
奈良県に本社を置き、生活協同組合の物流事業を主軸として、電力小売や葬祭事業など、地域のくらしに寄り添う多角的なサービスを展開する株式会社CWS。同社を率いるのは、配達員からキャリアをスタートし、人事や経営企画を経てトップに就任した代表取締役社長の石田哲夫美氏だ。その仕事観の原点には、阪神・淡路大震災で目の当たりにした「当たり前ではない日常」がある。「理念は掲げるものではなく、運営するもの」と語る石田氏に、社員一人ひとりの思いを力に変える組織づくりと、事業を通じて社会に新たな価値を創造していくための信念を聞いた。
くらしを支える生活物流への意識変革
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
石田哲夫美:
私のキャリアは、市民生活協同組合ならコープから始まりました。最初は配達業務を担当し、その後は管理職として、人事や経営企画、組合員の活動支援など、幅広い部署を経験しました。
入協当初から崇高な志を持っていたわけではなく、地元での就職を選んだのが本音です。そのため、ここまで長く物流の仕事に携わるとは、当時は想像もしていませんでした。
ーーご自身に影響を与えたターニングポイントはありましたか。
石田哲夫美:
入協6年目の時に経験した阪神・淡路大震災、そして2011年の東日本大震災です。それまで担っていた生協の食品配送に対して、私は「商品は届いて当たり前」という感覚でいました。しかし、震災によって物流が遮断され、生活用品が届かないという過酷な現実を目の当たりにした際、その認識が覆されました。私たちが何気なく行っている業務は単なる配送ではなく、人々の命とくらしを支える「生活支援」であり、社会の重要な基盤そのものなのだと、その時初めて痛感させられたのです。
それからは、一つの欠品が消費者であり生活者である組合員に与える影響を、現実的に捉えるようになりました。以前なら「入荷しなかった」という事実だけで捉えていた欠品も、組合員にとっては「今晩のおかずが一品なくなる」・「雨の中、買い出しに行かなければならない」といった生活への直接的な支障となります。だからこそ、組合員が必要とするものを、あるべき姿できちんと届けることの難しさと重要性を深く胸に刻むようになりました。
社員の不安を解消した評価基準の確立
ーーCWSに入社後、特に注力された取り組みは何ですか。
石田哲夫美:
まず着手したのは、私がならコープからCWSに移籍するきっかけとなった「人事制度の改革」です。CWSが人財育成プロジェクトを立ち上げていた時期に、当時の社長から人事制度を整備したいという相談を受けたことが始まりで、私はCWSに迎えられました。
当時は数字中心の業績評価が主で、社員からは目標がどこまでも上がっていくことへの不安や不満の声が聞こえていました。そこで、給与が下がる社員を一人も出さないことを大前提に、そして「こうなりたい」という社員の思いやプロセスを評価できる仕組み創りをめざして取り組みました。
新たな評価制度の導入にあたっては、挨拶のような基本的なことから仕事のプロセスに至るまで細かく「社員=人財を見る」ということを徹底したく、あえて非常に多くの評価項目を設定しました。意識を変えるためには必要なことだと考えていました。導入後も、浸透するまでには多くの時間と労力がかかりました。しかし、より良く正しい制度運用のために、評価者への訓練研修の実施や評価面談の機会を増やすなど、社員一人ひとりと根気よく向き合い続けたことで、社員との関係性も徐々に良くなっていったと感じています。
ーー貴社の社長に就任された経緯をお聞かせください。
石田哲夫美:
CWSに移籍してから5年程経過した2018年、経営企画部長として、前社長に次年度の経営方針について相談をしていたところ、急に社長就任の話をいただきました。突然のことで非常に驚きましたが、同時に、断るという選択肢はないと覚悟を決めました。当時は社長になるというキャリアを微塵も描いてはいませんでしたが、ご指名をいただいた以上、それを全力で引き受けるほかないという強い思いがありました。
スローガンを実態に変える状態目標の実現

ーー改めて、貴社の事業内容や強みをお聞かせいただけますか。
石田哲夫美:
事業の主軸は、生協のグループ会社として「生活物流」を支える物流センター運営と宅配業務です。強みとしては、冷凍・冷蔵・常温という全温度帯の商品を一括で管理し、配送できる仕組みを構築している点にあります。何万点もの商品を最適な温度帯で確実にお届けするこの高度なノウハウは、他社には真似できない大きな競争力となっています。
それに加え、「安心と信頼による新しい価値を創造します」というミッションのもと、再生可能エネルギーを普及させる電力の小売事業や葬祭事業を行っています。さらに、地域の困りごとをお手伝いする便利屋事業「街のべんりやさん たすかる」など、多角的に事業を展開しています。
ーー組織を運営する上で最も大切にされていることは何ですか。
石田哲夫美:
理念は掲げるだけではスローガンに過ぎません。それをいかに「運営」という具体的な行動に変えていくかを最も重視しています。そのために、人の話(思いや考え)を「聴く力」と、自分の思いや考えを「伝える力」を持って欲しいと社員に伝え続けています。これらを実践することによって協力の輪が広がり、知恵が結集して、より良いものが生まれると考えています。誰かの指示で動くのではなく、それぞれが考えて行動することでさまざまな価値を創造し提供し続ける組織をめざしています。
さらに、説明会のような特別な場だけでなく、私たちの日頃の言動そのもので示していくことが不可欠だと考えており、私はよく社員に「状態目標を立てなさい」と伝えています。単に売上などの数字を追うのではなく、組織や自分自身を「どういう姿にしたいか」という理想の状態を具体的にイメージさせるのです。そうしてありたい姿から逆算して行動できるようになって初めて、理念が本当の意味で浸透したと言えるのではないでしょうか。
収益だけでなく誇りを重視する未来像
ーー最後に、今後の展望について教えてください。
石田哲夫美:
高齢化やドライバーなどの労働力不足・環境問題が深刻化する社会において、我々の事業が地域や人々のくらしにお役立ちできる機会はさらに増していくと考えます。生協事業をはじめ、利用運送を含めた運輸事業、葬祭事業や便利屋事業、関西圏へ広げたい電力事業、加えて新規事業の検討・展開に注力し、5年後には現在の売上規模から倍増させることをめざしています。
しかし、事業を拡大しても、私たちがめざすのは「商品・サービスを届けたら終わり」という考え方ではありません。ドライバーがお届け先の異変に気づき人命を救うこともあるように、商品・サービスを届ける以上の価値を生み出し、「ありがとう」と言われる品質こそが私たちの価値だからです。目先の売上や効率化だけでなく、自分たちの仕事に誇りを持ち、他にはない価値を創造し続けること。それこそが、私たちが描く未来です。
編集後記
大災害の経験を原点とし、生活物流を社会基盤として捉え直す視点が、事業全体に深く浸透している。リーダーが説く「理念は運営するもの」・「状態目標を持つ」という言葉は、組織を理想的な姿に導くための具体的な行動指針である。単に利益を追求するだけでなく、効率化を超えた「ありがとう」と言われる品質を追求する姿勢は、人々のくらしに寄り添う企業の強い使命感を示す。この姿勢は、働く上で、仕事を通じて得られる本質的な価値について深く考えさせるものだ。地域社会に根差し、着実に未来を創造する企業の確かな歩みがある。

石田哲夫美/1965年生まれ、奈良県出身。1988年、市民生活協同組合ならコープに入協。その後、2014年に株式会社CWSに移籍、人事教育マネジャー、経営企画部長などを経て2019年5月に代表取締役社長に就任。