※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

顧客のデータを最適な仕様とコストで具現化する印刷のプロフェッショナル集団、株式会社CCG HONANDO。同社は、企画から発送までをワンストップで担う解決力を強みとする一方、業界の課題である環境負荷へいち早く着目。「カーボンゼロプリント工場(※1)」を実現するなど、時代に先駆けた改革を実行してきた。その変革を牽引するのが、2021年に社長に就任した工藤裕介氏だ。アルバイトからトップへ登りつめた類まれな経歴を持つ。現場を知り尽くしたリーダーが築いた、品質管理と環境経営の軌跡に迫る。

(※1)カーボンゼロプリント工場:「一般社団法人 日本サステナブル印刷協会」が認定する、Scope 1(燃料の使用に伴う直接排出)、Scope 2(他社から供給された電気等の使用に伴う間接排出)のCO2排出量が実質ゼロで稼働する工場の呼称。同社では工場で使用するエネルギーを100%再生可能エネルギー(バイオマス燃料等)にシフトすることでこれを達成している。

デザイナーから製版の世界へ アルバイトから社長を目指したキャリアの原点

ーー社会人としてのキャリアの歩みと、貴社への入社を決めた経緯についてお聞かせください。

工藤裕介:
専門学校でDTPデザインを学び、不動産広告を扱うデザイン会社でキャリアをスタートさせました。3年ほど下積みを経験する中で、データを渡す先である製版会社の仕事に関心が向きました。「このデータの先で、彼らは何をしているのだろう」という純粋な好奇心が湧き、ものづくりの裏側を知りたい一心で当社のアルバイト募集に飛び込んだのが始まりです。

ーーアルバイトとして入社された当時の現場の印象や思いについてお聞かせください。

工藤裕介:
入社当時はデジタル化の過渡期で、フィルムを手作業で貼り合わせる職人技が残っており、ものづくりの泥臭さと奥深さを感じました。また、キャリアに関しては、社会に出た2000年頃に見た「吉野家の社長がアルバイト出身」という報道が心に残っていました。「自分もいつかそうなれたら面白い」。そんな野心を密かに抱いてはいました。ただ、実際に打診を受けたのはコロナ禍の真っ只中です。先行きが見えない中でのバトンタッチに、「なぜ、よりによってこの時期に」と正直戸惑いました。それでも、巡ってきた好機と捉え、最終的には覚悟を決めて引き受けました。

正社員登用を経て現場のリーダーへ 「仕組みづくり」への挑戦

ーー正社員になり、直面した壁や課題はありましたか。

工藤裕介:
大手印刷会社とのお付き合いが始まったことが、大きな転機となりました。確固たる品質・環境管理体制の構築に迫られたのです。当時は、製造業においてISO(※2)などの認証を持っていると、受注につながりやすいという風潮もありました。ただ、社内には関連する知識を持つ者がおらず、まさにゼロからのスタートでした。外部セミナーへ足繁く通って知識を深め、自社に必要な認証を見極めながら、手探りで一つひとつ形にしていきました。

(※2)ISO(International Organization for Standardization):スイスに本部を置く「国際標準化機構」が定めた世界共通の規格。製造業においては、品質マネジメントシステムの「ISO 9001」や環境マネジメントシステムの「ISO 14001」などが代表的。なお、同社では情報セキュリティの国際規格「ISO 27001(ISMS)」を取得しているほか、環境に関しては「エコアクション21」を取得し、独自の品質・環境管理体制を構築している。

ーー社長就任後は、どのようなことに取り組まれましたか。

工藤裕介:
現場の次は「人」に関する仕組みを変えようと、製造部門の人事制度を改定しました。以前は評価基準が曖昧で、社員からすると「どうすれば評価が上がるのか」が分かりにくかったのです。そこで、階層ごとに評価する項目を明確にしました。もちろん、基準に達していなければ評価が下がる可能性も示さなければなりません。できている人が正当に評価される仕組みを作ることが、全体のモチベーション向上に不可欠だと考えています。

