
近畿・中国地方において、中学受験専門の進学塾「日能研」を展開する株式会社日能研関西。全国共通の質の高いカリキュラムを基盤としながら、地域に根差した入試分析や運営を独自に行い、子どもたちの成長を支えている。最難関校から大学系列校まで幅広い学力層に対応し、合格の先にある自立した学習姿勢を育むことが同社の強みだ。代表取締役社長の小松原健裕氏は、日本IBMでシステムエンジニアとしてキャリアをスタートさせた経歴を持つ。異業種での経験から得た学びを胸に、教育の質の向上と、そこで働く人々の価値を高める目標を掲げる同氏に、事業への信念と未来への展望を聞いた。
IBMでの失敗を糧に 未来を拓く経営者としての覚悟
ーー社会人としてのキャリアのスタートについて、当時のエピソードとあわせてお聞かせください。
小松原健裕:
大学卒業後は日本IBM株式会社に入社しました。当時は「e-ビジネス」という言葉が注目され始めており、インターネットが社会を変えていく最前線に身を置きたいと考えたのです。文系出身の私でもシステムエンジニアとして採用する方針に、これからの時代の変化を感じ、飛び込みました。
特に印象に残っているのは、入社1年目の大晦日に自身のミスが原因で大きなシステムトラブルを引き起こしてしまったことです。年明けに、先輩方が正月返上で対応してくださっていた事実を知り、深く落ち込みました。ところが、数年後の別プロジェクトに、そのトラブルを解決してくれたリーダーからチームに誘われたのです。「大きな失敗をした人間は、次は絶対に同じ間違いをしないだろう」。そう声をかけていただきました。
この出来事を通じ、失敗をただの失敗で終わらせず、次に活かせば必ずプラスになることを学びました。実際、その後のプロジェクトではリーダー不在時に代役を務め上げ、お客様からの信頼獲得にもつながりました
ーー入社の経緯と、社長就任後に変化したお考えについてお聞かせください。
小松原健裕:
日本IBMで6年間勤務しました。その後、自分のキャリアを考えた時、父が経営する事業に携わることが自身の人生で最もやりたいことだと感じ入社を決意しました。私自身が生徒として通い、楽しい思い出が多かったことも決め手の一つです。入社後は授業を担当するところから始め、エリア責任者、副社長を経て、現場の苦労と喜びを肌で感じてきました。
社長就任当初は、気になった部分を細かく改善することに注力していましたが、次第に考えが変わりました。組織には各責任者がいるため、目先の改善ではなく、会社の未来を考えること、社員一人ひとりが最大限に力を発揮できる環境を整えることが私の仕事だと、今は考えています。
合格の先にある「自立」へ 教育の進化と人が育つ組織づくり

ーー改めて、事業内容と貴社独自の強みについてお聞かせください。
小松原健裕:
弊社は近畿・中国地方で、中学受験を専門とする進学塾「日能研」を運営しています。カリキュラムは全国の日能研と共通ですが、入試問題の分析と対策の実施、教室運営はすべて自社で責任を持って行っています。
強みは、最難関校から大学系列校まで幅広い学力層に対応できる点、そして何より「合格の先」を見据えている点です。無理やり勉強させて合格させるのではなく、大人になっても自立して学び続けられるよう、小学生のうちに勉強の仕方や物事の考え方を身につけてもらう。これを教育の根本に置いています。
ーー対外的な情報発信においてどのような工夫をされているのでしょうか。
小松原健裕:
かつては「シカクいアタマをマルくする」というキャッチコピーで、思考力を問う問題を電車広告に出していました。勉強は詰め込みではないと伝えるためです。現在はウェブやSNSなども活用し、子どもたちが本来持っている「知りたい」という好奇心を刺激するようなメッセージを発信しています。また、共働きの保護者が増え、情報収集に悩む方も多いため、子どもへの声のかけ方や卒業生の体験談といった保護者向けの情報発信も充実させています。
さらに、中学受験市場の活性化に向けて、私立中学校で学ぶ価値や中学受験を通して得られる経験の素晴らしさを広く知っていただく機会を増やしています。そのため、競合他社とも協力して一般社団法人を設立するなど、業界全体を盛り上げる活動も行っています。
ーー教育の質の向上やそれを支える人材育成において、どのようなことに注力されていますか。
小松原健裕:
教育の質の向上には、技術面と人材面の2つがあります。技術面では、AIによるデータ分析などを活用して、より効果的な学習方法がないかを模索しています。集団授業の良さを活かしつつ、一人ひとりに最適化された学びを提供することが今後のテーマです。
また、組織面では人事評価制度を見直しています。最近の社員は具体的なフィードバックを求めているため、評価項目の見直しやフィードバックの仕組みをつくるなど、成長を実感できる制度を構築しているところです。新入社員の最初の1年は重要ですので、先輩社員には後輩の成長も見守ってほしいと伝えています。子どもたちだけでなく、共に働く仲間の成長も喜び合える組織を目指しています。
業界の地位向上へ 塾で働く社会的価値を高める
ーー今後の展望についてお聞かせください。
小松原健裕:
今後の展望として、塾で働くことの社会的地位を上げたいと一番に考えています。社員が経済的な理由で自分の子どもを中学受験させられないという状況は起こしたくない。そのためにも、社員の待遇をさらに向上させていきたいと考えています。
待遇改善を実現するためには、当然ながら、保護者の皆様からお預かりするお金に見合うだけの質の高い教育を提供し続ける責任があります。社員にはより一層のレベルアップを求めると同時に、会社としてもその成長を後押しできる環境をしっかりと整えていきます。
教育の質と社員の待遇、この両方を高めていくことが、これからの私たちの大きな目標です。誇りを持って働ける業界にしていくために、まずは自分たちの会社から変えていこうと思います。
編集後記
日本IBMという異業種で培った「失敗をプラスに変える力」を原点に、教育の世界で新たな価値創造に挑む小松原氏。その言葉からは、子どもたちの未来、そして社員一人ひとりの成長を願う真摯な姿勢がうかがえる。データやテクノロジーを活用しつつも、教育の核は「人の力」であるという思いは揺るがない。社員の待遇改善を明確な目標に掲げ、塾で働くことの社会的価値そのものを高めようとするビジョンは、教育業界の未来を担う人々にとって重要な示唆を与えることだろう。

小松原健裕/神戸市出身。甲陽学院中高で学び、慶応義塾大学卒業後、日本IBM株式会社に入社。主に金融業界を担当するシステムエンジニアとして勤める。その後、株式会社日能研関西に入社。算数の授業担当者、京都エリアの教室運営責任者を経て、副社長となる。2014年に同社代表取締役社長に就任。関西圏の教育環境向上を図り、同業他社である株式会社浜学園、株式会社アップと一般社団法人関西教育機構を設立し、理事長を務める。