
1919年、広島県安芸郡海田町で建築請負業を創業。以来106年の長きにわたり、戦争、バブル崩壊、リーマンショックなどさまざまな困難を乗り越え、地域の発展に貢献してきたのが正田建設株式会社だ。1996年に代表取締役に就任した正田俊氏は、バブル崩壊後の苦境の中、どのようにして「お客さま第一主義」を貫いてきたのか。そして今、次の世代に何を託そうとしているか。正田氏に話をうかがった。
厳しい指導を受けて社長に就任
ーー社長の経歴をお聞かせください。
正田俊:
弊社2代目の社長だった父に、小さい頃から「お前は社長になるのだ」と言われて育ちました。ただ、大学を卒業後すぐには弊社に入社せず、名古屋の近藤組で2年修業しました。
近藤組での仕事はほとんどが現場です。県の仕事で100メートルの鶏舎を10棟建てたり、大型マンションに関わったりと、現場で良い経験をたくさん積みました。バブルの時代で仕事が途切れず、朝から晩まで現場漬けの日々でしたが、その分、非常に充実した2年間でした。同じ修行仲間との交流や一人暮らしの自由さも心地よくて、本当は帰りたくなかったほどです。
そのため、弊社に入社してからのほうが本当の修業だったと感じています。立場としての責任も重く、社員の目も厳しかったです。父も社員たちも本気で私を育てようとしてくれて、言葉遣い一つから厳しく指導されました。そんな周囲のサポートに助けられ、1996年に代表取締役に就任しました。
「面倒見がいい会社」と言われるのが何よりの強み
ーー貴社の事業内容について教えていただけますか。
正田俊:
弊社は広島県安芸郡海田町を拠点に、「お客さま第一主義」をモットーに地域に根ざした総合建設業を営む会社です。創業106年を迎えた現在、住宅や工場、公共施設まで、幅広い建設工事を手がけています。福祉施設やこども園などの実績も多数あります。注文住宅ではお客さまのライフスタイルや将来の変化に寄り添った自由設計に注力しています。
最近では、リフォームやリノベーション工事も増えてきました。古くなった住宅の価値を高める提案にも対応しています。設計事務所、行政とのネットワークを活かしています。そして、「地域とともに生きる建設会社」として信頼される仕事を心がけています。
ーー貴社の強みについて、どうお考えですか。
正田俊:
「面倒見がいい会社」と言われるのが何よりの強みだと思います。トラブルがあればすぐ駆けつけて、きちんと対応する。そうした対応の積み重ねでお客さまからの信頼を得て、次の仕事につながっていくのだと考えています。
お客さまの「感動した」が一番の喜び
ーー社長に就任されてから大変だったことはありますか。
正田俊:
就任当初、バブルが完全に弾けた影響で、官公庁の仕事が激減したことです。弊社はもともと民間比率が高かったため何とか持ちこたえましたが、それでも厳しい時期は続きました。社長になってからはずっと赤字続きで、内部留保を取り崩しながら耐えた時期もあります。父が贅沢せず残してくれていた資金があったからこそ、乗り越えられました。普通の会社なら潰れていたと思います。
一番つらかったのは、あるお寺の仕事です。一人の檀家さまの意向で「すべてやり直してくれ」と言われました。対応を考え抜いた結果、「お客さま第一主義」を貫くためにやり直すことを決断。ほぼ完成していた建物を、やむを得ず壊してつくり直したのです。社員が何か失礼なことをしたのかもしれませんが、理由は最後まで分からないままでした。お金以上に、建てたものを自分たちで壊すという経験は、本当につらいものでした。
ーー逆に、どんなときに最も嬉しいと感じますか。
正田俊:
やはり建物をお客さまにお引き渡しするときです。「感動しました」「あなたに頼んでよかった」と言っていただける瞬間は、何よりも報われます。建築は半年から1年という長い時間をかける仕事です。だからこそ、最後にお客さまと心が通じたと感じたときは、本当に嬉しいですね。
次世代に向けて若手の育成に力を入れる

ーー社内改革として取り組んでこられたことは何ですか。
正田俊:
「お客さま第一主義」は変えていませんが、時代に合わせて働き方を変えています。まず社員のために給与をベースアップしました。また、年間休日を増やしたり、バースデー休暇を導入したりしています。産後パパ育休制度を導入し、全国健康保険協会広島支部から「健康づくり優良事業所」として認定されました。加えて、昔は社員旅行もよくやっていましたが、今はバーベキューなど若手が集まりやすいイベントへの切り替えを検討しています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
正田俊:
会社を次世代につなぐために、今後は若手の育成に力を入れます。現在、お客さまとの関係構築は営業部をはじめ、経験豊富な工事部の社員が中心です。しかし本当は現場の若い人たちにお客さまと接してほしいと考えています。若いときに仕事を通じて信頼関係を築けば、必ず「次の仕事」につながる。私はそう信じて、若手に「とにかくお客さまのところに足を運びなさい」と促しています。
ーー最後に、建設業を目指す若い方へメッセージをお願いします。
正田俊:
建設業は絶対になくならない仕事です。建設業は昔は「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージがありましたが、今は働きやすくなっていますし、やりがいも大きいです。
半年から1年にも及ぶ工事期間中、お客さまと何度もお会いする間に関係が深まります。良いことばかりではなく苦情を受ける場面があるかもしれません。お客さまの思いを真正面から受けとめて誠心誠意対応すれば、関係はさらに深まるでしょう。そのようなプロセスを経て自分が手がけた建物が完成したときの達成感、そしてお客さまからの「ありがとう、あなたに頼んで良かった」という言葉は本当に格別です。人と関わるのが好きな方には、ぜひこの感動を味わってほしいと思います。
編集後記
「お客さま第一主義」は理念ではなく、現場で積み重ねてきた実践である。トラブルがあれば即対応し、感動を生む建築を目指す。その姿勢に106年企業としての強さと誇りを見た。加えて、会社を次世代につなぐための若手の育成への視点からは、未来への責任も感じ取れた。お客さまとの信頼関係をもとに「次の100年」に向けて歩み始めている同社の今後に期待したい。

正田俊/1958年、広島県出身。日本大学理工学部建築学科卒。株式会社近藤組に入社し、2年の修業期間を経て、1984年に正田建設株式会社へ入社。1996年に同社代表取締役に就任。