環境負荷の高い印刷業で挑む サステナブルなものづくり

ーー改めて、貴社の事業内容と、他社にはない強みについてお聞かせください。

工藤裕介:
私たちの主な事業は、お客様から完全データ(修正の必要がない印刷可能な完成データ)で入稿いただいた印刷物を製作することです。社内にデザイナーは在籍していません。その代わり、入稿されたデータをいかに効率よく、そしてコストを抑えて製造できるかという仕様や工程設計の提案を行っています。「この商品を、この納期までに欲しい」というお客様の要望に対し、印刷だけでなく、その後の封入作業や発送の手配までワンストップで対応できる解決力が私たちの強みです。

ーーその他に、貴社特有の強みと言えることはありますか。

工藤裕介:
環境負荷の低減に力を入れています。最大のきっかけは、印刷業界が抱える環境負荷への強い危機感でした。実は私たちの仕事は、紙の原料である木材をはじめ、機械を動かす電気や水、インクやプラスチックに含まれる石油など、多くの資源を消費します。「環境負荷の低減なくして、これからの社会で選ばれる企業にはなれない」という思いから、約15年前に活動をスタートさせました。

地道な改善を積み重ねた結果、会社全体でのカーボンニュートラルを達成することができました。2年前には、「日本サステナブル印刷協会」への参画を経て、「カーボンゼロプリント工場」の認定もいただいています。これにより、製造工程におけるCO2排出量をゼロとみなせるだけでなく、森林認証紙と組み合わせることで、より環境に配慮した製品をお客様へご提案できるようになりました。

社員のアイデアが形になる 全員参加で生み出すサステナブルな新商品

ーー「環境への配慮」としては他にどのようなことに取り組まれているのでしょうか。

工藤裕介:
紙製のクリアファイルを作成するなど、環境負荷のかからない商品の開発を行っています。2020年の東京オリンピックにおいて、あるお客様から配布用のクリアファイルをプラスチックではなく紙で作りたい、というご相談をいただいたのです。当時は海洋プラスチック問題が大きくクローズアップされていた時期で、環境意識の高まりを実感しました。このご要望が、環境活動に加えて自社での新商品開発に本格的に取り組むきっかけとなりました。

ーー具体的に商品開発の体制や仕組みづくりにおいて、どのような工夫をされているのでしょうか。

工藤裕介:
以前は新商品が年に一つ出るかどうか、という状況でした。そこで現状を打破すべく、グループ全社員からアイデアを公募する仕組みを導入しました。1カ月間アイデアを募集し、全社アンケートで1位になったものを商品化する制度で、発案者にはインセンティブも支給しています。ここから、紙製のクリアファイルやジグソーパズル型のコースターなどが実際に製品化されました。

何がお客様に採用されるかは分かりません。だからこそ、コンスタントに開発と提案のサイクルを回し続けることが重要です。現在は、公募で生まれたアイデアを形にする専門チームを設置したほか、新しい設備も導入するなど、会社全体で開発力を底上げする取り組みを進めています。

編集後記

「純粋な好奇心」がすべての原動力だった。工藤氏の話を聞いて、そう感じずにはいられない。未知の領域へ飛び込み、ゼロから品質管理と環境活動を築き上げた歩みは、そのまま同社の強固な基盤となっている。特に、業界の宿命ともいえる環境負荷の問題から目をそらさず、15年前から地道な活動を続け、「カーボンゼロプリント工場」へと結実させた歩みこそ、同社の真価を物語っている。社員全員を巻き込む商品開発の仕組みもまた、未来を切り拓くための挑戦だ。同社の取り組みは、ものづくり企業の新たな可能性を示している。

工藤裕介/1979年1月24日生まれ。2000年にECCコンピュータ専門学校を卒業後、2003年に株式会社ホーナンドー(現・株式会社CCG HONANDO)に入社。プリプレス製版オペレータ(アルバイト)からキャリアをスタートさせ、正社員登用後は生産管理、工場長として現場統括を経験。2021年に株式会社CCG HONANDOの代表取締役に就任。さらに2023年からは、創業のルーツである製本会社、株式会社邦南堂の代表取締役も兼務。現在はCCGグループの印刷事業全体を統括するかたわら、環境経営に注力するなど、次世代を見据えた組織づくりに尽力している。