会貢献の度合いを高めていきたいと考えています。事業環境は目まぐるしく変化しますが、10年後、15年後といった超長期の未来を予測しながら、時代に合った製品を開発し、事業の継続性を確かなものにしていきます。今、私たちが収穫している製品は、先輩方が種をまいてくれたものです。ですから、私たちもそれを刈り取りながら、次の世代がもっとたくさんの収穫を得られるように、新たな種をまき、バトンをつなげていきたいです。

編集後記

1つの製品が世に出るまで15年。取材を通して、この長い時間軸が同社の経営の隅々にまで深く浸透していることがうかがえた。未来の会社像を若手に託すプロジェクトも、次の世代のために新たな種をまき続ける研究開発も、全ては未来への継承という一点につながる。垣元社長が語った"先輩がまいた種を、次の世代のために"という言葉は、事業の特性から生まれた、揺るぎない哲学である。

垣元剛/1968年長崎県生まれ、1993年九州大学大学院修士課程修了、同年三井東圧化学(現:三井化学)入社。2006年九州大学大学院博士課程修了(農学博士)。2015年三井化学アグロ(現:三井化学クロップ&ライフソリューション株式会社)取締役執行役員、2018年同社取締役常務執行役員研究開発本部長、2020年三井化学フード&パッケージング事業本部企画管理部長、2022年同社取締役副社長(三井化学理事)、2024年同社代表取締役社長(三井化学執行役員待遇嘱託)。主に農業化学品事業に従事。