※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

積立型で旅のハードルを下げ、継続率99%という驚異的な支持を集めるつみたて旅行サービス「HafH(ハフ)」。30年以上ビジネスモデルが変わらなかった旅行業界に、新たな風を吹き込んだのが株式会社KabuK Styleだ。同社を率いるのは、ドイツ証券で要職を務めた金融のプロフェッショナル、代表取締役の砂田憲治氏である。なぜ安定したエリート街道を捨て、未知の領域へ飛び込んだのか。金融工学の知見に基づく独自の見解と、「人類はもっと旅をすべき」と語る熱い信念に迫った。

金融工学の知見を武器に旅行業界に挑んだ覚悟

ーーどのような背景から、現在の事業を立ち上げられたのでしょうか。

砂田憲治:
私の専門である金融工学の知見を、他の分野で活かせないかと考えたことがきっかけです。

当時私は33歳で、ドイツ証券の部門責任者を務めていましたが、金融の世界では今のAI時代に先駆けて自動化が進んでいました。人間が判断する領域が縮小していく中、「マネジメントに徹するよりも、自身の専門性を他分野で活かしたい」と強く感じたのです。私の専門分野は統計学と金融工学です。特にデリバティブ(金融派生商品)設計で培った、市場状況によって細かく変化する価格を数値的に算定する技術は、他の領域でも応用可能だと考えました。

旅行業界に注目した理由は2点あります。1点は、金融と同じく市場規模が巨大であること。そして2点目は、価格が常に変動しており、私の知見が活きると考えたからです。旅行業界は30年以上もビジネスモデルが変わっていません。この硬直化した業界なら、私の知見と技術によって大きなインパクトを与えられると確信しました。

ーーサービスの着想から開始に至るまでの経緯をお聞かせください。

砂田憲治:
「HafH」の構想が固まりサービスを発表したのは、2018年11月のことです。そこから急ピッチで準備を進め、2019年4月にサービスを開始しました。

当初は私自身の不動産投資経験から、宿泊物件をタイムシェアのように利用するサービスとしてスタートしました。しかし、自社物件だけでなく他社ホテルも合わせてプライシングするほうが専門性を活かせると考え、現在のインターネット専門の旅行会社に近い形へと進化させました。

創業期の半年間は、業務が立て込んでいて、今振り返ってもどうやって立ち上げたのか分からないほど多忙を極めていました。エンジニアがいない状態でリリースを決め、採用活動と並行して自社ホテルの準備、新たな買収交渉、資金調達も行うなど、あらゆることを同時に進める日々。ベッドで寝た記憶がほとんどないほどのスピード感で駆け抜けました。

継続率99%を支える「手軽さ」と「フェア」な仕組み

ーー業界全体に対して、どのようなインパクトを与えたいとお考えですか。

砂田憲治:
私たちは「旅行業界のShopify(※)」を目指しています。旅行業界は、ホテルと予約サイトの間に特定のシステムが介在しており、新規参入時の連携コストが膨大であることが課題でした。まさにこの点が、長らく変革を阻む一因となっていたのです。

そこで私たちは、国内外1,000以上の宿泊施設と直接契約し、システム連携を実現させました。弊社のシステムを活用すれば、誰でも簡単に旅行販売サイトを立ち上げることが可能になりえます。「ペットと泊まれる宿」特化型など、ニッチなサービスが次々と生まれ、業界全体が活性化していくでしょう。

(※)Shopify(ショッピファイ):誰でも簡単に本格的なネットショップ(ECサイト)を開設・運営できる、カナダ発のクラウド型EC構築プラットフォーム。

ーーユーザーが貴社サービスを使い続ける最大の理由はどこにあるとお考えですか。

砂田憲治:
最大の理由は、旅行への心理的ハードルを下げる「気軽さ」「手軽さ」と、全てのユーザーに対して「フェア」な還元の仕組みを徹底している点です。

「HafH」は積立式のため、ユーザーには「毎月払っているから無料で旅に行ける気がする」という感覚が生まれます。旅行に行く時に旅費を支払うより、気軽にサービスを利用できるようになっています。また、予約はホテルと客室、日程を選ぶだけの3クリックで完了します。この圧倒的な手軽さが、一度使うとやめられない体験価値につながっているのです。

