※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

日本金属株式会社のグループ企業として、ステンレス・特殊鋼の販売を担う日金スチール株式会社。長年にわたり築き上げた顧客基盤を背景に安定した業績を誇る同社だが、現在は単なる素材販売の枠を超え、顧客の技術課題を解決するパートナーへの転換を図っている。その改革の指揮を執るのが、親会社である日本金属で35年にわたり製造・技術の現場を歩んできた取締役社長の相川一也氏だ。「現場百回」の信条で組織を束ね、開発力の強化に邁進する相川氏に、社長就任の経緯と今後の展望について話を聞いた。

初の「技術屋社長」誕生 守りから攻めへ転換する使命

ーー相川社長は、どのようにキャリアをスタートされたのでしょうか。

相川一也:
1985年に日本金属に入社して以来、約35年間、主に板橋工場で勤務しました。大学で金属工学を学んでいたとはいえ、入社当時はステンレスのこともよく分からない状態でしたが、品質保証、生産技術、製造と、工場内の主要な部署を3年ごとのローテーションで経験しました。

その中で、技術営業として大阪や東京で顧客対応をした時期もありましたが、キャリアの大半は工場での仕事でした。板橋工場の工場長を務める前の製造課長時代には、「現場百回」を信条に毎日1万歩以上現場を歩き回り、250名ほどの製造課員一人ひとりの性格や家庭環境まで理解しようと努めながら、組織を一つにまとめ上げることに注力してきました。

ですから、販売会社である弊社の社長に就任するという辞令を受けたときは、正直なところ非常に驚きました。工場長を務めた人間が弊社のトップになった前例は今までなかったのです。

ーー抜擢された背景には、どのような期待があったと考えていますか。

相川一也:
一言で言えば、「守り」から「攻め」への転換です。弊社は日本金属の製品の販売を多く担っており、長年のお付き合いがあるお客様との関係、つまり「守り」の部分は非常に堅固です。

しかし、さらなる売上拡大に向けた「攻め」の姿勢が当時の課題でした。日本金属の社長を務めている下川氏からは「既存の商社機能にとどまらず、技術的な知見を活かして開発力を高め、新規開拓を推し進めてほしい」という強い要請がありました。そこで、製品の中身を熟知している私が、初の「技術屋の社長」として就任したのです。

「現場百回」で築く社員との信頼関係

ーーこれまでのキャリアの中で、特に印象に残っている出来事を教えてください。

相川一也:
日本金属で製造課長時代に担当した、2004年の王子工場と板橋工場の統合です。同じ会社とはいえ、長年別の場所で稼働していた工場同士には、それぞれ異なる文化や慣習が根付いていました。

たとえば、油を塗布する工程が多かった王子工場では、作業着と私服を分けるために従業員用ロッカーを2つ使用していましたが、板橋工場では1つでした。統合にあたって、こうした環境の些細な違いが差別や不公平感として映らないよう、社員全員分のロッカーを新調し、ハード面の環境を完全に統一しました。「他社に負けないいいものを作りたい」という根底の思いは皆同じでしたから、まずは働く環境の差をなくすことで、スムーズに心を一つにできたと感じています。

ーー組織をまとめるうえで、どのようなことを大切にされていますか。

相川一也:
社員を「家族」のように思い、一人ひとりと深く対話することです。統合の際もそうでしたが、相手がどのような思いを持っているのか理解しようと努めなければ、本当の意味での信頼関係は築けません。

また、私は「現場百回」を信条としており、工場長時代には毎日必ず現場に足を運びました。工場は24時間の3交代制ですが、時間を変えて回ることで、すべての班の社員と顔を合わせるようにしていました。直接会話をする時間は限られていても、現場の空気や社員の顔色を見るだけで、異常がないかを感じ取ることができます。

そのため現在の日金スチールでは、約70名の全社員と一対一で向き合う個人面談を行い、一人ひとりの声を直接聞く機会を設けています。そこで上がった意見をもとに、働きがいのある職場環境づくりを目指しています。もしハード面やソフト面で改善の必要性があると判断すれば、その都度、関係部署と相談しながら迅速に改善を実行しています。社員が安心して長く働ける「居心地のいい会社」をつくることが、組織の力を最大化する一番の近道だと考えています。

素材販売からの脱却 顧客の課題を解決する開発部隊へ

ーー具体的にどのような施策で「攻め」の体制を構築されていますか。

相川一也:
昨年、新たに開発部を発足させました。これは日本金属から技術のエキスパートを招き入れ、営業部隊と連携して動く組織です。従来のような、お客様から注文されたものを納品するスタイルだけではなく、お客様が開発段階で抱えている課題に入り込み、日本金属の技術が最大限発揮できるよう、パートナーとして解決策を提案することを目指しています。

また、毎月拡販会議を開催し、各拠点ごとの情報の共有化を図っています。どこにどのようなニーズがあり、どの技術で応えられるのかを全社で共有し、組織として戦略的に市場を開拓する体制を整えました。

ーー今後、顧客に対してどのような価値を提供していきたいとお考えですか。

相川一也:
営業部隊としての「現場百回」はお客様とお会いすることで、直接お話しを聞くことにより、お客様の要望・開発アイテムなどが見えてきますので、拡販につなげたいと思います。そこで、私たちは単なる材料屋ではなく、お客様の製品開発を支えるパートナーでありたいと考えています。たとえば、日本金属が得意とする高精度な圧延技術や、特殊な表面加工技術を提案することで、お客様の製造工程におけるコスト削減や品質向上に貢献できます。

「日金スチールに相談すれば、解決するヒントをくれる」と信頼していただける存在になることが目標です。ニッチな分野であっても、他社には真似できない確かな品質と技術力で、お客様のものづくりを支えていきたいと考えています。

編集後記

取材中、相川氏と社員の方々とのやり取りからは、役職の壁を感じさせない風通しの良さが伝わってきた。「現場百回」を信条とし、常に働く人の顔を見て対話を重ねてきた同氏の柔和な人柄が、組織全体に安心感をもたらしているのだろう。技術という確かなバックボーンを持つ社長の就任により、同社は「選ばれるサプライヤー」から「選ばれ続けるパートナー」へと進化を遂げようとしている。開発部という新たな武器を手に、老舗企業の挑戦は続いていく。

相川一也/1962年千葉県生まれ。1985年千葉工業大学金属工学科卒業後、日本金属株式会社に入社。品質保証、製造、生産技術、営業開発などの業務で経験を積み、2013年板橋工場長に就任。2020年日金スチール株式会社取締役副社長、2022年同社取締役社長(代表取締役)就任(日本金属株式会社常務執行役員兼務)。現在、2020年からスタートした第11次経営計画(10カ年計画)を推進中。