
上場企業向けにIR支援や株主優待のDX化を手がけ、企業価値の最大化を追求する株式会社ウィルズ。機関投資家マーケティングツール「IR-navi」や、ポイント制の株主優待サービス「プレミアム優待倶楽部」といった、これまでになかった独自のサービスを展開し、業界内で確固たる地位を築いている。創業者の杉本光生氏は、サラリーマン時代に感じた業界の課題を自らの手で解決すべく、38歳で起業した。数々の障壁を乗り越え、前例のない挑戦を続けてきた杉本氏。これまでの歩みと、その先に描く日本の資本市場の未来像について話をうかがった。
理想と現実の乖離から見出した業界の課題
ーーこれまでのキャリアの経緯についてお聞かせください。
杉本光生:
新卒で株式会社リクルートコスモスに入社しました。将来の起業を見据えるなか、バブル崩壊に直面し、先輩が立ち上げた人材会社へ転職しました。
その後、別の先輩から「リクルートでの経験を持つ人材を探している人がいる」と、IR支援会社を紹介されたことが転機となります。当時はIRという言葉すら浸透していませんでした。しかし、本場アメリカでは不可欠な存在だと知り、日本でも主要事業を支える重要ポジションになると確信して、挑戦を決めました。
ーー同業界に入ってから、どのような課題を感じましたか。
杉本光生:
当初はアニュアルレポート(年次報告書)の作成業務が中心でした。しかし、どれだけ完成度の高いレポートをつくっても、顧客である企業の株価を上げることに直結しにくいという現実に直面しました。IRの究極の目的は企業価値の最大化、つまり株価の向上です。しかし、報告書の完成度をいくら高めても、実際の株価形成に直結しないという、理想と現実のギャップに直面していました。
ーーその課題を解決するきっかけとなったできごとについて教えてください。
杉本光生:
転機はロンドンのIR会社との接点です。外国人投資家の保有状況を網羅したデータベースに衝撃を受け、総代理店契約を結びました。そのデータベースは、「どの外国人投資家がどの日本企業の株を保有しているか」が一目で分かるものでした。早速この情報を大手企業へ持参したところ、年間400万円で即決されました。当時の一通の報告書制作に心血を注ぐ労働集約型のビジネスに対し、情報の提供だけで高い対価が得られるストックビジネスの可能性を確信した瞬間でした。
収益基盤の構築を経て着手した念願の開発
ーー起業を決意した背景について教えてください。
杉本光生:
そのロンドンで見たデータベースの日本版をつくれないかと、同僚と構想を練り始めました。しかし、当時勤めていた会社の社長に開発の初期費用を出してもらえず、計画は頓挫。その時、一緒に構想を練っていた同僚から「一緒に独立して、自分たちでやりましょう」と強く誘われました。当時の社長からは後継者として指名を受け、社長の椅子を譲るという、約束された安定した道もありました。しかし「道に迷った時は、一番厳しい茨の道を選べ」という師匠からの教えを思い出し、ゼロからの挑戦を決意したのです。
ーー起業当初はどのように事業を進められたのでしょうか。
杉本光生:
いきなり開発に全資金を投じるのはリスクが高いと考え、まずは初期投資のかからないコンサルティングやレポート制作で収益基盤を固めることにしました。そんな折、以前のお客様からコンペへの参加をご提案いただき、結果としてすべての案件を受注することができたのです。こうして初年度で約1億3千万円を売り上げ、そこで得た約3千万円の利益すべてを、念願だった「IR-navi」の開発に投じました。
ーー「IR-navi」完成後、最初の契約獲得まではどのような道のりでしたか。
杉本光生:
当初は実績がないという理由で、半年で500社を回っても契約は0でした。事業撤退も囁かれる中、誰もが認める実績を作るしかないと、国内屈指の大手電機メーカーに狙いを絞りました。最初は実績不足を理由に断られましたが、熱意を込めた4ページの手紙を送り、「まずは無料で2週間試してほしい」と直談判しました。その結果、正規料金での契約をいただいたのです。
業務効率化と満足度向上を両立した独自の仕組み