さらに、継続利用を支えているのがフェアなプログラムです。継続期間に応じた割引や、積立額に対するコイン付与などは、課金額の大小にかかわらず全てのユーザーが対象です。宿泊体験記に対するコイン還元も、SNSのフォロワー数などに関係なく、誰にでもチャンスがある設計にしています。こうした公正な仕組みが、高い支持につながっているのではないでしょうか。おかげさまで、弊社のサービス継続率は99%という高い水準を維持できています。

コロナ禍の危機を脱し、次世代のために築く旅のインフラ

ーー事業を成長させる中で、最大のターニングポイントはいつでしたか。

砂田憲治:
やはりコロナショックです。2020年初頭、グローバル展開を加速させていましたが、国境閉鎖ですべての動きが止まりました。建設中のホテルなど固定費がかかる案件も多数ありましたが、躊躇していたら全てを失っていたでしょう。

外資系金融機関での経験から、撤退する判断は早かったと思います。一方で、安く売りに出されたホテルの運営受託に動くなど、常に次の機会を探していました。あの時期の判断が、会社の今を支えています。

ーー常に挑戦し、動き続けてこられたその原動力は何でしょうか。

砂田憲治:
「恵まれた環境にいる者には、次世代のため、他者の環境を良くするための行動を起こす責任と義務がある」と考えています。それは、自分の子どもや孫の世代がより良くなるよう行動することです。先進国で満たされた生活を送れる私たちがやるべきは、他者の環境を良くするための行動だと捉えています。

自分の自己実現欲求はあまりなく、自分が去った後、次世代が想像以上の世界で生きていてくれたら満足です。それが社会にインパクトを与える上でのプレッシャーであり、原動力かもしれません。

一方で、挑戦というよりは「面白いから、好きだからやっている」という感覚もあります。常に次のことにしか興味がないので、プロスポーツ選手が競技を続ける理由に近いかもしれません。かつて長崎の支店に立ち寄った際もすぐに次の目的地へ向かったため、「宿泊しないだけでなく、支店で立ち止まることもしないのか、泊まらないし、止まらない」と冗談を言われましたが、まさにその通りで、一つの場所にとどまることなく常に動き続けています。

ーー今後の事業展開と、その先に見据えるビジョンについてお聞かせください。

砂田憲治:
まずは大きく2つの軸に注力します。1本は前述したBtoB領域における「旅行業界のShopify化」の本格的な推進、もう1本は「HafH」の新規ユーザー獲得です。現在の会員数は約12万人ですが、あと10万〜20万人増えれば、次の100万人へと指数関数的に伸びるフェーズに入ると見ています。また技術面では、10年後にはAIとの対話だけで旅行手配が完結するのが主流になると予測しており、その実現に向けて特化型AIの開発も進めています。

私たちのミッションは、「多様な価値観を、多様なまま許容する社会のインフラを創る」ことです。旅行は他者を理解し、世界を平和にする力を持つ産業です。人類が700万年の進化の中で続けてきた「旅」という動きを止めず、誰もが自らの意思で気軽に旅に出られる社会インフラを築いていきたいと考えています。

編集後記

元外資系金融業界出身の砂田氏が旅行業界へ転身した背景には、市場の変化を予測し数値で価値を算定するという、金融工学に基づく確かな勝算がある。それに加えて、人類の進化と世界平和への貢献という壮大なビジョンが一貫した軸となっている。目指すのは、誰もが自らの意思で気軽に移動できる社会インフラの構築だ。硬直化した業界構造をシステムで解き放ち、次世代のために旅の可能性を拡大する。同社の取り組みは、多様な価値観が交差する平和な社会を実現するための、インフラ構築への確かな一歩である。

砂田憲治/福岡県生まれ。長崎海星高等学校、筑波大学卒業。日興コーディアル証券株式会社(現・SMBC日興証券株式会社)を経て、2011年よりドイツ証券株式会社にて上場企業の資金調達サポートに従事。同社株式資本市場部シンジケート責任者として、数多くの日本初となる案件を手がける。その後、株式会社KabuK Styleを創業し、代表取締役CEOに就任。つみたて旅行サービス「HafH」を運営し、約30年間ビジネスモデルが変わっていない旅行業界の変革とアップデートに情熱を注いでいる。