
業務改善、構想策定等のシステム全般に関するコンサルティングを提供する株式会社エクサ。親会社への内販にとどまらず、売上高の約7割を外販が占めるという独自の立ち位置で、金融・製造・流通など幅広い産業を支えている。2025年4月に代表取締役社長執行役員に就任した林勇太氏は、かつてみずほ銀行のシステム障害対応で陣頭指揮を執り、組織風土の改革を断行した人物だ。「金利ある時代」の到来を見据え、社員一人ひとりの挑戦と「現場への共感」を軸に新たな成長を目指す同氏に、経営信念と未来への展望を聞いた。
退路を断つ決断が呼び込む信頼と組織改革
ーー社会人としての最初のキャリアについて、教えていただけますか。
林勇太:
私のキャリアは1994年、日本IBM株式会社への入社からスタートします。当時は「巨象が倒れる」と揶揄されるほどの赤字決算でしたが、私にとっては挑戦しがいのある最高の環境でした。中学生の頃からコンピュータに親しんできたこともあり、逆風の中でも「自分の道を開ける」という直感を信じ、入社を決意したことを覚えています。
その後、専門性として選んだのがプロジェクトマネージャー(PM)です。自らチームを編成し計画を引く「自律と裁量」に魅力を感じ、26年にわたりこの道を歩んできました。特に40代の10年間は、日本最大級の難プロジェクトである「みずほ銀行のシステム刷新」に、持てるすべてを捧げました。巨大なミッションを完遂する執念こそが、私のキャリアの核です。
ーーIBMでのキャリアを経て、その後はどのような道に進まれたのでしょうか。
林勇太:
2021年に、みずほ銀行へ転籍するという決断をしました。当時、私が担当していた勘定系システムの刷新自体は完了していましたが、その後同行でATM障害が相次ぎ、再発防止のために外部の知見が必要だと私に白羽の矢が立ったのです。
そこで私は、出向ではなく退職して転籍する道を選びました。出向という形では、周囲から「いずれIBMに戻る人」と見られ、私の発言がIBMの利益を優先していると誤解を招く可能性もあります。再発防止という重責を担う以上、退路を断ち、一人の社員として組織に溶け込む必要があると考え、転籍を決断したのです。そこから3年間、副CIO(※1)として、二度とお客様に迷惑をかける障害を起こさないための仕組み作りや、組織風土の改革に取り組みました。
(※1)CIO(Chief Information Officer):最高情報責任者。
ーー具体的にどのような点に重きを置いて改革を進められたのですか。
林勇太:
「相互理解」と「共感」です。巨大な組織では、互いの仕事が見えなくなりがちです。システム部門はベンダーのせいにし、ベンダーは指示の曖昧さを嘆く。そうした他責の連鎖を断ち切るには、相手の現場を知るしかないと考え、役員全員でデータセンターを視察しました。
ネットワーク機器が故障した際、机上の空論では「すぐに交換して復旧できる」と思いがちです。しかし実際の現場では、厳重なセキュリティを通過し、巨大な装置をバラバラに搬入し、現地で慎重に組み立てて配線を行うため、物理的に5時間はかかります。そのリアリティを肌で感じることで初めて、「現場がどれほど過酷な状況で戦っているか」が理解できるのです。現場への共感とリスペクトがあってこそ、本当の意味での変革や使命感が生まれるのだと痛感しました。
異なる2つの文化が交わる成長の最適土壌

ーー実際に入社して感じた、貴社の強みや魅力についてお聞かせください。
林勇太:
私は2024年に参画し、2025年4月に社長に就任しましたが、そこで改めて弊社のユニークな強みを目の当たりにしました。弊社は1987年に日本鋼管株式会社(現・JFEスチール株式会社)から独立した際、「親会社に依存せず外で稼げ」というDNAが刻まれています。そのためユーザー系SIer(※1)ながら売上の約7割を外販が占めており、幅広い業界と信頼関係を築くことができています。
また、2000年からは日本IBM株式会社(現・キンドリルジャパン株式会社)が資本参加しており、2つの異なる強みが融合している点も大きな特徴です。この環境を例えるなら、暖流と寒流が交わり、多様な魚が集まる「三陸沖」の漁場のような場所だと言えるでしょう。