ーー個人投資家向けのサービスを始めたきっかけは何でしたか。
杉本光生:
きっかけは、株主向けの郵送物を5万通発送する際に起きたミスです。たった一言の修正のために、全社員で徹夜をして刷り直しの封入作業を行いました。「デジタルなら一瞬で直せるのに」という猛烈な不合理を感じたことが原点です。その後、ある企業から「16万人もの個人株主の管理コストを電子化で削減したい」と相談を受け、あの時の確信が事業へとつながりました。
ーー開発にあたってどのような工夫をされたのですか。
杉本光生:
どうすれば株主が自らオンラインで会員登録してくれるのかが最大の課題でした。そこで、個人投資家の方々を30人ほど集めて座談会を開き、直接意見を聞くことにしました。そこで、「魅力的なインセンティブがあれば会員登録する」というヒントを得て、登録してくれた株主にポイントを進呈し、そのポイントで好きな商品と交換できる「プレミアム優待倶楽部」の仕組みを考えました。
ーーサービスを導入した企業にはどのような成果がありましたか。
杉本光生:
ある企業で導入したところ、株主の約50%がオンライン上で会員登録をしてくれました。これは当時の業界の常識を覆すほどの高い達成率です。さらに、優待ポイントを目当てに株を購入する投資家が増え、結果としてその企業の株価は約30%も上昇しました。株主管理のデジタル化によりコストを大幅に削減し、同時に株主の満足度を高めて株価を向上させる。この独自の好循環を生み出すことに成功しました。
株主優待と納税を繋ぐ新たな循環の実現
ーー今後の新たな展開や注力されている取り組みについてお聞かせください。
杉本光生:
直近では、「プレミアム優待倶楽部」にふるさと納税の機能を追加しました。私たちは日本経済に貢献できる会社でありたいと常に考えています。政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて個人の投資を促し、同時に地方創生も重要な課題として取り組んでいます。そこで、株主優待で得たポイントを、そのままふるさと納税に利用できる仕組みを考案しました。これにより、株式投資が地方創生への貢献にもつながる、新たな好循環が生まれると考えています。
ーー将来的な展望についておうかがいできますか。
杉本光生:
世界中の投資家と上場企業が、より効率的にコミュニケーションができる世界を実現したいと考えています。そのための次の一手として、目下、海外機関投資家をメインターゲットにした新型の「IR-navi」を開発中です。このサービスを通じて、世界の金融市場と日本企業を結ぶグローバルな架け橋となり、株式市場全体の活性化に貢献していくことが目標です。
ーーどのような方々と一緒に未来をつくっていきたいですか。
杉本光生:
私たちは、まだ誰もやっていないことに挑戦し、新しい市場を創り出すことを目指す会社です。そのため、前例のないことにも臆せず、自ら道を切り拓いていけるような情熱を持った方を求めています。現在、営業職をはじめとする様々なポジションで採用を強化していますので、私たちのビジョンに共感し、共に成長していきたいという方は、ぜひ話を聞きにきてください。
編集後記
安定した環境を捨ててまで未知の領域へ挑む決断の裏には、机上の空論ではない、現場での経験に基づいた確信がある。大手メーカーとの契約を勝ち取った執念や、投資家の本音を直接聞き出す姿勢は、合理性が優先されがちな現代において、真に心を動かすものが何であるかを物語る。地方創生や経済への貢献を語る言葉の端々からは、一経営者の枠を超えた使命感が滲む。歩みの先に描く未来は、日本の資本市場に光を灯すはずだ。

杉本光生/事業会社を経て、株式会社アイ・アールジャパンに入社。その後、株式会社ストラテジック・アイアールの経営に参画。ジー・アイアール・コーポレーション株式会社取締役に就任。2004年、当社を設立し代表取締役社長に就任。30年に及ぶIRコンサルティングの経験を活かし機関投資家マーケティングツール「IR-navi」、個人投資家向け株主優待プラットフォーム「プレミアム優待倶楽部」をリリース。日本IR協議会メンバー。