※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

1888年の創業以来、横浜を拠点に球根や園芸品、繊維、食品など多岐にわたる商材を扱ってきた株式会社新井清太郎商店。130年を超える歴史の中で、同社は常に時代の変化に合わせた挑戦を続けてきた。現在は「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」の策定やテレワークの導入など、伝統の枠組みを超えた組織改革を推し進めている。異業種でのマネジメント経験を経て家業へ身を投じた代表取締役会長の新井文明氏に、変革への決意と未来への展望を詳しくうかがった。

異業種での「現場再建」から学んだ 組織を動かす本質

ーーまずは、貴社へ入社した経緯を教えてください。

新井文明:
私は大学卒業後、すぐに家業へ入ったわけではありません。当時はゼネコン(総合建設業)に身を置き、公共施設の運営を民間が代行する指定管理者制度の現場責任者を務めていました。具体的には、キャンプ場やゴルフ場、体育館といった施設の魅力度アップとサービス向上です。

当時は、集客のためのイベント企画から、スタッフの意識改革、行政との折衝まで、あらゆる実務を担当しました。立場や考え方が異なる多くの関係者を取りまとめ、一つの目標に向かって組織を動かす。この合意形成の難しさと醍醐味を20代で徹底的に叩き込まれたことが、私の経営の原点となっています。

2011年、4代目社長に呼ばれる形で合流しましたが、あの時の現場経験がなければ、今の改革は成し遂げられなかったでしょう。

ーーゼネコンでの経験は、具体的にどう今の業務に結びついていますか。

新井文明:
施設運営の現場では、限られた予算と人員で「いかにお客様に喜んでもらい、利益を出すか」という視点が不可欠でした。これは、商品をただ右から左へ流すだけでなく、独自の付加価値を求められる現代の商社経営と全く同じです。

現在は会長と社長の二人代表体制を敷いていますが、基本的に対外的な交渉を会長の私、組織内部の基盤づくりを社長の平野が担当するという役割分担をしています。ゼネコン時代、バラバラだった現場スタッフを対話でまとめ上げ、サービスの質を劇的に向上させた経験があり平野も同じ考えであったので、今の組織内部の立て直しにも自信を持って取り組めています。

「待ち」の姿勢を打破 個が動く「老舗ベンチャー」へ

ーー歴史ある組織を引き継ぐ中で、どのような課題を感じていたのでしょうか。

新井文明:
最大の課題は、長い歴史があるがゆえに、これまでの積み重ねによる収益基盤に知らず知らずのうちに頼ってしまっていたことです。結果として、組織全体が「慎重さ」や「守り」を重視する姿勢になっていました。しかし、変化の激しい現代では、これまでの延長線上にいるだけでは将来を描くことが難しくなります。そこで、社員が自らの意志で動ける組織にするため、まずは全従業員の羅針盤となる「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」を策定しました。

ーー組織を刷新するために、環境面ではどのような施策を打たれたのですか。

新井文明:
自律を促すため、働く環境の自由度を上げました。テレワークの導入やペーパーレス化を一気に進め、「仕事は決まった場所でする」という固定観念を払拭しました。

また、評価制度も作成し、若手でも自ら手を挙げれば新規プロジェクトに参加できる仕組みを作っている途中です。伝統を守ることとは、過去の形式を維持することではありません。時代の変化に合わせて正しく進化し続けることこそが、130年続く企業の責任だと考えています。

ーー「自律型組織」への変革は、実際の現場にどのような変化をもたらしましたか。

新井文明:
今は指名制でプロジェクトチームを作り、社員が自ら考えて形にしてくれています。たとえば、オフィスを新しくする為の「オフィス改善プロジェクト」、会社のロゴマークを作成する「CIプロジェクト」が実現しました。

かつてのような「背中を見て覚える」という曖昧な育成ではなく、教育を標準化し、誰もが挑戦できる土壌を整えたことで、社員の独創的なアイデアが収益に結びつくケースになることを考えています。社員が主役となって新しい商流を生み出す姿は、経営者として大きな喜びです。

ーー多岐にわたる事業を扱う中で、大切にしていることをお聞かせください。

新井文明:
私たちが提供するのは、利用者の期待を超える品質です。扱うものは球根からワイン、大手テーマパーク向けの衣料までバラバラに見えますが、すべてに共通しているのは、私たちが「本当に良い」と確信した一級品しか扱わないというプライドです。この品質への信頼があるからこそ、仕入先とも対等なパートナーシップを築くことができています。

共に「新しい歴史」をつくる仲間へ

ーー今後、どのような人材と共に働いていきたいですか。

新井文明:
自ら課題を見つけ、面白がって動ける方です。現在、40代前後のプロフェッショナルなキャリア採用を強化していますが、商社経験の有無は問いません。それ以上に、私たちの変革に共感し、一緒に「新しい老舗」をつくっていく気概を重視しています。

ーー最後に、貴社が目指す会社像についてどのようにお考えですか。

新井文明:
創業130年の看板に甘んじることなく、常に新しい事業が生まれ続ける「老舗ベンチャー」でありたいと考えています。その挑戦の積み重ねによって、食品や繊維といった各部門が、世界に通用する「新井清太郎ブランド」として広く認知されるはずです。誠実な商いという原点は守りつつ、社員一人ひとりの成長が会社の進化を牽引する。そんな活気あふれる組織をつくり上げていきます。

編集後記

創業130余年。その重みを「重圧」ではなく「進化のバネ」に変える新井会長。ゼネコン時代の地道な現場管理経験が、今の洗練された組織運営の裏付けとなっている点が非常に興味深かった。本物を扱う商人のプライドと、ベンチャーのような機動力。この両輪が、老舗商社をさらなる高みへと押し上げるに違いない。

新井文明/1977年7月東京都生まれ。大学卒業後、新潟県内の総合建設業に入社。緑地部、総務部、経理部、法面工事部、経理企画室に配属。経理企画室では、指定管理者制度の運営事業を行い、ショートゴルフ場、オートキャンプ場、体育館と様々な業種の責任者を担当。2011年4月株式会社新井清太郎商店に入社し、繊維事業を担当。2025年2月より同社代表取締役会長に就任。横浜貿易協会理事、神奈川経済同友会幹事などを務める。