日本の重要インフラを支えてきたJFEグループの「現場を大切にする泥臭い風土」が暖流。そして、IBMがもたらす「世界標準の最先端IT知見」が寒流。この2つが絶妙に交じり合うことで、エンジニアにとっては確かな実務能力を磨きつつ、同時に最新トレンドを吸収できる、成長に最適な土壌が生まれているのです。「古き良き誠実さ」と「新しい変革力」のどちらも手に入る環境こそが、弊社ならではの独自の魅力だと自負しています。
(※1)ユーザー系SIer:企業の情報システム部門が子会社や関連会社として独立してできた企業。親会社の業務システム開発や運用保守をメインに請け負う。
ーーそうした独自の強みを活かし、現在はどのような新しい価値提供に取り組まれているのでしょうか。
林勇太:
現在、特に注力しているのがAIエージェント「ai with」という新サービスです。昨今、AIで何でも解決できるといった風潮もありますが、現場への実装は容易ではありません。だからこそ、私たちは単なるツールの提供ではなく、お客様と共に汗をかく「共創」を掲げ、その思いをサービス名に込めました。
どれほど優れた技術も、実業務に定着しなければ意味をなしません。試行錯誤を繰り返すには、お客様の課題を自分事として捉える「共感」が不可欠です。弊社には製鉄所の現場に深く入り込み、お客様と一体となってシステムを動かしてきた歴史があります。現場の苦労を知り、諦めずにやり遂げるエンジニアの気質こそが、AIを社会実装する上でも最大の差別化要因になると確信しています。
変化の時代を勝ち抜く攻めの投資と意識改革
ーーこれからの経営においてどのようなテーマを掲げていますか。
林勇太:
私がキーワードとして掲げているのは「成長」です。日本経済は長らく、物価も金利も上がらないデフレの中にありましたが、これからは本格的な「金利ある時代」が到来します。過去30年間の多くの企業は、支出を削るコスト削減や効率化によって利益を捻出してきました。しかし、金利が上昇する局面では、現状維持の姿勢だけでは企業の価値を保てず、生き残ることはできません。これからは、効率化によってつくり出した余力を次の成長領域へ積極的に投資し、自ら売上を伸ばしていく経営へと頭を切り替える必要があります。
これは弊社も同様です。特定のお客様と太く長い関係を維持するだけでなく、新しいお客様、新しい領域へと果敢に挑戦し、事業を拡大していかなければなりません。失敗を恐れずに新しいことに投資し、チャレンジする。そのための意識改革を全社的に進めています。
ーー最後に、今後の展望と求める人物像についてお話しください。
林勇太:
企業としての成長はもちろんですが、社員一人ひとりが「成長とは何か」を問い続ける組織でありたいと考えています。それはスキルの向上かもしれないし、人とのつながりの拡大かもしれない。定義は人それぞれで良いのですが、変化の激しい時代において、現状維持は後退を意味します。
求めるのは、やはり「現場」に興味を持てる方です。遠くから評論するのではなく、実際にビジネスが動いている現場に身を置き、お客様の課題に共感し、その解決に情熱を注げる方と共に働きたいです。弊社には人を大切にし、育てる文化が根付いています。新卒・キャリア採用を問わず、多様なバックグラウンドを持つ仲間と共に、この変化の時代を楽しみながら成長していきたいと思っています。
編集後記
林氏の言葉には、数々の困難を乗り越えてきたリーダーならではの重みと温かさが宿る。伝統ある現場力と最先端の技術知見が融合する稀有な環境を、さらなる飛躍のための土壌と捉える姿勢は鮮烈だ。単なるシステム構築に留まらず、顧客と共に汗をかき、試行錯誤を厭わない実直なスタンス。DXが加速する現代において、現場への共感を起点に価値を共創する歩みは、社会から真に信頼されるパートナーの条件と言えるだろう。変革期を迎えた同社の次なる一手に注目したい。

林勇太/1970年大阪府生まれ。1994年立命館大学大学院を修了後、日本IBM株式会社に入社。大規模プロジェクトのプロジェクトマネージャー(PM)として複数の重要案件を牽引。2021年、株式会社みずほフィナンシャルグループへ転じ、副CIOとしてシステムの安定稼働およびビジネスの信頼回復に尽力。その手腕を発揮し、グループの基盤強化を支えた。2024年8月、株式会社エクサの専務執行役員に就任。2025年4月より代表取締役社長を務める。キンドリルおよびJFEスチールグループの一員として、長年培ったIT技術と信頼を糧に、さらなる社会貢献を目指す。