
電気設備や空調工事を軸に、公共事業から民間の大規模工事まで幅広く手掛ける栄藤電気株式会社。大手にはない機動力と小規模事業者にはない組織力を強みに、安定した事業基盤を築いている。同社を率いる代表取締役の榮藤祐也氏は、音楽業界でキャリアを積んだ後、家業を継ぐためにUターンしたユニークな経歴の持ち主である。2代目としての逆風を乗り越え、「社員ファースト」の理念のもと、旧来の家業的経営から近代的な企業への改革を実行した。この記事では、社員にとって「働きたい」と思える会社づくりにかける榮藤氏の情熱と、業界の未来を見据えた成長戦略に迫る。
音楽への情熱が原点 異色のキャリアの始まり
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
榮藤祐也:
中学生の頃に海外アーティストの音楽に衝撃を受け、夢中になり、音楽の世界に興味を持ちました。それまでの私は内向的な性格でしたが、仲間とバンドを組み、人前で演奏する中で自分を表現する楽しさを知って殻を破ることができました。音楽と出会ったことが、人生の最初のターニングポイントだったと思います。
音楽に携わる仕事がしたいという思いから専門学校に進学し、卒業後は音響スタッフやアーティストの楽器を管理するローディーとして、6年間音楽業界でキャリアを積みました。
ーー音楽の道から、貴社に入社することを決意された経緯を教えてください。
榮藤祐也:
弊社は父が創業した会社ですが、私自身は家業を継ぐ予定はありませんでした。もともとは弟が事業に携わっていたのですが、社内の人手が足りない状況になり、父から「帰ってきてほしい」と頼まれたのが直接のきっかけです。東京での仕事がようやく安定してきた時期だったので悩みましたが、最終的にお世話になっていたアーティストの方へ相談しました。すると、「お父さんが困っているなら助けてあげなさい」と背中を押していただき、戻ることを決意しました。
逆風を乗り越え、信頼を勝ち取った道のり
ーー入社当時は、会社はどのような状況でしたか。
榮藤祐也:
今思えば、かなり厳しい状況からのスタートでした。会社の規模も現在よりずっと小さく、新たな跡継ぎとして東京から戻ってきた私に対し、周囲からはさまざまな目で見られていたのです。初代が偉大であればあるほど、2代目は誰よりも働いて当たり前、できて当たり前、と自分自身で勝手に思っていました。そうしたプレッシャーを常に感じており、いつも気を張っていましたね。
ーーその逆風の中、どのようにして信頼を築かれたのですか。
榮藤祐也:
地道に実績を積み重ね、成果を出すことで、周囲からの信頼を一つひとつ築き上げてきました。入社後はまず、現場の職人として、この業界の基礎を一から徹底的に学びました。30代前半で現場を管理する立場を任されると、今度は職人たちを率いてチームを動かす役割に変わりました。どうすれば個々の職人の力を最大限に引き出し、会社に利益をもたらせるか。試行錯誤を繰り返す中で、やがて売上や工期短縮といった具体的な数字で結果を出せるようになりました。
特に、協力会社の方々が先に私のことを評価してくださいました。地道かつ誠実に仕事と向き合うことで、少しずつ信頼を得られたのだと思います。
家業から近代的な企業へ 社員を守るルールと仕組みづくり

ーー経営において最も大切にされていることについてお聞かせください。
榮藤祐也:
「社員ファースト」を実践しています。これは、社員とその家族の幸せを第一に考えることを指します。社員が安心してやりがいを持って働ける環境こそが、会社の成長の基盤となります。そして、結果としてお客様への良いサービスの提供に繋がると信じています。
この思いを実現するため、旧来の「商店」のような家業的経営から、現代のルールに基づいた近代的な「企業」へと組織を改革することに注力してきました。
ーー具体的には、どのような改革を進めてこられたのでしょうか。
榮藤祐也:
私が最初に着手したのは、社員一人ひとりが安心して長く働けるための土台づくりです。そのために、まずは就業規則や賃金規則、雇用契約書といった会社の根幹となるルールを全面的に整備し直しました。専門家である弁護士や社労士の方とも連携し、誰もが公平なルールの下で守られる環境を目指しました。
人手不足はチャンス 未来を担う人材への期待
ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。
榮藤祐也:
公共事業やゼネコンの電気設備工事を軸に、電気、空調、弱電、計装関係などを幅広く手掛けています。弊社の強みは、大手企業にはないフットワークの軽さと、小規模な事業者にはない組織力や対応力を兼ね備えている点です。私たちはこの機動力を活かし、お客様からの信頼を得ています。
ーー建設業界の人手不足については、どうお考えですか。
榮藤祐也:
確かに業界全体の人手不足は深刻な課題です。しかし、私はこれを大きなチャンス、まさにブルーオーシャンだと捉えています。と言いますのも、建物のメンテナンスやインフラの維持など、建設業界への電気設備工事の需要は今後ますます高まっていくと見られています。一方で、職人の高齢化などにより、その仕事を高い品質で担当できる専門業者の数は、残念ながら減少傾向にあります。つまり、仕事は増えるのに、担い手が減るという状況が生まれており、私はこの傾向が今後緩和されることのない問題だと考えております。
だからこそ、今この業界で確かな技術を身につければ、仕事に困るどころか社会から必要とされる人材になれます。それは、非常に価値の高い、安定したキャリアにつながるはずです。弊社では、そのための環境を全面的に提供できます。
ーー今後の成長に向けて、特に注力されているテーマは何でしょうか。
榮藤祐也:
人材育成と採用の強化です。今後5年間で社員数を現在の倍である50人規模にすることを目指しており、そのための組織基盤づくりが急務です。幹部育成はもちろん、新しく入ってくれる仲間が成長できる仕組みづくりに力を入れています。人が育てばさらに新しい挑戦も可能になります。
ーーこれから仲間になる方々へ、どのような成長の機会がありますか。
榮藤祐也:
弊社では、資格取得にかかる費用は会社が全額バックアップします。働きながら学び、専門性を高めていける環境です。私たちが求めるのは特別なスキルよりも「元気」と「前向きな姿勢」です。仕事はゼロから丁寧に教えます。会社とともに成長し、将来的には組織の中核を担ってくれるような人材になってほしいと期待しています。私自身が率先して明るい雰囲気をつくっているので、ギスギスした人間関係とは無縁の、笑いながら仕事ができる会社だと自負しています。
編集後記
音楽の世界から一転、家業へ。榮藤氏のキャリアは異色だが、その根底には「仲間と共に良いものをつくりたい」という一貫した情熱がある。その情熱は「社員ファースト」という言葉を、組織のルール整備という具体的な行動で裏付け、社員が安心して働ける土台を築き上げた。業界の人手不足をチャンスと捉え、未来への投資を惜しまないその姿勢は、求職者にとって大きな魅力だろう。榮藤代表のつくる明るい雰囲気のもと、同社はこれからも多くの人材を惹きつけ、成長していくに違いない。

榮藤祐也/1980年兵庫県生まれ。キャットミュージックカレッジ専門学校卒業。音楽関連会社へ入社のため上京。その後、2006年に栄藤電気株式会社に入社。2025年4月に代表取締役社長に就任。